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四月十八日……午前八時十五分……。
この日、ビッグボード国内でモンスター化した人たちがまちや人を襲う事件が起こった。
今から始まるのは、その事件のほんの一部である。
「温泉に浸かっている時に襲撃してくるとは、いい度胸ではないか。さぁ、かかってくるがいい」
巫女の格好をしている小宮は、モンスター化した人たちにそう言った。
「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
その人たちは、一斉に小宮に襲いかかった。
しかし、彼らは小宮が大勢を相手にするのが得意だということを知らなかった。
「小宮式剣術……壱の型一番『効果焼却斬』!!」
名刀『鉄華丸』は相手の体内に炎を侵入させ、中から相手の効果を焼却……つまり、消滅させる力を持つ。
この刀は生き物の命を奪うことはできないが、相手の効果を内側から消滅させる力を持っている。
故に、使い方次第では、相手を一瞬で倒すことができるのである。
小宮の抜刀術のすごいところは相手が気づく前に、その動作を終わらせてしまうというところだ。
だから、相手は自分が何をされたかわからないまま倒されてしまう。
「ふん、話にならないな。モンスターの力を手に入れても、結局はその力を使いこなせなければ意味がないということをまるで理解していない」
小宮の刀から放たれる小さな炎は敵と認識した者の体内にのみ侵入する。
そのため、味方を攻撃するようなことがあっても、本人が敵だと思っていなければ、刀の力は発動しない。
「もうここには用はない。さらばだ」
小宮は自分を襲ってきたモンスター化した人たちを全て倒すと、他の場所に移動し始めた。
「それにしても、この国は広いな。まあ、ここは私たちの世界でいうところの『大分県』だから、当然か」
小宮がトコトコと歩いていると、上空から襲ってきた者たちがいた。
「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
「甘い……甘すぎる」
小宮はそう言いながら、空から襲ってきたモンスター化した人たちを鞘に刀身を収めたまま、攻撃した。
「お前たちは、集団行動をしているつもりだろうが、今のはただの特攻だ。あまりにも無謀すぎる。どうやらお前たちは力と引き換えに知恵を失ったようだな」
小宮は彼らにそう言うと、トコトコと歩き始めた。
「この国で何が起こっているのかはわからないが、とりあえず私の前に立ち塞がる者は斬っていくとしよう」
その直後、彼女は何者かに足を掴まれた。
「なるほど。たしかに地面の中なら、相手に察知されにくいな。しかし、私を足止めしたぐらいでは、私を倒せないぞ?」
その直後、彼女の目の前にモンスター化した人が現れた。
「ふん……!」
しかし、小宮の頭突きで倒されてしまった。
「どうやっているのかは分からないが、姿を隠していても私を倒すことはできないぞ。なぜなら、姿を消しても気配を消すのは容易ではないからだ!」
小宮は透明になっていたモンスター化した人たちを倒すと、自分の両足首を掴んでいた手を握力で折った。
「さぁ、次は誰だ?」
彼女がそう言うとモンスター化した人たちが二十体ほど姿を現した。
「なるほど。数でなんとかしようという考えか……。だが、その程度で私を倒せるとでも思っているのか?」
彼らは彼女がそう言うと一斉に襲いかかった。
全方向から攻めれば、さすがに隙ができるだろうと考えたからだ。
しかし、小宮は笑っていた。
まるで、こうなることがわかっていたかのように。
「小宮式剣術……弐《に》の型一番『効果全方位斬』!」
小宮はクルクルと回転しながら、抜刀した。
それは斬撃の嵐のようであった……。
彼女が刀を鞘に収める頃には、全員が倒れていた。
「お前たちにしては、よくやった方だとは思う……。しかし、私のような一撃必殺を得意とする者には、先ほどのような攻撃など対策済みだ」
彼らはどうにかして彼女を倒そうと歯を食いしばった。
その時、彼女の刀を奪えばいいと考えた。
「さてと……そろそろ行くとしようか」
「グルァアアアアアアアアアアアア!!」
モンスター化した人が彼女の刀を奪おうと彼女の背後から現れた。
「なるほど。考えたな」
彼は小宮の刀を奪取した。
その直後、彼はその刀を持って逃げ出した。
そして、彼女を倒したいと思っているやつらが彼女を取り囲んだ。
「たしかに私はあの刀に頼っている。しかし、刀を取られたからといって弱くなったわけではないぞ?」
「グルアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
彼らは一斉に彼女に襲いかかった。
今度こそ勝てる。この人間を倒すことができると希望を抱いていた。
しかし、その希望は一瞬で消え去った。
「小宮式剣術……零《ぜろ》の型一番『無刀効果焼却斬』!」
彼女の両腕から炎が出始めたかと思うと、彼女はそれで次々と彼らを倒し始めた。
「私は昔、刀に頼りきっていたせいで同じ男に二度も負けてしまったことがある。そいつは私と似たような剣術を使うやつだったのだが、そいつは剣術使いである前に一人の殺し屋だった。殺し屋はどんな手を使ってでも与えられた任務をこなさなければならない。だからこそ、周りにあるものを全て武器として考え、いざとなったらそれも使う。正直、私にはそのようなことはできない……。しかし、私はそれでいいと思っている。私は私のやり方で敵を倒す。それが私の……答えだあああああああああああああああああああ!!」
彼女は、そんなことを言いながら、自分の周りにいた敵を全て倒した。
その後、自分の刀を奪取したやつのところまで走った。
「お前は……私の命よりも大切な刀を奪い取った。その罪は重いぞ」
「グ……グルァアアアアアアアアアアアア!!」
そいつは刀身を鞘から引き抜くと、小宮に斬りかかった。
