どうしよう。
あかりの話を聞きながら、青葉は焦っていた。
こんなに、まだ前の男に未練がありそうな女なのに。
やっぱり、こいつのこと、好きかもしれない――。
青葉は、珍しく、けなげなことを言うあかりを見つめた。
ふだん、莫迦なことを言ってるときとのギャップが激しすぎて。
今すぐ抱きしめたいとか思ってしまう。
「ま、また来るっ」
青葉は唐突にそう言うと、慌てて店を出て行った。
……結局なにしに来たんだ、あの人。
青葉が帰ったあと、あかりは外に出て、さっき飾ったランプの光をひとり眺めた。
それから数日、青葉は困っていた。
駄目だっ。
あいつのことが気になって仕事が手につかないっ。
気がつけば、図書室で、恋愛の特集がしてある女性雑誌なんて見てるしっ。
「いや、そうだっ」
と青葉は雑誌を閉じた。
その勢いに、図書室の担当の女性が、なんですか、社長、という目で青葉を見る。
「ありがとう。
実に興味深い本だった」
と言いながら、青葉はその雑誌を元の場所へと返した。
その雑誌がですかっ?
と驚愕する彼女に軽く頭を下げ、青葉は早足で図書室を出ていく。
そうだ。
フラれようっ。
そう青葉は覚悟を決めていた。
さっきの本に女性の心理がいろいろと書いてあったが。
どう考えてもあいつは、前の男に未練があるし。
俺が告白したところで、振り向きそうにもない。
『叶いそうにないのなら、今の恋にケリをつけて、次に進むのもアリです。
魅力的な異性は他にもたくさんいるのですから』
と書いてあったではないか。
いや、俺に次の恋などないが。
次の仕事ならあるっ。
山のようにあるっ。
きっとすぐにあいつのことなど忘れられるはずだっ。
女性に振り回されるなんて、俺らしくもない。
さっさとフラれて、早く元の自分に戻るんだっ。
そう思い立った青葉は、昼過ぎ、出かける用事のついでに、あかりの店に寄ってみた。
だが、あかりは店にはおらず、例の子どもたちが外に群れていた。
……増えてる。
子どもたちの数は二倍に増えていた。
さっきの本に女性の心理がいろいろと書いてあったが。
どう考えてもあいつは、前の男に未練があるし。
俺が告白したところで、振り向きそうにもない。
『叶いそうにないのなら、今の恋にケリをつけて、次に進むのもアリです。
魅力的な異性は他にもたくさんいるのですから』
と書いてあったではないか。
いや、俺に次の恋などないが。
次の仕事ならあるっ。
山のようにあるっ。
きっとすぐにあいつのことなど忘れられるはずだっ。
女性に振り回されるなんて、俺らしくもない。
さっさとフラれて、早く元の自分に戻るんだっ。
そう思い立った青葉は、昼過ぎ、出かける用事のついでに、あかりの店に寄ってみた。
だが、あかりは店にはおらず、例の子どもたちが外に群れていた。
……増えてる。
子どもたちの数は二倍に増えていた。
子どもたちは外で口々に怪しい呪文を唱えている。
アブラカタブラ 寿限無寿限無
テクマクマヤコン マハリクマハリタ
ラミパスラミパス パンプルピンプルいまそかり~。
……なんか宗教でもやってんのか、この店は、という感じだった。
薄暗い店内にはランプがいっぱいぶら下がってて、怪しい雰囲気だし、と思ったとき、子どもたちが話しかけてきた。
「あ、あのときのおにーちゃん、呪文教えて~」
「なんか呪文増えてないか?
お前ら」
と訊いたら、あれから何度もあかりが教えてくれたのだと言う。
「すいへーりーべー ぼくのふねー しゃらんら~」
「……お前ら、賢さが上がってってるな」
しゃらんらは書くなよ……、と言ったが。
「いいから教えてよ~」
と言われる。
青葉は困り、いつか、あかりがやっていたように、忍者がドロンと消えるみたいに、指先を重ね合わせた。
「ち、ちちんぷいぷい」
竜崎あたりが見たら、
「……社長、なにやってるんですか」
と呆れそうだなと思いながらも、やってみたのだが。
子どもたちは容赦なく追求してくる。
「それ、なにになるの?」
「それ、なにが起こるの?」
「それ、なにかが現れるの?」
青葉は困った顔を見せずに困っていたが。
そこで、パチンと指を鳴らし、子どもたちの後ろを指差した。
「ほら、おねーさんが現れた」
一斉にみんなに振り返られ、買い物袋を手に戻ってきたあかりが、え? という顔をする。
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