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「いや~、ありがとうございますっ。
最近、呪文のネタ尽きちゃってて~」
いや、今まで尽きなかったことがすごいが……とカウンターに買い物袋を置くあかりを見ながら、青葉は思っていた。
「木南さん、お昼食べられました?」
いや、と言うと、
「どっちも美味しそうだったんで、選べなくて。
お弁当、二個買ってきちゃって」
とあかりは笑いながら、近所のお弁当屋さんのお弁当とやらを出してきた。
二個買ってどうするつもりだったんだ……、
と青葉は出来立て、ほかほかのお弁当を見る。
「一個、冷凍しようかと思ってたんですけど。
やっぱり、作りたてが美味しいから、おひとついかがですか?
いろいろサイトやお店のご相談にも乗っていただいてるんで、おごりますよ」
「だが、二個ともお前が食べたくて買ってきたんだろ?」
「じゃあ、半分こずつにしましょうか。
それか、じゃんけん」
あかりの屈託のない笑顔を見ながら青葉は思う。
半分ことか、じゃんけんとか。
まるで、中高生のカップルのようだな。
当時、自分には縁のない世界の出来事だ、と思い、中庭の木の下とかで、仲良さげにしているカップルを冷ややかに眺めていたのだが。
大人になった今、この俺に、そんな状況が訪れるなんてっ。
なんか予想外に嬉しいんだがっ。
俺は実は、こうして女子と、弁当を半分こしたり、じゃんけんしたりしたかったのかっ?
それとも、相手がこいつだから、嬉しいだけなのかっ?
「あ、もしかして、これからどこかで、ランチとか会食とか予定ありました?
それか、社食の数のノルマがあるとか」
なんだ、社食の数のノルマって……と思いながら、
「いや、ない」
と青葉は言う。
急いで来てフラれようと思って出てきただけで。
特にランチの予定はない。
青葉は、あかりとふたりでカウンターに並び、お弁当を食べた。
さっきの子どもたちの話をする。
「いや~、ほんと助かりました。
ネットでそれっぽい呪文調べたり。
すぐに叶いそうな呪文の効果を考えたり、大変だったんで」
とあかりは笑う。
「……仕事にもそのくらい熱心になれよ」
青葉は、そんなに売れてなさそうな店内の商品を見回しながら言った。
「ところで、前から気になってたんだが、あの奥の蒼い扉はなんだ?」
奥の白い壁に蒼い扉が立てかけてある。
最初はトイレかなにかかと思ったが、ただ立てかけてあるだけのようだった。
金色のノブのついたその扉を見ながら、ああ、とあかりは笑う。
「ここに最初、ついてた扉です。
ちょっとガタが来てるから変えましょうって言われたんですが。
なんか気に入ったので、そまま引き取って飾ってるんです」
「ふうん。
異国風なこの店の雰囲気にあってていいなと思って、見てたんだ」
そうなんですか、ありがとうございます、と言ってあかりは照れた。