エルフの里から少し外れた所。最後に送り届けたのはリゥパだ。彼女は時間が遅くても大丈夫とのことだったので、朝食もムツキの家の方でしっかりと食べてから送られた。
「ムッちゃん、ぎゅー♪ ちゅー♪」
リゥパがハグとキスをせがむので、ムツキはそれに応じて優しく抱きしめた後に唇と唇を軽く重ねるキスをした。せがんだ彼女の方が嬉しさのあまりか恥ずかしさからか黙ってしまう。
彼女は樹海の中に相応しい長袖に長ズボンという出で立ちである。本人曰く、まったくかわいくないということだが、露出のある格好で肌を傷付けるのもバカバカしいと思っていて、渋々そういう格好をしていた。
「ははは……かわいいな。メイリとほとんど同じだぞ。メイリは、ちゅーしなかったけど」
他の女の子の名前が出たためか、リゥパが少しムッとした顔で、ムツキから少し離れ、自分の人差し指を彼の口に当てて、静かにというポーズをする。
「今のは減点。ねぇ……最近、メイリばかりかわいがってない? たしかにメイリはかわいいけど、ムッちゃん、贔屓はダメよ? みんなに平等がモットーなんでしょ?」
そう言い終わった後にリゥパは表情を笑顔に戻しつつ、人差し指を下ろす。
「うーん……そういうつもりはないけど、そう思わせたならごめんな。そう思わせないようにがんばるよ。それで許してくれるか?」
ムツキは申し訳なさそうに頭を掻いた後に、素直に謝った。
「よし! それなら、よし。なんだかんだ言ったけど、私ももっと甘えたいだけよ♪」
「よしよし」
その2人のやり取りを呆れ顔と呆れた目で見ていたのは、白フクロウのルーヴァだった。
「そろそろいーかしら? あーしはいいけど、早くしないと帰るのも遅くなるわよ?」
ルーヴァは少し眠たげにしている。彼女は樹海の中では夜行性だが、ムツキの家では皆に合わせて昼行性にしてくれていた。つまり、今の彼女は就寝前ということになる。
「そういや、最近、ルーヴァは家に居てくれないな? 何か不満があるのか?」
「えー、不満はないというかー、なさすぎるのよねー。あそこに慣れちゃうと樹海での暮らしに影響があるから、あえてー、って感じ。あーし、多少不便な方が生きてるって感じがして好きなのよねー」
ルーヴァの持論にムツキは顎に手を当てて思案顔になる。
「ふーん、そうか。そういうものなのか。まあ、いつでもいいから家に居て、モフモフさせてくれ」
「ムツキ様……いくらなんでも、欲望がダダ洩れ過ぎない? それにあーしの場合、モフモフとは少し違う気もするけどね」
ルーヴァがジト目でムツキを見ていると、リゥパが何かを思い出したかのようにムツキに再び抱き着く。
「ねえ、ムッちゃん」
「ん?」
「もし、早く帰れたら、ムッちゃんを独り占めしていいのかしら?」
リゥパがまだ抱き着いたまま、ムツキを色っぽい上目遣いで見る。
「んー。まあ、ユウ次第だけど、できるならいいんじゃないか? 他のみんなは3日ほどいないからな。リゥパがそれよりも早ければ?」
リゥパは嬉しそうな顔をしてより強く抱き着いた。
「やった♪ 張り切って終わらせてくるわ」
その後、リゥパはムツキから離れて里の方へと歩こうとする。
「期待してるよ。みんながいないと寂しいからな」
「へぇ……モフモフ好きのムッちゃんから、そんな言葉が出るとは思わなかったわ」
リゥパがイジワルな笑顔でそう言ってみると、ムツキは困った顔をした。
「モフモフも好きだが、リゥパ、ユウ、ナジュミネ、サラフェ、キルバギリー、コイハ、メイリ、みんな好きだからな。ちょっとでもいなくなるのは寂しいものさ」
「嬉しいことを言ってくれるわね。あと、ちゃんと私を最初に言ったのはポイント高めね。まあ、たまに寂しいくらいがちょうどいいかもしれないわよ?」
そのリゥパの言葉に、ムツキの顔は本当に寂しげな表情になる。
「寂しいのはちょっと嫌だな……」
「ムッちゃん……そんなに寂しそうな顔をしないで? 速攻で帰るからね!」
リゥパは普段とのギャップにやられたのかキュンとしたようで、少し鼻息荒めに答えている。
「あぁ……帰りは迎えに来なくていいんだよな?」
「そうね。いつになるか分からないし、そこまで遠くないしね」
リゥパは親指をグッと突き立てて、大丈夫だと伝える。
「それじゃあ、またな」
「またね♪」
ムツキが【テレポーテーション】でいなくなったのを確認してから、ルーヴァがリゥパの肩に留まって話しかける。
「あーた、あの儀式、いつも3,4日はかかってるじゃない。下手すると、あーたの帰りが一番遅くなるわよ?」
「そうよ。だからこそ、早く終わらせたい気持ちでがんばるわ!」
いつも以上のやる気を見せるリゥパを見て、いつもこれくらいで頑張ってくれると助かるんだけどな、と心の底から思うルーヴァだった。
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