テラーノベル
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「はあっ、はあっ……!」
熱気の渦巻く、淀んだ空の下。
俺は拳を握りしめ、目の前の光景を凝視する。
「頼む、頼む……負けるな……!」
心臓が早鐘を打つ。
俺はひたすらに祈る。
歯を食いしばって願う。
しかし、現実は酷く残酷だった。
俺の目の前で、俺の希望はどんどん失速していく。
あと少し、あと少しだというのに。
「行け、行けフレイム! 頼む頼む頼む……!!」
俺は彼女の名を叫ぶ。
まばたきも、呼吸も忘れて懇願する。
が、次の瞬間。
『アクアナイト、ゴールイン!』
高らかなアナウンスが響き渡る。
『二着トールフラワー、三着ダークウイング、四着サー・フォレスト! そして五着フレイムクイーン!』
アナウンスは正確だった。
俺のフレイムクイーンは、俺の応援していた競争魔獣は、負けた。
そして俺もまた、競魔という賭けに、負けた。
俺の、フレイムクイーン。
俺の、全財産(2万エル)。
「…………」
俺は天を仰ぐ。
他の観客たちのものだろう、「外れ」の賭け券が空を舞い、まるで雪のようだ。
胸いっぱいに息を吸い、俺は握りしめていた賭け券を、その雪空の中へと力いっぱい放った。
「ちくしょーーーーーッッッ!!!」
俺は叫ぶ。
しかしその慟哭は、一着ゴールの魔獣・アクアナイトを称える歓声の中に消えていった。
***
クソッたれの神様がおわすならこんにちは、ごきげんよう。
俺の名前はカレム・ドラコニス。
36歳男性、独身、結婚詐欺以外で恋人ができたためし無し。
職業はろくでなしと狂人しか居ないと評判の冒険者。
今しがた競魔で有り金全部スりました。
ちなみにお金は自前のものではなく、パーティーでの共有財産です。
「……クソッたれは俺か! がはは!」
なんて笑いながら、俺は宿へと帰る道をできるだけ遅く歩いていく。
なぜならこの先、十中八九起こるであろう展開への対策を考える必要があるからだ。
「『財布をスられました』……『貧しい子どもが居たのでお金を恵みました』……『騙し取られました』……」
真っ赤な嘘をいくつか考案し、どれが一番それっぽいかを吟味する。
肝心なのは俺の信用度だ。
下手に聖人っぽい行いを申告すると、それだけで嘘だと即バレする。
ほどよく俺らしく、かつ俺に非が無いような、上手いシナリオを考えなくては……。
「あ」
ふと顔を上げると、いつの間にか宿が目前まで迫っていた。
タイムオーバーだ。
これ以上の時間稼ぎは逆効果だとよく知っている俺は、服の襟を正し、何食わぬ顔で宿の扉を開ける。
「おかえり」
「うおっ」
俺は思わず仰け反る。
扉をくぐって足を踏み入れたすぐそこでは、1人の若い女が仁王立ちをしていた。
俺と同じ冒険者パーティーの一員である、ベルミリオ・パッセだ。
ベルミリオはポニーテールにした赤い髪を揺らし、金色の目で俺を睨みつける。
「遅かったじゃん。あーし、お前が買い出しから帰ってくんの、ずーっと待ってたんだけど?」
「お、おお。ちょっとな」
やっべ、そういえば食料を買ってくるっていう体で外出したんだった。
「いやあ、どこも良い保存食が売り切れでなあ。時間だけ食って骨折り損だったよ。参った参った」
俺はそう言い、笑って誤魔化す。
どうだ……? いけるか……?
「へー、そうだったんだ。ごくろーさま」
お、いけたっぽい。
「ところで今日の競魔、大荒れだったらしいじゃん?」
流れ変わったな。
「そ、そうなのか? いや、俺は見てないから……ふーん、大荒れだったのかあ」
まだ助かる! まだいける!
シラを切り通すんだ!
