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しずく@病み×鬱
朝が訪れ、怪盗団の隠れ家に新しい光が差し込む。
昨夜の賑やかなお祝いムードから一転、リビングのモニターには新しいターゲットのホログラムが映し出されていた。
次なる目的地は、厳重な海上セキュリティに守られた孤島のプライベートセカンドハウス。
狙うは、漆黒の台座に鎮座する、燃えるような赤が美しい幻のルビー『プロミネンス』。
今回は、その圧倒的なドライビングテクニックと冷静な判断力を持つなつが作戦の主軸を担う。
「──よし、全員配置についたな?」
インカムから響ているまの低い声が、早朝の引き締まった空気を震わせる。
島の周囲は激しい潮流と張り巡らされた水中レーザー。正面突破は不可能なこの要塞に、彼らは海からではなく、空からアプローチを仕掛けていた。
潜入用のヘリから一番に飛び降りたのは、なつだ。
風を切り裂き、音もなく建物の屋上に着地する。いつもの気怠げな雰囲気は一切なく、その鋭い視線は獲物だけを捉えていた。
「なつ、後ろ! 屋上の自動防衛ドローンが起動したよ!」
らんの焦った声がインカムに飛び込む。
背後から迫る3機のドローン。銃口がなつに向けられたその瞬間、彼は不敵に口元を歪めた。
「焦んなって。……ちょっと黙ってろ」
暇72の特殊能力──
『絶対命令(オーダー)』。
彼の発する「言葉」には、聞いた対象(機械や生物問わず)の思考回路やプログラムを強制的に上書きし、自らの支配下に置く絶対的な強制力が宿っている。
「──『 停止(シャットダウン) 』」
低く、有無を言わせない冷徹な声が響いた瞬間、迫り来ていたドローンたちのライトが赤からグレーへと変わり、その場に力なく落下した。
「相変わらずなつくんの声、威圧感すごいや……味方でよかったぁ」
「こさめ、油断するな。なつ、そのまま中央の吹き抜けから侵入しろ。最短ルートのロックは俺が外してある」
「了解。……じゃ、さくっと終わらせるか」
なつは手際よくワイヤーをセットすると、最深部にある保管庫へと音もなく降下していった。
赤く燃え盛るような『プロミネンス』が、強化ガラスの向こうで怪しく輝いている。
暇72が特殊なレーザーカッターでガラスを切り抜き、手袋をはめた手で宝石を掴み取った。
『──侵入者あり! 保管庫に直行せよ!』
その瞬間、館内に警告音が鳴り響く。島全体の防衛システムが「宝石のバイタル喪失」を検知したのだ。
「なつくん、正面のハッチから警備ロボットの軍勢が向かってる! 囲まれる前に引いて!」
みことの声に緊張が走る。だが、なつはため息をひとつついた。
「引く? 予定通りだろ。すち、車の準備は?」
「ん……いつでもいけるよ。裏口のスロープ下に、特製の水陸両用艇を回してある。エンジン全開」
「上出来」
なつは手に入れたルビーをポケットに滑り込ませると、押し寄せる警備ロボットたちを鼻で笑い、あえて正面の通路へと駆け出した。
曲がり角から現れた強固な装甲を持つ警備マシンが、一斉に彼をロックオンする。
「そこを動くな、不審者!」
ロボットの電子音声に対し、なつは走る速度を一切落とさず、ただ一言、その絶対の声を浴びせた。
「──『 道 を 空 け ろ 』」
その声が通路に響き渡った瞬間、ロボットたちの駆動系が強制的にバグを起こした。自ら回れ右をして壁際に整列し、まるで偉大な王を迎えるかのように、なつのために美しく一本の道を切り開いたのだ。
「サンキュ」
悠然とその真ん中を駆け抜け、暇72は裏口のテラスから、眼下に待機するすちのボートへと飛び降りた。
「ナイス着地、暇ちゃん! はい、これ回収!」
すちが操縦席から手を振る。なつが乗り込むと同時に、ボートは猛烈な水しぶきを上げて加速した。
「追っ手のヘリが来るぞ! なつ、振り切れるか!?」
いるまの指示に、今度はなつがニヤリと笑って操縦桿を奪い取る。
「誰に向かって言ってんだ? 俺のドライブからは、誰も逃げられねぇよ」
ハンドルを握ったなつの目が、最高のスリルを前にしてギラリと輝く。
激しい水面を自由自在に滑走し、島の追撃を鮮やかに引き離していく怪盗団。
朝の光に照らされた海の上、なつが手に入れた『プロミネンス』が、彼のカラーと同じ情熱的な赤色を放ちながら、眩しく輝いていた。
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