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「お前、追放な」
突然ベルミリオが言い放った台詞に、俺は思わず飲んでいた水を噴き出した。
「なっ……なんでだよ! あの依頼で4倍報酬貰えて、俺ちょっと見直される雰囲気じゃなかったか!?」
そう、例の出来事からまだ二晩しか経っていない。
曲がりなりにも活躍を見せた俺に対し、追放とは何事か。
ていうか別行動から合流した途端に、いったい何を言い出すんだこいつは!
困惑するばかりの俺に、しかしベルミリオは冷たい視線を注ぐ。
「その報酬、どこ行った?」
ぎくり、と心臓が撥ねる。
あの依頼で獲得した報酬、40万エル。
それは俺たちが取っている宿の部屋で、大事に保管されていた。
が、俺は自覚している。
ついさっき、自分がその40万エルをこっそり持ち出したことを。
「いや……まあ……困ってるお嬢さんに……」
ごにょごにょと俺は言い訳がましく言う。
けれど勘違いしないでほしい。
困っているお嬢さんにあげたのは本当だ。
先ほど、冒険者ギルドへ何やら用事をしに行ったベルミリオを待ちがてら、宿の付近をぶらついていたところ、薄幸そうな美少女が「お金を恵んでください」「母が病気なんです」と懇願してきたのだ。
俺たちより粗末な服を着た彼女を哀れに思って、俺は40万エルを丸ごと渡した。
独断でやったことは申し訳ないが、いつもの浪費とは違ってれっきとした人助けである。
俺は何とかベルミリオに赦してもらおうと、言葉を探す。
と、ちょうどタイミングよく、件の美少女の姿が視界に入った。
「あっ、ほらあそこに居る――」
俺は急いで、美少女を指し示す。
だが、しかし。
美少女は確かに、先ほどの彼女と同一人物だったが。
服は見違えるほど上等なものになっており、ガタイの良い男と腕を組み、宝飾店から出てくるところだった。
……いや、別にたまたまかもしれないし。
まずは清潔な服を買って着替えるくらい、普通だし。
男と一緒に居たところで、何かおかしいことも無いし。
宝飾店で……そう、宝飾店で、自分の装飾品を売ってきたのかもしれないし。
別に。
彼女が俺を騙したなんて証拠は、どこにも無いし。
うん。
「あのおっさん冒険者、ガチでチョロかった~! おかげで良いお買い物できたよ~!」
……聞こえない聞こえない。
何か声がしたような気がするけど。
あの美少女の声だったような気もするけど。
これは幻聴だ。
俺の勘違いだ。
そう、きっと――。
「詐欺だろうがよ!! どう考えても!!!」
ベルミリオが俺を一喝する。
容赦が無い。
「ああ……」
俺は膝から崩れ落ちる。
なんかもう、泣きたい。
「宿に戻ったら金が無くなってたからまさかとは思ったけど、まんまと嵌められやがって……。冒険者狙いの物乞い詐欺なんて、ありふれてるってのに!」
「で、でも人助けをしようという心意気は褒められるべきでは!?」
「相手が美少女じゃなくて、男とかしわくちゃのババアでも同じことしたか? 40万エル、全額渡したか?」
「…………助けはする!」
嘘ではない。
絶対に、助けはする。
……程度の差は、ちょっとあるかもしれないが。
「もう手続きしといたから。二度と帰ってくんなボケ、カス」
ベルミリオはゴミを見るような目で、2枚の紙を俺に叩きつける。
それはベルミリオと、それからニーグルの、パーティー脱退手続き完了書だった。
「きゃははっ! 妥当~!」
ニーグルはケラケラと笑い、ベルミリオと共に俺に背を向け去っていく。
いや待て、いつの間に居たんだあいつ。
海の紅月くらげさん
#女主人公
「ち、ちくしょ~……! ってか俺がリーダーなんだから、お前らがパーティー抜けただけだろ……!」
俺は地面に拳を叩きつける。
許せねえ……!
この世界は理不尽だ……!
「おいたわしや、カレムさん……」
「うお」
突然、耳元から声がして、俺は反射的に仰け反る。
こんなふうに神出鬼没で急接近してくる奴は、言わずもがなアルバだった。
「私はわかっていますよ。カレムさんの尊い優しさを」
「あ、はい」
そっと俺の肩に手を添えるアルバに、俺は事務的に頷く。
やべー……。
そういやベルミリオとニーグルが居なくなったってことは、こいつと2人きりってことじゃねえか。
「さあ行きましょう。『不屈の四獣』はこれより『不屈の双獣』です」
「い、いや! 2人だけだと心もとなくないか!? 俺は人員補充してえな! あー、パーティー名も気に入ってるから変えたくないし!!」
「おや、そうですか。では冒険者ギルドへ向かいましょう」
危ない危ない……。
ちょっと隙を見せたらこれだ。
1人でも2人でも、早く誰かに加入してもらわなくては。
俺はギリ走ってないくらいの超早足で、ギルドを目指す。
アルバ、別に悪い奴じゃないんだが、2人きりにはなりたくなさすぎるんだよな……。
***
「うわ」
冒険者ギルドに着くや否や、受付嬢のムースが顔をしかめる。
およそ接客をする態度とは思えないが、こいつはいつもこの調子だ。
ここの支部長に苦情のひとつでも入れてやりたいが、残念ながらそれはできない。
支部長は年がら年中、出張という名の道楽旅行で忙しいからだ。
世も末すぎる。
「えー、万年Dランク社会不適合パーティーにして比較的まともだった2人が先ほど抜けたことでいよいよ終わりの様相を呈し始めた最底辺こと『不屈の四獣』様……」
「余計なもん付けすぎだろ」
「何の御用で?」
ムースは涼しい顔で話を続ける。
とめどなく喧嘩を売りやがるなこいつ……。
しかしいちいち反論しても仕方がないので、大人な俺は怒りを抑え、本題に入ることにした。
決して、反論の言葉が見つからないとか、そんなわけではない。
「人員募集をかけたい」
「無理でしょ」
「歯に衣!!!」
つい叫んでしまった。
そんなハッキリ言わなくてもいいだろ!