俺は全力で「初耳ですが?」の顔をする。
「あれ?」
と、前方の階段から声が降ってきた。
見れば、手すりに寄りかかって笑う少女が1人。
つやのある黒髪をツインテールにし、桃色の目でいたずらっぽく細める彼女の名は、ニーグル・トトサルペ。
ベルミリオと同じく、パーティーの仲間だ。
ニーグルは俺が宿を出る前に、既に別件でどこかに行っていたが、どうやら先に戻ってきていたらしい。
だがこれは好都合。
彼女を利用して、話題を逸らさせてもらうとしよう。
「競魔で負けたざこおじさん、ようやく帰ってきたんだ?」
終わった。
なんで知ってるんだこのガキ。
「へーーえ。やっぱそうだったわけ?」
「ち、ちが……! これには誤解というか、重大な行き違いがあってだな!」
「黙れこのろくでなし!!」
ゴッ、と鈍い音がして、顔面に衝撃が加わる。
目にも止まらぬストレートパンチ、見る人が見たら賞賛ものだろう。
死ぬほど痛い。
「てめえ、よくこんなバカスカ浪費できるよなァ?! 『8割無能』の分際でよォ!!」
「きゃははっ! ざーこざーこ! 生活能力込みで勘定したら10割無能じゃなーい?」
「ごめんごめんごめん! ちょっと魔が差したんだって! もうやらないから!」
俺をボコスカ殴る蹴るなどするベルミリオ。
それを笑いながら――と言いつつこめかみに青筋が浮かんでいる――ニーグル。
されるがままの、俺。
なお宿に入ってきた時から女将が奥のカウンターに立っているが、物凄く冷たい視線を向けてくるだけで特に何もしてはくれない。
おお、神よ。
哀れな俺を救い給え……。
徐々に俺の意識は、普段は毛ほども信じていない神に都合良く祈り始めるくらいに遠のき始める。
今日こそ殺されるのかもしれない。
パーティーのお金を競魔でスっただけなのに……。
いよいよそんなふうに覚悟した、次の瞬間。
「ただいま戻りました」
扉が開き、1人の美青年が宿に入ってくる。
神秘的な白髪に、紫色の目。
美女と見紛うほど中性的できれいな容貌をしたそいつの名は、アルバ・ティグリス。
俺、ベルミリオ、ニーグル、そしてこのアルバの4人で、パーティーメンバーは全員だ。
「おや……また喧嘩をなさっているのですか」
アルバは市場で買ってきたのであろう傷薬が覗く紙袋を置き、そっと俺の傍らにしゃがみ込む。
「喧嘩じゃないし。このおっさんがまたあーしらのお金をドブに捨てやがったの。だからその制裁!」
「まあ、まあ。それでも暴力は良くありませんよ」
怒り狂うベルミリオをやんわりと俺から引き離し、アルバは言う。
しかし俺は、「助かった」とは思えなかった。
むしろ状況が悪化したとまで言える。
なぜなら――。
「それに、カレムさん。いつも言っているでしょう」
やばい、“来た”。
身震いをする俺の肩に手を置き、アルバは続けた。
「あなたを養う準備は常にできています。私に一言、申し付けてくだされば、いつでも……そう、今すぐにでも……あなたを庇護して差し上げられるのです。ずっと、一生、私の元で」
そう。
「これ」である。
アルバは異様に俺に優しく、事あるごとに俺を自分のものにしようとしてくるのだ。
尊敬と言うには行き過ぎているし、庇護欲と言うには重た過ぎる。
なんなら恋愛感情ですらないらしい(以前恐る恐る本人に聞いてみた)。
本当に意味不明だし怖すぎる。
こんなおっさんに何を思って、こんなに肩入れしてくるのか。
仮にこいつが俺好みの美女だとしても、若干恐怖が勝つだろう。
「ああ……よくよく見れば、また髪の毛が痛んでいますね。肌も荒れていらっしゃる……。食事が偏っているのと……睡眠時間が減っているでしょう。もし夜、上手く寝られないというなら、私が睡眠導入の魔術をかけましょうか? 中途覚醒が心配でしたら朝まで付きっ切りで――」
「け……結構です」
俺は冷や汗をかきながら首を横に振る。
「そうですか。ではまた、気が向いたら」