「ふん……愚か者めが。あの世で後悔するがいい」
彼女がそう言うと、刀から出てきた小さな炎が彼の体内に入った。
その直後、彼はパタリと倒れた。
モンスターの力を消されてしまったからだ。
名刀『鉄華丸』は彼女が「戻れ」と言うと彼女の手の中に収まった。
「おかえり。鉄華丸」
彼女がそう言うと、その刀は少しだけカタカタと揺れ動いた。
「そうか、そうか。お前も怖かったのか。すまない。しかし、久しぶりに無刀で戦いたかったのだ。許してくれ」
その刀はまた少しだけカタカタと揺れ動いた。
「ありがとう。こんな私だが、これからもよろしく頼む」
彼女がそう言うと、その刀は嬉しそうに真っ赤な輝きを一定のペースで放っていた……。
*
「ふむ……お前はなかなか強そうだな。相手をしてやるから、かかってこい」
小宮の前に現れたのは腕が四本生えている赤鬼だった。
しかも、そいつは金棒を四本持っている。
「鬼退治は昔よくやったものだが、お前のような四本の腕を持っている鬼はあまりいなかったぞ」
「ガルアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
赤鬼は目の前に立っている巫女の格好をしている女に襲いかかった。
四本の金棒を自在に操り、高速でそれをぶん回す。
しかし、彼女は目を閉じた状態でそれらを躱《かわ》していた。
「お前のその動きは悪くないが、残念ながら、私には全て止まって見えている。だから、いっこうに当たらないし、当てられない」
赤鬼は一旦攻撃をやめると、四本の金棒を一本にした。
「ほう……一撃で私を倒す戦法に切り替えたか。だが、鬼退治を専門としている小宮家の現当主である私がそんなことで驚くとでも思っていたのか?」
「ガルアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
赤鬼は巨大な金棒で彼女をペシャンコにしようと勢いよく振り下ろした。
しかし、その攻撃が終わる前に彼女はそれを華麗に躱《かわ》していた。
「何を驚いている。その程度の攻撃を私が躱《かわ》せないとでも思っていたのか?」
その直後、赤鬼は巨大な金棒を巨大なハンマーに変えた。
「ほう……武器を自由に変形できるのか。私が倒してきた鬼の中にはそのようなものもいたが、戦うのは久しぶりだな」
「ガルアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
赤鬼は巨大なハンマーを彼女に当たるまで振り回し始めた。
しかし、彼女には全く当たらない。
「いいことを教えてやろう。巨大な武器ほどその威力は増すが、それと同時にそれを振り回せるほどの筋力が必要となる。だから、いくら大きくしたところで結果は同じだ。まあ、要するに自分にあった武器を見つけろということだ……!」
小宮はそんなことを言いながら、その辺にあった石を赤鬼の目に投げつけた。
赤鬼はそれを巨大なハンマーで防いだ。
それと同時に、赤鬼は今のような戦い方をしていては彼女には勝てないと思った。
そのため、赤鬼は少し本気を出すことにした。
「ん? いったい何を始める気だ?」
赤鬼は巨大なハンマーを刀に変えると、それを四本にした。
「なるほど……。たしかに四本も刀を持っている相手とは戦いたくないな」
「ガルアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
赤鬼は四本の刀を自在に操りながら、彼女を攻撃し始めた。
「ふむ……これはマズイな……」
その言葉を聞いた赤鬼は四本の刀を振り回す速度を少し上げた。
「よっ……ほっ……とっ……はっ……」
小宮はなるべく体力を温存したいため、あえて赤鬼の攻撃を避けている。
しかし、赤鬼の攻撃が終わる気配がしないため、彼女の顔色は少しずつ悪くなっていった……。
「……ガルアアアアアアアアアアアア!!」
「……ぐっ!」
彼女は避けられそうにない攻撃を鞘で防いだが、その一撃があまりにも重かったため、数秒間、宙を舞った。
「はぁ……はぁ……はぁ……ま、まったく……この短時間でここまで成長するとは……お前は恐ろしいやつだな」
刀を杖代わりにしている彼女の額から流れた汗が、地面に落ちると同時に、赤鬼が吠えた。
「ガルアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
「たしかにお前は……他のやつとは違う。しかし……私はこんなところで負けるわけにはいかないのだ。もし、私がここで倒れてしまったら、ここに来ているかもしれないあの男に合わせる顔がない。だから私は、お前を絶対に倒す!」
この技は一度使うと、数秒間、その場から動けなくなってしまうが、今ここで使わなければ確実に死ぬ!
だから、この一撃に今の私のありったけを込める!
「ガルアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
「行くぞ! はぁあああああああああああああ!!」
小宮と赤鬼はほぼ同時に走り始めた。
四本の刀を振り回す赤鬼。
まだ刀身を鞘に収めている小宮。
どちらが勝つかはまだ誰にもわからない。
しかし、両者から伝わってくる気迫は他《た》のものを圧倒するものであった……。
「これが……今の私の全力だ!」
小宮はそう言うと、四本の刀をギリギリ躱《かわ》しながら赤鬼の懐《ふところ》に入った。
「小宮式剣術……参《さん》の型最終番『効果爆散斬』!」
紅蓮の炎は赤鬼の体内に侵入した瞬間、赤鬼を爆発させた。
その爆発に巻き込まれなかったのは、それを放った小宮ただ一人……。
なぜなら、この刀は所有者が敵だと思っている者にしか攻撃を当てないからだ。
小宮はその刀を鞘に収めた直後、その場で倒れた。
しかし、小宮は笑っていた。
一人の剣術使いが自分の全てを出し切った時、彼女のように笑うかどうかはわからないが、今の彼女からは後悔というものは全く感じられなかった……。