「はあ……じゃ、早く書くこと書いてください」
ムースは心底だるそうに、書類とペンを差し出す。
募集人数、1〜3人。
募集要件、盾役か後衛が望ましい。
性別・年齢、不問。
戦闘経験、不問。
――こんな具合で、俺は書類にサラサラと記入した。
「よし、こんなもんか」
「良いと思います」
ニコニコとアルバが頷く。
俺と2人きりになる隙を狙いはするが、こういう時に妨害とかはしてこないのが、まだ良心的だ。
「さてお次は、今日の飯代だな」
書類をムースに渡し、俺は依頼掲示板の方へと移動する。
ひとまず、1食分くらいは稼げる、軽い依頼をやりたいところだ。
「……食事でしたら、私の家に来られますか?」
「行かない!!」
俺は即答し、掲示板を見上げる。
そこには種々様々な依頼の紙が、所狭しと貼り付けられていた。
山越えをする荷馬車の警護、国境警備(魔族と戦闘の可能性あり)、都市近郊に出没する鳥型魔獣の討伐、某貴族別邸の訳あり清掃……。
Dランクパーティーが受けられる依頼だけでも、結構な数がある。
「これでいいか」
俺はその中から1つを選び、紙を掲示板から取る。
依頼内容は「街道付近に出没する魔獣の討伐」。
冒険者が一番よく見る、スタンダードなタイプだ。
「ふん、あいつらが居なくても、これくらいはできるさ」
「はい。行きましょう、カレムさん」
***
日が沈み始め、鳥が巣に帰っていく頃。
依頼達成の証となる、魔獣から切り取った足を詰めた袋を引っ提げ、俺はカレムと共に冒険者ギルドへと歩みを進めていた。
……結論から言って、依頼は問題なく遂行できた。
俺は相変わらず「8割」を引きまくってほとんど役に立たなかったが、アルバが華麗な活躍を見せ、鳥型魔獣を仕留めることができた。
だが、何か、足りない。
戦っている最中、ずっと暖簾に腕を押すような心地だった。
アルバは強い。
なんか俺が強化魔術に失敗しても、勝手に強化された気になってブーストかかるし。
でも……依頼を難なく達成できたとて、足りない。
一番前に立って、敵の攻撃を防いでくれる人が。
一番後ろから、敵に強烈な一撃を叩き込んでくれる人が。
居ないのだ。
募集を見て、新たにそういう奴らが来てくれるまでの辛抱か?
いや、違う。
新しく盾役と後衛が来たとしても、足りない。
例えば、自信満々に「ざ~こ」と敵を煽る、生意気なガキの声が。
例えば、「何やってんだ!」と喝を入れてくれる、気の強い女の声が。
あれらが無くては、張り合いが無い。
そう、俺には……本当は、あいつらが必要なんだ。
「カレムさん」
顔を上げれば、アルバがにこりと微笑んでいた。
「名残惜しいですが、二人旅はここまでにしましょうか?」
「……ああ」
俺は情けなくも、頷く。
そしてギルドへと向かう足を速めた。
***
「あのさ、悪いんだけど、例の募集は取り下げるわ」
ギルドに着くや、俺はムースに言う。
意地を張るのはもうやめだ。
「はあ……」
ムースは呆れたように溜め息を吐くと、手早く募集の紙を専用の掲示板から剥ぎ取り、ゴミ箱に叩き込んだ。
するとその時、ギルドの扉が開く音がした。
ふと振り返ってみれば、中に入ってきたのは。
「ベルミリオ! ニーグル!」
俺は思わず叫ぶ。
そう、扉を開けて入ってきたのは、他でもない、ベルミリオとニーグルだった。
一も二も無く、俺は彼女らの元へと駆け寄り、バッと頭を下げた。
「本ッ当に悪かった! 申し訳ない! 俺にはやっぱりお前らが必要だ! 戻ってきてくれ!」
しばしの沈黙。
それから、息を吸う微かな音。
「……あーしらも」
視線を上げると、ベルミリオもまた、俺と同じくらい、頭を下げていた。
「半日、離れてわかった。おっさんたちが居ないと調子狂うわ。勝手に出てっといて、都合良いこと言ってるって自覚あるけど……もっかい、パーティー入れてくんない?」
「っ……ああ! 勿論だ!」
俺は勢いよく頷く。
感激で涙が出そうだ。
もう二度と、間違えはしない。
大事な大事な仲間を、決して手放したりするものか。
そんな熱い思いが、俺の胸を満たす。
「おねーさん、毎度ごめんね~?」
「良いですよ。慣れました。10回超えたあたりで数えるのやめましたし。ニーグルさんこそ毎度お疲れ様です」
背後から、心底うんざりしたムースの声が聞こえてくる。
「ランクを上げるには、現メンバーでの半年以上の活動歴が必要……。何回カウントリセットすれば気が済むんですかね」