と、アルバはあっさりと引き下がった。
聞き分けは良いところも、また気味が悪いんだよなあ……。
目的が見えなさすぎる。
「……アルバ、荷物置いてきたら?」
「おっと、そうですね。ではいったん失礼します」
ベルミリオの言葉にもやはり素直な反応を見せ、アルバは俺たちの泊まる部屋へと去っていく。
すっかり空気の冷え切った場は、しん、と静まり返った。
「あの……ごめん、おっさん。あーし、ちょっと怒りすぎたわ」
「あー、あたしも笑いすぎたかも」
「いや、謝らないでくれ。俺が悪いんだ。行動を改めるよ……」
ベルミリオとニーグル、そして俺は、互いに謝罪し合う。
どんなに騒いで頭に血がのぼっていても、頭ひとつ抜けた異常者を前にすると、冷静になるというものだ。
俺たちはすっかり落ち着いて、しかし何とも言えない顔を向け合った。
「母ちゃん、あいつらまたやってんのか?」
不意に、後ろの方から声がする。
どうやら傍観を決め込んでいた女将のところに、彼女の息子がやってきたようだ。
俺からは死角になっているが、声はよく聞こえてくる。
「みたいだね。全く、『不滅の四獣』なんて大層なパーティー名を付けておいて……名前負けにもほどがあるよ」
「あいつら来てからもう2週間くらい経つっけ。早く出てってほしいよなあ」
「宿賃上げるかい?」
「客が来なくなるよ。安いことだけが売りじゃん、うち」
「ははは。まともな人間は余所の宿に取られちまうもんねえ」
仮にも客への配慮は品切れか、ちくしょうめ。
だが俺は、女将どもを恨めしげに見るしかない。
正論だから。
そうこうしていると、宿の玄関扉がまた開いた。
入ってきたのは息を切らせた、小綺麗な若い男だった。
「いらっしゃーい」
「なあ、ここに冒険者が泊まってるって聞いたんだが」
男は女将の間延びした挨拶をスルーし、彼女に詰め寄る。
女将は少々面食らった様子で頷いた。
「え? ああ、確かに居るけど……しなびた虫食い林檎みたいな奴らだよ」
誰がしなびた虫食い林檎だ、このババア。
「何でも構わない!」
そう言い、男は女将が指差した方、つまりは俺たちの方へとずんずん近付いてきた。
「君たち、依頼を受けてくれないか。訳ありで急ぎなんだ」
どうにも切羽詰まった様子だ。
さて、こういうケースは大抵、羽振りの良い報酬と引き換えにかなりの危険が待ち構えている。
ただ今の俺たちは突発的な金欠状態。
どんな依頼であれ、受けてみても――。
「良いのではないでしょうか」
と、声がして振り向けば、アルバが荷物を置いて戻ってきていた。
「カレムさんが競魔で負けてしまった分を、ここで取り返せば解決でしょう」
「お前も見てたのかよ……」
ついニーグルの方に視線をやれば、彼女はムッと顔をしかめた。
「ちょっとざこおじさん、私はこいつとは違うからね。犯行の現場を押さえるために当たりつけて行っただけだから」
「わかってるわかってる」
「えっと……とにかく依頼、受けてくれるんだな?」
話を急く男に、俺たちは顔を見合わせ、それから「ああ」と受諾の意を示す。
まあ、金欠だから。
「ありがとう! 恩に着る! さあこっちだ。ついてきてくれ」
男は心底安心したような顔で、さっそく俺たちを外へと連れ出す。
「依頼内容は?」
男について早足で歩きながら、俺は尋ねた。
この道をずっと行くと、町の外に出るが……いったいどこで何をさせられるのやら。
「魔獣の討伐だ。Bランクのパーティーが挑んでたんだが、想定以上に手強かったらしくてな……Aランクを呼ぼうにも、近場に居なくて時間がかかるんだ」
「……それ、あーしらは時間稼ぎ要員ってワケ?」
ムッとした顔でベルミリオが言う。
が、男は素直に頷いた。
「そうなる。悪いが、報酬は弾むから勘弁してほしい」
「はあ……しっかたないなあ」
「ちなみに君たち、ランクは?」
俺たちは顔を見合わせ、それから声を揃えた。
