研究室の明かりが落ち、静かな夜が訪れていた。ツナっちは簡易ソファに横たわるくられの様子を見守る。呼吸はまだ浅く、微かに寝返りを打つ気配に肩をすくめながら、そっとブランケットの位置を整える。傍に置いた温かい白湯のカップに手を添え、時折湯気を見つめている。
くられの瞼がゆっくりと開き、かすかな声が漏れる。
「……ツナっち、まだ起きてるの……?」
ツナっちは小さく笑みを返し、穏やかに答えた。
「先生がちゃんと休むまで、俺も寝ませんからね」
くられは目を細め、微かに唇を動かす。
「そっか……ありがとう……」
息が浅く、声も力なく、普段の威勢はない。それでもわずかに微笑みを浮かべる仕草に、ツナっちは胸の奥が締め付けられるような思いを覚えた。
ツナっちは声を柔らかく、しかし確かな調子で促した。
「無茶しないって、約束してくださいね」
くられは肩をゆるりと揺らし、目を閉じたままかすかに吐息を漏らす。
「……善処します……」
言葉は曖昧で、確約ではない。けれど、くられらしい気負わない返事に思えた。
ツナっちはそっとブランケットを整え、くられの肩にかける。体温を感じながら、手のひらで背中を軽くさすった。寝返りを打つたびに、くられの肩がわずかに震える。それでも力なくも安堵の息を漏らす様子に、ツナっちは胸を撫で下ろした。
「無理しすぎたら、俺が黙ってませんからね……」
小さな声で呟くと、くられはかすかに微笑み、浅い息をつく。目はすぐに閉じられ、眠りに落ちていった。
ツナっちは隣のソファに腰を下ろし、同じ空気の中で静かに時間を過ごす。ブランケットに包まれたくられの呼吸のリズムを確かめ、時折そっと背中に手を添える。夜の静けさが深まるにつれ、二人だけの世界は穏やかに落ち着きを取り戻していった。
窓の外にはうっすらと夜の影が残り、遠くの街灯がぼんやりと光を落とす。ツナっちはくられの肩越しにその光を見つめ、心の中でそっと決意した。
――先生が倒れるほど打ち込むのはすごいけど、守れるのは俺しかいない。無理をさせない、ちゃんと見届けるんだ。
くられが眠るその傍らで、ツナっちは小さく息をつき、ブランケットをさらに整えた。
「おやすみなさい、先生」
その声が夜に溶ける。ランプの灯りはゆっくりと揺らめき、二人を包む静かな夜が、優しく流れていった。
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