「はっ、はっ、、、、っ、、、、うっ、、」
「なんでっ、なんで俺なんだよぉっ、、、、」
体に刺すような眩しい日差しが燦燦と生物たちを照らす。
蝉達が生を謳歌し、この季節の主役を飾る昆虫たちが番を見つけるべく尽力する。この世に生まれた生物たちが力ある限りに生きている証を伝えている中、一人の少年は住宅地を走る。暑い日差しに照らされて汗の滴る体は、拭っても拭っても拭いきれない。息を切らせながら走る少年は、時折、後ろを振り返る。少年の目線の先には現実とは思えないものが、、、。
謎の声を発し、蠢くその”なにか”は少年を追い続けていた。ノイズがかかったような声のような脳が不快感を覚える音に、この世の理を破壊するかのように仰々しく恐ろしい見た目をしている、背丈、と言っていいものかわからないが、二階建ての一軒家を優に超える高さのものや、塀と同じくらいの高さのものもいる。それらがざっと15体くらいに連なっている。言わば”化け物”の数々。
そんな化け物たちがたった一人の幼い少年を捕まえようと手のような何かを伸ばし追いかけている。一体なぜ?
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少年の名前はソル。齢10歳にして周りから眉目秀麗と謡われる見目麗しき人間だ。成績も優秀で、スポーツも周りに劣ることはなく、むしろ秀でている。立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花。その言葉にふさわしいとして周囲の人間から、『麗しの天使』と呼ばれて騒がれている。そんなことを騒がれているとはつゆ知らず、彼は自分の見た目が他と違う、という理由で、周りから黄色い感性が飛び交っても、美を騒がれていても、あざけられている、皆から嫌われていると思ってしまっている哀れな子供だ。服装や容姿はシルバーホワイトのセンター分けの髪に、水色の瞳。うす付きの桃色のくちびると色白の肌。服装は半そでの白色のTシャツの上に黒色の半そでのオーバーシャツをはおり、チェーンに小さな時計の飾りがついた黒色のチョーカーを首に着け、黒色のジーパンを履き、素足を隠している。名前や容姿も含め一見海外風に見えるだろうが、両親ともに日本生まれ日本育ち、日本からいや、この町からすら出たこともない純日本人だ。
この街は、街とは名ばかりで山に囲まれた一つの大きな大陸のようだった。きっとほかの街と比べれば『え?これが街?詐欺だろ』といわれるくらいは広い範囲を誇っている。その広い土地と五つの神社に恩恵を受け、この街は設備が充実しているため、生まれてこの方一度もこの街を出たことが無いという人も多い。幼稚園、保育園、小学校から大学、系統の異なった十分な就職先もある。広いショッピングモールに、遠くもない間隔でコンビニエンスストアも建っている。自然に囲まれた空気きれいな子供や大人の憩いの場、ゲームセンターやバッティングセンター、市民プールや設備が整いきったホテルも転々と立っている。近年非常に住み心地が良い街として週刊文集に掲載されたほどだ。
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ーー山に囲まれた盆地の街には五つの神社があった。その五つの神社は均等に町を守るように囲んでいる山の頂上、およそ千段の階段を上がったところに位置している。その五つの神社の守り神達はそれぞれ信仰目的が異なっている。
青色の神が居るといわれている神社には、四人の守護者とともに、『共存』を司る。
水色の神が居るといわれている神社には、五人の守護者とともに、『豊穣と近愛』を司る。
黄色の神が居るといわれている神社には、三人の守護者とともに、『平和と歓喜』を司る。
黄緑色の神が居るといわれている神社には、四人の守護者とともに、『競争と協調』を司る。
所説あるが、黄色の神が居るといわれているこの神社の本当の神は守護者に紛れているという。一体なぜその説が提唱されているかはわからないが。(影武者説)
また、青色の神が居るといわれている神社にはほかの神社とは異なり、一つしか賜物が提唱されていない。諸説あるが、もう一つの賜物は『狂気』と言われている。