「D」
「…………死なない程度に頑張ってくれ。市街地への侵入を食い止めてくれれば良いから」
「きゃははっ! 私たち、なめられてる〜?」
そうだと思うし、実際、まあ、妥当な評価だろうな……。
***
最終的に男は、町外れの森まで俺たちを案内した。
どうもここに、件の魔獣が居るらしい。
俺たちはAランクパーティーを呼びに走る男と別れ、森の中へと入っていく。
そうして歩き回ることしばらく、先頭を行くアルバがぴたりと足を止めた。
「あれですね」
指差す先には、いかにも凶悪そうな四つ足の魔獣。
俺たちは奴に勘付かれないようそっと距離を取り、各々得物を取り出した。
「じゃ作戦会議。陣形はいつも通りで、おっさんの戦力も無いものと考えて動く。ただ今回は足止めがメインだから、攻撃より防御と回避を優先する。オッケー?」
「は〜い」
「構いません」
「……うす」
歯切れの悪い返事をした俺を、ベルミリオがギロリと睨む。
「『8割無能』、なんか文句ある?」
「一応、俺リーダーなんだけど……」
「形式上はね。実質的には博打中毒の設置物じゃん。適材適所」
「うす」
ぐうの音も出ない。
特にさっきパーティーのお金を競魔で溶かしたばかりだから、余計に何も言えない。
俺はただ黙って、魔術補助具である杖をもそもそと構えるのであった。
「いっくよ~!」
と、さっそく盾を構えたニーグルが、魔獣の前に飛び出していく。
即座に魔獣が敵の存在に気付き、大きくて鋭い爪を振り下ろす。
しかし爪はニーグルの盾により防がれ、ガキン、と硬い音を鳴らすだけにとどまった。
「きゃはっ! ざーこざーこ! へなちょこ攻撃しかできない、よわよわ魔獣~!」
ニーグルは活き活きと魔獣を煽る。
彼女の役割は盾。
頑丈な盾と齢11とは思えない怪力で、敵の攻撃を受け止める。
また、滑らかに出てくる煽り文句と舐めた態度は魔獣にも伝わるらしく、期せずして相手の注意を引く役割もこなしている。
「魔剣、【イグニス】」
ニーグルが魔獣の攻撃を引き付けている隣から、アルバは魔術で炎を纏わせた剣を魔獣に振るう。
彼の役割は前衛攻撃。
魔術と剣術の両方を惜しみなく使い、多彩な攻撃を繰り出す。
俗に言う「魔術剣士」というやつで、こいつは人間の中でもかなり稀有な才能を持つ存在だ。
「おっと」
アルバの魔剣は確かに魔獣に当たったが、しかし魔獣は少し苦しげに身をよじると、すぐ反撃の体勢に入った。
毛皮はしっかり焦げているあたり、どうも皮膚が分厚いらしい。
ニーグルから狙いを変えた魔獣の爪が、アルバに迫る。
これはマズい! と、俺はさっと杖を掲げた。
「……【ディフェンシオ】!」
俺の役割は支援。
強化や弱化といった補助魔術を駆使し、仲間の手助けをする。
――だが、しかし。
俺が呪文を唱えても、何も起こらなかった。
「『8割』の方だったね、おじさん」
「ぐう」
茶化すようなニーグルの言葉に、俺は唸る。
そう、なんたって俺は『8割無能』。
使用する魔術が、8割の確率で失敗し、不発に終わるのだ。
逆に言えば2割しか成功しない。
我ながらカスである。
「ありがとうございます、カレムさん。力が湧いてきました」
いつの間にか普通に自力で魔獣の攻撃を躱していたアルバが、半身で振り返り俺に微笑みかける。
いや、さっきの魔術不発だったんだけど……。
なんで力湧いてんのかな……。
なんて怖いことを考えていると、突如として森に轟音が鳴り響いた。
「うおっ!」
思わず俺は仰け反るが、ほぼ同時に魔獣がずずん、と倒れたのを見、音の正体を理解する。
これはベルミリオの銃撃だ。
彼女の役割は後衛攻撃。
前線からは離れた位置から、自慢の銃で狙撃する。
高火力の一撃は、いつも魔獣を仕留める必殺技として機能している――のだが。
「おや」
一時は地に倒れ伏した魔獣が、地鳴りのように喉を鳴らして、ゆっくりと立ち上がってきた。
