テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
11
週が明け、また仕事が始まる。そして、私の誕生日まで十日ほどとなった。
横山とも一緒に普通に仕事をしている。あれ以来お互いに前世の話はしていない。ただ、仕事の相性は良いらしく、なかなかの成果をあげていた。横山と二人で、または課長も含め企画に関する意見を交わすのは楽しかった。
社内での私と横山に対するチヤホヤ度は今のところあまり変化がない。これが上げ止まりで誕生日を迎えたら少しずつ落ち着いてくれたらいいんだけど。一気に冷たくされなければそれでいいんで!
そして金曜日。少しだけ残業をして、来週はとうとう誕生日だと少しソワソワしながら帰り支度をしていた。
実は、今週ずっとソワソワしていたのだが、それは今のソワソワとは別のもだった。何か焦る感じ。自分では抑えられない何かに身体を持っていかれそうな気がして、気を引き締めて仕事を頑張った。明日明後日はゆっくり過ごすつもりだ。やっと気を緩めることができる。
そこに宝山君がやってきた。
「お疲れ様です! 僕も今帰りなんですけど、晩飯ご一緒どうですか?」
本当は断らないといけないと思った。でも、口が勝手に動いていた。
「行きましょう」
そして、私たちはカジュアルなイタリアンのお店で食事を楽しんだ。勧められるままワインを飲んだ。
私なんだか変だ。
宝山君は普通にいつもの会社での面白話などしている。私も笑いころげている。
ひと笑い終わったところで、宝山君が急に真面目な顔をして言った。
「あの、市子先輩」
急に名前で呼ばれてドキッとした。
「僕と付き合いませんか? 何故かわからないんですけど、僕はあなたを幸せにしたいと思ってるんです」
「ちょっとちょっと。わからないって好きなわけじゃないってこと?」
「いや、もちろん好きです! でもそれだけじゃない運命的なものを感じるんです。自分でもキモいな〜って思うんですけど」
ああ、この人はやはり婚約者だったのだ。わかってしまった。私のせいで心を縛られている。
それなのに、拒絶できない心の一部が自分の中にあるのがわかる。
「……ねえ。私を抱きたいと思う?」
「えっ? あ、はい。もちろんです。でも、そういうのは段階を踏んで……」
段階なんか踏んでられない。私の誕生日は五日後まで迫っている。
「じゃあ、行こう」
私は席を立って歩き出す。もう完全に自分じゃないみたいだ。
会計を済ませて、ホテルのある方へ向かう。宝山君はかなり驚いているようだけど、黙ってついてきた。
適当なホテルの前で足を止めた。そして、振り向くと宝山君に抱きしめられた。
急に私は恥ずかしくなってきた。ここ外だよ?
そして宝山君は私の耳元で、
「僕は市子さんを大切にしたいと思っています。だから、こんな形じゃなくて……」
今世でもそうなの? そして最終的には他の人を抱くの?
『大切にする』もう聞き飽きた。私は激しく求められたい。愛されたい。これは、前世の私と今の私二人の願い。
「ごめんなさい宝山君。ごめんなさい」
私は彼を引っ剥がして、走って逃げた。
走りながらツクシちゃんが言った「避難場所に」という言葉が頭に浮かんだ。
占い喫茶に着いた頃には十一時を回っていた。閉店まで後少し。とりあえず中に入ると、もうツクシちゃん一人しかいなかった。
ツクシちゃんは何も言わずにドアにclosedの看板をかけて、ホットミルクを入れてくれた。私が泣いていたから。
そして、私にこう言った。
「今一番会いたい人は思い浮かぶ?」
すぐに頭に浮かんだ人がいた。
私は彼に電話をかけた。
「どうした?」
横山はすぐに出てくれた。
「ごめん……こんな時間にごめんね」
私が泣いているのがわかったんだと思う。
「今どこ?」
ツクシちゃんが十二時過ぎても私を居させてくれたので、横山は終電ギリギリで喫茶店にやってきた。
ツクシちゃんは、
「アタシはまだ何も聞いてないの。二人っきりになれるところでゆっくり話しなさい」
と、私たちを店から追い出した。選択肢を絞ってくれたんだね。ありがとうツクシちゃん。
とぼとぼ歩きながら、
「終電もうないよね。ごめんね」
「ごめんはもういいから、何があったか話せよ」
私たちはカラオケボックスに入った。何も歌わず何も飲まず、しばらく黙って座っていた。横山も急かすようなことはしなかった。
「私ね、宝山君に告白された。それで、急にこの人に抱かれないと気が済まないって気持ちになって、ホテルまで行ったの。だって、宝山君、前世の婚約者だったから」
「は? それ本当なのか」
「たぶんそう。あの時は私が私じゃないみたいに思えた」
「……で?」
「ホテルの入り口で『大切にしたいからまた今度』って言われたの。一度もやらないで、そう言われたのはさすがに初めてだよ」
私は笑った。泣きながら大笑いした。