テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
氷咲 吹雪❄
137
378
716
猫アレルギー
246
「……葵、本当に大丈夫?」
ガタゴトと規則的な音を立てて走る汽車の車内。 向かいの席に座る正一が、覗き込むように顔を近づけてきた。
「えっ!? あ、うん! 大丈夫よ、何が?」
「だって、さっきから矢絣の裾をずっとぎゅっと握りしめてるから」
言われてハッと自分の手元を見る。 新しく新調した矢絣の袴の生地を、無意識に握りつぶしてしまっていた。慌てて手を離し、シワを伸ばすように撫でる。
(……情けないわね、わたし)
頭をよぎるのは、前回のあの凄惨な城の地下室。
あの拷問地獄の中、自分は恐怖で足をすくませてしまった。
正一の恐ろしいまでの呪殺術に救われたけれど、もし一歩間違えていたら――自分が足を引っ張ったせいで、正一を死なせていたかもしれない。
「葵」
不意に、優しく包み込むような温もりが手に重なった。
見上げると、正一がいつもの不気味な狂気を欠片も見せず、ただ穏やかな瞳でわたしを見つめていた。
「無理しなくていいんだよ。僕は、葵とこうして汽車に乗って遠出できるだけで飛び上がるほど嬉しいんだ。……葵は葵のままでいい。突飛な発想で僕を驚かせてくれる葵が一番格好いいんだから」
ぎゅっと、握られた手に力がこもる。
「何があっても、僕が葵を守るから」
「っ……!」
心臓がドクンと跳ねた。 いつもは頼りないか、あるいは恐ろしい呪いを使う男の子だと思っていたのに。
まっすぐに自分を肯定してくれるその眼差しと、大きな手の熱に、顔が一気に熱くなるのが分かった。
「な、なに言ってるのよバカ! わたしだって足引っ張るつもりはないんだからね!」
勢いよく手を振り払って窓の外へ顔を背ける。 絶対に、真っ赤になった顔を見られたくなかった。
(なによ……そんな男男した顔、ズルいわよ……)
胸の奥がキュンと甘く痛むのを誤魔化すように、わたしは深く息を吐き出した。
コメント
1件
みぅです🥀読んだよ〜第8話。 前回の地下室がトラウマになってて、無意識に袴を握りしめちゃう葵ちゃん…めっちゃわかるよ、その気持ち。正一くんが「葵のままでいい」って言って手を握ってくれたところ、ぎゅってなった。いつもの狂気がなくて、ただ優しい眼差しで見つめてくるの、反則すぎるよ…!最後に顔真っ赤にして窓の外向く葵ちゃん、超かわいかった🤍次が気になる〜!