「ふーん、めっちゃ硬いじゃん」
不意に聞こえた声に振り向けば、ベルミリオが俺の隣にやってきていた。
「でも効いてはいるぞ」
「ちょっとだけね。あんなん軽傷っしょ」
眉間に皺を寄せて彼女は言う。
「ま、攻撃力はニーグル1人で抱えらえる程度だし。硬いだけなら、依頼達成には問題無いか」
「……いや待て。『硬いだけ』っていうなら、何で件のBランクパーティーは――」
そう俺が言いかけた瞬間。
完全に起き上がった魔獣が、にわかに体をブルブルと震わせ始めた。
かと思えばバキバキッと骨の折れるような音がして、魔獣の体が変形し出す。
あっという間に変わり果てたその姿は、先ほどまでと比べて足や角が増え、ふた回りほど巨大化していた。
「マズい、【複態】持ちだ!」
俺は叫ぶ。
一部の魔獣は、骨格や皮膚などを変形させることが可能で、つまるところ複数の形態を持っている。
それが【複態】だ。
多くの【複態】持ち魔獣は、普段は危険度の低い形態で生活し、戦闘になったり、あるいはその戦闘に苦戦したりすると、より攻撃性の高い形態へと変化する。
早い話が「本気モード」であり、俺たちにとってはとても不利な状況である。
「アルバ! ニーグル!」
なんでもっと早く【複態】の可能性に気付かなかったんだ、と後悔してももう遅い。
魔獣はより凶悪な爪を、より巨大な腕でもってアルバたちに振り下ろす。
「魔剣【グラキエス】」
アルバが氷の剣を振るい、魔獣の腕を凍り付かせる。
魔獣は一瞬だけ動きを止めたが、筋肉を膨らませて腕の氷を砕いた。
「クソッ、弾がまだ……!」
ベルミリオは銃を握りしめ、焦りを露わにする。
さすがのニーグルでも、あの攻撃は受けきれない。
そう直感が告げている。
俺はたまらず駆け出した。
「おっさん!?」
後ろからベルミリオが声が聞こえたが、気にしてはいられない。
俺はアルバたちと彼らに迫る魔獣との間に滑り込み、杖を掲げた。
「【ディフェンシオ】!」
防御の呪文。
「【フォルティフィカーレ】!」
単純強化の呪文。
「――【インテンサス】!!」
そして、効果激化の呪文。
俺自身に向けたそれらの魔術は――。
成功した。
俺は自分の体から魔力が消費されるのを通じて、それを実感する。
直後、魔獣の爪が俺の体に接触する。
果たして、俺の体は引き裂かれることも叩き潰されることもなく、凶暴な攻撃を防ぎ切った。
「どりゃァーーーッッ!」
すかさず俺は、杖を振りかぶる。
攻撃を防がれ隙ができた魔獣のその頭に、先ほどの強化の余波で異様に頑丈になった杖が直撃する。
ドガッ、と凄まじく鈍く重い音が響く。
何か分厚いものを叩き割った感触が、手に伝わってくる。
魔獣は再び地面に倒れ込み、だが今度こそ起き上がってはこなかった。
「っぶねえ……」
俺は冷や汗をぬぐう。
運よく、本当に運よく、『2割』を引けた。
それも3回連続で。
「やるじゃん、おじさん。ありがとー!」
「さすがカレムさん……やはりあなたは天に愛されたお方ですね」
「はは、どういたしまして」
褒め言葉はこそばゆいが、受け取っておこう。
いやはや、本当に危ないところだった。
「……これだから追い出せないんだよなあ」
銃を担いで、ベルミリオも俺たちのところへ歩いてくる。
というかその言い草、まるで本来なら追い出したいみたいに聞こえるんだが……まあいいか。
俺も俺みたいなのが仲間だったら耐えらんねえし。
「とにかくでかした、おっさん! アルバとニーグルもお疲れ!」
ぽん、ぽん、ぽん、とベルミリオが俺たちの肩を叩く。
そうだ、とにかく一件落着だ。
「じゃ、依頼以上の成果を上げられたってことで……」
俺はニヤリと笑い、拳を高くつき上げる。
「予定の3倍、いや4倍の報酬! 請求しに行くか!」
「おーっ!」
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