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ソル「はっ、はぅ、、っ、、なんでっ、いつまでついてくるつもりやんねん、、」
逃げても逃げても化け物は彼の後を追う。幾重も行く手を阻まれ追い込まれた先に見えたのは『共存』を司る神が居る神社の麓。彼が小学生に上がるまでよく母親と通っていた懐かしき神社だ。
ソル「ここは、、、、ここなら、あいつらも、、、」
後がなくなったと悟ったソルは迫りくる魔の手かあら逃れるため、無我夢中で石の階段を上がって行った。
彼が息を荒くしながら階段を上っていくと、木々をかき分けて流れ、頬をなでる柔らかく涼しい風が自分の横を通り過ぎた。そして、新緑が揺れる木々の木漏れ日が眩しく降り注いでいるこの景色にふと気が付いた。
音がない
ということに。普通ならば風で木々が揺れると葉同士が擦れ合いサアァという音が鳴るはずだ。それなのに音は一切聞こえない。それどころか、人々の声すら聞こえない。先ほどまで子供たちの笑い声が聞こえていたというのに。彼はぴたりと動きを止め、ドッと背筋か凍る感覚を覚えた。誰かから聞いたことがある。
ー怪物ってね、気に入った子を自分の世界に連れて行っちゃうんだって。ぞれで、自分の世界に連れていかれっちゃったら、見えるものは変わらないのに、音がなくなっちゃうんだって。それで、連れていかれっちゃったらもうもどってこられないんだってー
そんな話が脳裏をよぎる。俺は、連れていかれたのか、、、?
周りの音はないのに怪物たちの声だけは聞こえてくる。走っても走っても遠く聞えていたはずの音が近くなってくるのを感じる。あぁ、終わった、連れていかれたのか。
そんなことを思いながら上がる息を収めながら静かに目を閉じた。
「あきらめちゃうの?」
誰の声だ、、?そう思いながら目を開けると十数段上に神秘的だがどこか不思議な雰囲気をまとった男の人がいた。全身青色系統でまとめられた服装、髪色、瞳。唯一違うのは夏場なのに首に巻かれている赤色のマフラー。異質な奴だな、とは思ったもののそれを首に巻いていても何処かしっくりくる。実際は灼熱たるこの季節にマフラーなんて暑苦しいものを首に巻いていて、長袖長ズボンなのに一切汗をかいて居らず涼し気な表情をしている時点で彼はもう確実に異質な生き物だ。それを決める手はもうひとつある。彼の下には影がない。彼の方が階段の上に居るし、真昼時だから見えないのではと思う人もいるかもしれないが、いくら階段であっても少しくらい影は伸びる。1段が広いわけでも無いのだから。だが目の前の彼にはそれが一切見えなかった。影の端ですら。そこから彼はこの世の理を壊した存在なのだと考えた。
ソル「、、、誰?」
「あぁ、言ってなかったね。俺の名前はーーーー。よろしくね」
ソル「、、?なんて、、?」
「君の名前はソルだよね?よろしくね。ソル」
ソル「なんで、、」
「所で、諦めちゃうの?」
ソル「ーーーえ、?」
忘れていたものを思い出したかのようにバッと後ろを振り返るとそこには目線のすぐそこで手を伸ばしてきている化け物たちがいた。
ソル「ーーーっ、、」
「助けてって言えるなら、助けてあげるよ?」
ソル「、、、、、、た、たすけてっ、」
「ふふっ、いいよぉたすけてあげちゃう」
目の前の彼がにこりと笑うと化け物達の方へ手を伸ばした。サァッと風で木々が揺れた音がしたかと思うと、次の瞬間、何かが切り裂かれ、不快な破壊音の後その何かが地面へ崩れた音がした。
状況が把握出来ず後ろを振り返ろうとしたが、数段先にいた筈の彼が降りるという素振り一切なく目の前にソルと目を合わせるように現れた。驚いたソルは後ろへ引こうと後ずさりをしたが、ここは階段であると言うことを思い出した。が、時すでに遅し。踏み外したソルは体制を整えられず、後ろへ体ごと倒れてしまった。浮遊している感覚を感じる。だが、何故か落ちるということに恐怖はない。きっと、目の前の彼に恐怖という感情が向いているからだろう。
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