テラーノベル
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大阪府内。電車を乗り継ぎ、さらにバスで揺られてようやく着く――
ちょっと遠い、松山の故郷。
松山(独り言)
「……何も変わってへんなぁ。
コンビニ一軒、信号一個。
ほんま、時間止まっとるみたいや」
改札を出ると、タバコを咥えた男が電柱にもたれている。
浦佐(30代)
「おーい、松山。
警察さんのお帰りや」
松山
「その呼び方やめぇ言うてるやろ。
……久しぶりやな、浦佐」
浦佐
「何年ぶりや?
顔がもう“大阪のサラリーマン”やで」
松山
「うるさいわ。
お前は……変わってへんな」
浦佐
「そらそうや。
変わるほど器用ちゃう」
二人、歩き出す。
松山
「まだこの道、夜になると真っ暗やな」
浦佐
「街灯一本増えたで。
行政の本気や」
松山
「しょぼすぎるわ」
笑う二人。
浦佐
「警察の仕事どうや?」
松山
「まぁな。
交番勤務で、変な人相手にする毎日や」
浦佐
「……変な人?」
松山
「聞かん方がええ。
命の話ばっかりする大学生とか」
浦佐
「はは、そら大変やな」
一瞬、浦佐の携帯が震える。
画面を見て、すぐポケットにしまう。
松山
「忙しそうやな」
浦佐
「まぁ……色々な」
松山
「昔からやな、その“色々”」
浦佐
「詮索せぇへんの、助かるわ」
居酒屋にて
地元の小さな居酒屋。
松山
「ここ、まだやっとったんか」
浦佐
「親父さん、しぶといからな」
ビールが置かれる。
松山
「……なぁ浦佐」
浦佐
「ん?」
松山
「俺さ、
警察なって良かったんかなって思う時あんねん」
浦佐
「急やな」
松山
「正しいことしてるつもりでも、
誰かの人生止めとる気ぃしてな」
浦佐、少しだけ視線を落とす。
浦佐
「……お前は正しい側や」
松山
「即答やな」
浦佐
「お前はな、
昔から逃げへんかった。
それだけで十分や」
松山
「お前は?」
浦佐
「俺か?」
一瞬、間。
浦佐
「俺は……
選択肢、あんま無かっただけや」
松山、深くは聞かない。
松山
「昔みたいにさ、
川で石投げて、
どっちが遠くまで飛ぶかとか、
そんなんだけ考えて生きれたらええのにな」
浦佐
「今それやったら通報されるわ」
松山
「確かに。
俺が捕まえる側や」
二人、笑う。
夜。
店の前。
浦佐
「また帰ってこい」
松山
「お前が元気ならな」
浦佐
「……元気やで」
その背後、路地の奥に
黒いスーツの男たちが数人、待っている。
浦佐
「じゃあな、警察さん」
松山
「だからその呼び方――」
振り返った時、
浦佐はもう、そっちの世界の顔になっていた。
松山(小さく)
「……無事でおれよ、浦佐」
浦佐、振り返らずに手を挙げる。
帰りの電車。
松山(独り言)
「本音言える相手が一人おるだけで、
人はなんとか生きていけるんやな……」
窓の外、
大阪の灯りが流れていく。
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