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第1話、読ませていただきました🌷 雨の日にふと入り込んだ「秘密基地」――りうちゃんのギターの音が、どこか澄んでいて、胸の奥にじんわり沁みました。ほとけっちが涙を見せたときの、しょうちゃんの背中に置かれた手の温かさが、とても優しかったです。3人の距離の詰まり方が無理がなくて、自然に世界が広がっていく感じが素敵でした。続きが気になります!
※以下のお話は本人様とは一切関係ありません!それではどうぞ!!
『濁った海の、澄んだ底で』
夏の終わりにしては少し寒い日の海。寄せては返すだけの波の音が、あの華奢な笑い声をさらっていった。空には黄金色色に輝く月の輪。
5月のやけに重たい雨がスニーカーから靴下の先をじんわりと濡らしていくのを感じながら歩く。手にはビニールに入った多めのプリント。放課後に職員室で先生から押し付けられたものだった。「稲荷、大神と家近いよな。これ届けてくれ。」
これからプリントを届けに行くのは僕よりも一学年下の子で、りうらって名前らしい。まだ5月なのに、入学してすぐに学校に行かなくなったのだろう。
「えっと、ここかな…?」
大きな一軒家は見た目に反して静かだ。表札を確かめて、インターホンを押す。ピンポーン……反応がない。居留守かな。学校からプリントを持ってくるようなやつなんて1番会いたくないに決まっている。
「休んだ分のプリント届けに来ただけだから…ポストに入れておくね。」
僕が不登校だったら多分居留守を使うだろう、なんて多分起きなさそうなことで妄想をしながら、片手で郵便受けに紙を捩じ込もうとしたその時。
ガチャッ、、と遠慮がちな音と一緒に半分だけ扉が開いた。
「あっ、、」
そこに立っていたのは少し大きいパーカーを着た、あどけない顔立ちの男の子だった。彼は僕の着ているブレザーをじっと見つめ、その後に僕の顔を見て、きょとんとしていた。
「あの、わざわざありがとうございます。」
「ううん、全然。これ、大事な書類らしいから。」
しっかりと目が合う。手渡そうとした瞬間だった。
「ふはっ!!やばい、負けそうなんやけど!!りうらはよ戻ってー!」
大神くんの背後に続く、暗い廊下の奥の方からびっくりするくらい緊張感のない声が響いてきた。なんだか聞き覚えのある関西弁。別に何があるわけでもないが、どきんとした。
「げ、稲荷クンやん…お疲れー。」
ひょっこり顔を出したのは片手にポテチ、もう一方にゲームのコントローラーを持った忙しそうな少年。
同じクラスの同級生、有栖初兎だった。
「えっ、初兎くん…!?なんでここに……今日学校は…?」
そういえば今日はしょうくんは途中から学校にいなかった。
「んー? サボった。3時間目あたりからなんかだるくてさー。ここ、俺の避難所やから。」
しょうくんは特に悪びれる様子もなく笑って、ポテチを食べはじめた。学校ではいつも別のグループの子とつるんでいて、面と向かったのはこれが初めてかもしれない。
学校をバックれて、不登校の後輩の家でゲームをする。僕の中では、想像もできないような行為で少し戸惑った。
「えっ、2人って同じクラスなの??」
大神くんが目を丸くして、今度は僕としょうくんをみつめる。
「そうそう、学校じゃ全然話したことないんやけどな。」
そう言ってしょうくんが初めて気まずそうな顔をした。
「先輩、雨強くなってきてるし一旦中に入らない?しょうちゃんゲーム下手くそだから俺、話し相手欲しい…」
人懐っこい笑顔で腕を引っ張られる。
「あ、待って、僕は帰らなきゃ…」
「なんかあるの?ねぇ、ちょっとだけでもさぁ、、」
拒絶の言葉は、しょうくんの「ほら、お前も少しぐらいええやん。サボっちゃえ。」という低い声と眼差しにかき消された。不思議なことに、2人の悪魔のような誘い文句は冷やかしも嘲笑もなくて、驚くほど優しかった。
引きずられるようにして上がった、六畳間。そこは大人の気配が一切しない、世界から切り離された『秘密基地』だった。
テレビにはゲームの対戦画面が映り、床には漫画やクッションが散乱している。ベットの脇には、一本のアコースティックギターが立てかけられていた。
続きの◯リオカードをしている大神くんは迷ったような素振りを見せる。
「えーっと、、名前なんていうの?」
「ほとけ、です!!」
「ふーん。これから、ほとけっちってよぶね、!!」
ほとけっち、聞き慣れないけど悪くはない。
「りうらもあだ名で呼んでよー!!」
「うーん、りうちゃん とか?」
りうちゃんはアハっと声を出して本当に嬉しそうに笑った。
「2人だけ急にマブいやん。俺のあだ名はー、、いむくん??」
ジト目で僕らをにらみつけるしょうくん。しれっとあだ名。りうちゃんとしょうちゃん、
「君のあだ名は、しょーちゃん!!」
「しょうちゃん!かわいいあだ名!!」
りうちゃんが褒めると、しょうくんは俯きがちに小さな八重歯を見せて笑った。こんなにかわいく笑う子だったんだ。
「いむくんはさ、真面目なんよね。まずはさ、その堅苦しい上着脱いで適当に座ればええよ。」
僕を横目に見ながら、座るどころか寝っ転がり始める。
「おい、あくまでもここ俺の部屋な!笑 ま、別にテキトーにしてていいけど。」
僕はひんやりとする制服の上着のボタンに手をかけて、それを床においた。体が信じられないくらい軽い感じがする。足を少し崩して、りうちゃんが置いてくれたコーラを口に含んだ。
しばらくした後、僕らはゲームに飽きてきていた。口を開いたのはしょうちゃん。
「りうら、いむくんにギター弾いてあげてや。こいつ耳がええんよ。」
「えっ、!! 人前で弾くの緊張するんだけどなー!」
そう言いながらも、りうちゃんはベット脇に大事そうに置かれたギターを嬉しそうに抱え、少し離れたベット際に腰掛けた。
細い指先が、ポロン、とはじめの音をかなでる。
ギターが拙いコードで、優しいメロディを紡ぎはじめた。
窓の外で降り続く雨の音と、りうらのギターの音、そして隣にいるしょうちゃんの静かな呼吸の音。
学校のチャイムも、先生の嫌味な小言も、両親の「期待してるよ」という言葉もここには一切届かない。3人だけの小さな居場所。
「綺麗、な音だね…」
鼻の奥の方が熱くなって、涙が頬をつたった。
「えっと、、ほとけっちないてる?大丈夫…?」
りうちゃんの手が止まる。ギターをそっと床に置いた。
「っ、ごめん…、、急に、、」
「泣いてもええんやで…、普段頑張ってるんやね。」
しょうちゃんはそっと僕の背中に温かい手を置いてくれた。りうらくんはティッシュを差し出してくれる。自分でもびっくりするくらい、自然に涙が溢れて止まらなかった。
この日から、3人の世界が色を持ちはじめる。