コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
*約2500文字
*心配tn × 不眠症gr
*イイネ、コメント、フォロー、励みになります
✎︎______________
外からの雑音が少なくなり、カーテンから覗く暗闇がやけに落ち着く深夜2時。
今は深夜という事実に意識がぽやぽやし始めると同時に、今自分の目の前にいる男をどうにかしなければ安心して眠れない…という悲しい現実が、早く寝ようと急かす睡魔を往復ビンタしている。
gr「…別にいい。俺は自分の部屋に戻って仕事すると言っているだろう。」
tn「それがあかんの。グルさん仕事溜まってる訳やないし、それに最後寝たのいつや?仮眠なしのオールちゃうんか」
gr「……眠れないから仕事をする。これの何が悪いんだよ」
どうしてこうなってしまったのか。
目の前にいる男、基グルッペンはいわゆる不眠症というやつだ。
今はまだマシだが、元社畜のグルさんはとんでもない量の仕事に追われ続け、いつしか自分の知らない所で不眠症になっていた。
その事実が発覚したのは、グルさんの部屋に備えてある冷蔵庫を開けた時大量のエナジードリンクが入ってあった時。
サイドに水を数本入れ、その奥に少量のいちごミルク、そしてその他全てエナジードリンク。
これを見た時の恐怖は恐らく二度と味わえないものだと思う。これに気づけなかった不甲斐ない自分を思いっきり殴ってやりたいと思ったのもその時が初めてであった。
tn「俺はグルさんが心配でしゃーないねん…あの大量のエナドリを肌身欠かさず持ち歩いてたグルさんをもう想像したくないし、その隈も簡単に治るようなもんやない…」
1回仕事の事は忘れて寝てくれへんかと提案を持ち出せば、グルさんは腰掛けていた椅子から立ち上がり、ドアノブに手をかける。
tn「…ッグルさん……」
gr「おまえには分からんだろ。寝たくても寝られない、あれを飲まんと気が狂いそうになる人の気持ちが。…邪魔して悪かったな」
今はまだ考えるべき。脳はそう判断したのだろう。待って、という言葉は喉の奥でつっかえたまま、声になって出てくることは無かった。
あぁ、やってしまった。グルさんの事をもっと考えるべきだった。どうやって謝ろう。
そんな事が頭の中をぐるぐる回る。部屋から立ち去る彼の背中は、昔見た時よりも随分小さく見えた。どうして気づいたきっかけがエナドリなんだよ、もっと彼自身を見てやるべきだった。
はぁ……と、一つため息を零せば、机の端にぽつんと置かれている(ミルクココア)と書かれた袋が目にはいった。そういえば、お互い仕事が忙しくない時は、よくこれを作ってやってたっけ。
………自分は超が付くほどの不器用だ。そんな奴が口だけでグルさんの体調やら機嫌やらを治せるわけがない。
ならせめて、少しでも落ち着けるよう温かい飲み物でもあげて、時間が経ったら一度謝りに行こう。
食器棚の、少し低めの位置においてある一つのマグカップ。グルさんがお気に入りのように使ってくれていたこれは、グルさんが好きなコーヒー、ココアを飲む時の為に自分がプレゼントしたものだ。
…グルさんの主食がエナジードリンクになった頃から、これを使っているのを見たことはあまりないが。
……気を取り直して、マグカップにココアの粉とホットミルク、そして少量の砂糖を入れ、よくかき混ぜる。よく混ぜ合わせることが出来たら、仕上げにホイップクリーム、マシュマロを乗せて、完成だ。
名付けて、グルさん専用ゲロ甘ホイップココア…だな。
そんなくだらない事はさておき。出来上がったホットココアを持ち、ふう…と、一つため息を逃がしてから、覚悟を決める。
薄暗い廊下を歩き、グルさんの部屋の前に立つ。
深く息を吸って、ノックを3回。
tn「グルさん…入ってもええか?」
gr「……あぁ。」
がちゃ、と扉を開けて入ると、前に見た時よりもどこか物が減り、しかし散らかっている部屋がそこにあった。
tn「あの……さっきは、ごめん。グルさんの気持ち、考えれてなかった」
gr「…」
tn「その……グルさんが好きなココア入れたから、…ちょっとでも、リラックスできるように、…えと、」
上手く言葉が出てこない。さっきまであんなに謝ろう、謝ろうと思っていたくせに、いざ本人を目の前にするとこんなにも駄目になってしまう。
なんで俺はいつもこうなんだ、なんで、
gr「なあ、トン氏。」
tn「ぇあっ、ど、したん?」
gr「最近仕事ばっかで、自分の好きな事にも目を向けれてなかった気がするんだ」
tn「おん…」
gr「あーー……その、だから!」
「…今日は、久しぶりに一緒に寝ないか。」
tn「っグルさん…!!」
その言葉を聞いた途端、体が制御できなくなりグルさんの体を思いっきり抱き締める。
久しぶりに抱き締めたグルさんの体は、前抱き締めた時よりもかなり細くなっている気がした。
gr「ぐええええ!!ちょ、ちょっとまてトン氏、潰れる!てかココア溢れる!!」
tn「えっ、あぁあ!ごめん!つい…」
自分の手にココアがある事を忘れていた。思わず溢れてないか確認したが、上にどっかりと乗っているホイップクリームが幸いにも蓋になってくれていたようで、大惨事には至っていなかった。
gr「っあ〜〜…危ねえなトン氏この野郎、折角作ったココアが台無しになってたらその蹄剥ぐところだったぞ」
tn「ごめんってぇ…だって、」
貴方が私を頼ってくれたから。
つい口から溢れそうになったその言葉はどこか小っ恥ずかしくて、んぐ、と喉の奥にしまい込んだ。
gr「はあ…とりあえず、トン氏が作ってくれたこのゲロ甘ホイップココアを堪能しなきゃならん。これをこぼすところだった哀れなトン氏はベッドで待ってろ。」
ゲロ甘ホイップココア、その単語を聞いて思わず吹き出してしまう。
ネーミングセンス一緒やんけ。
gr「あ?んだよ、なんかあんのか?」
tn「んふっ…ふふ、いや、なんでもない」
はあ?と不満気な顔をしながら椅子に座るグルさん。こちらから見えるその背中はやはり小さいが、先程よりもどこか元気なように見えた。
「なあ、グルさん。」
これを言うのは少し早い気がするけれど、今なら何度だって言える言葉。
「ん?」
あまり眠れない貴方へ。
貴方が、少しでもいい夢を見れますように。
「おやすみ!!!」
fin.