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私と雅弥との出逢いは五年前
私の勤める店に来た彼は、その日酷く落ち込んでいたみたいだった。
お酒を飲んでいたようでアルコールの匂いがした。
「お客さん、服を預かるわよ?」
彼はネクタイを外していたけど真っ黒なスーツ姿でそれは喪服のようだった。
「お風呂……入りませんか?」
「……あ。あぁ」
彼は素直にシャツのボタンを外し、ベルトをゆるめた。
お風呂で身体を洗っていても、浴槽で口淫を行っても彼はあまり反応を見せなかった。
「お酒を召し上がってるみたいだし、あまり長湯も良くないわ。ベッドに行きましょうか?」
アルコールの入っているお客さんは、感度が鈍くてなかなかイカないことが多い。
酔い醒ましをさせようと冷たい飲み物を出してみた。
「ありがとう」
そして、沈黙。
一本のサービス時間は120分
残り60分を切ってしまった。
「お客さん、してもいいし、そういう気分じゃなきゃ他のことしてもいいわ。苛々してるなら私に八つ当たりしてもいいのよ?」
時折酷く苦しそうな顔を見せる彼が、何だか可哀想に思えた
……私もやるせない気持ちを抱いて生きている。
そして、何をしたらその痛みから逃れられるのか全くわからない。
別に私はマゾヒストではなかった。
だけど、叩かれるくらいなら良いかな。
そう思って言葉にした。
「君に八つ当たり?……そんなことは出来ないよ。ごめんね、気を遣わせてしまったな。どうしようもないことでイラだってしまって、自分で処理出来なかったんだ」
「よっぽど、辛いことがあったのね」
彼の頭に手を置いて
「撫でてもいいかな?」
彼は黙ったまま、私に寄りかかってきた
ゆっくり彼の髪に指を絡めながら撫でていると
「はぁぁ」と大きなため息をついた。
「ありがとう、何だか落ち着いた。あの……俺、こういう店初めてなんだけど……抱いてもいい?」
「うん。私が主導してもいいけど……」
「君を、僕が抱きたい」
「うん。」
コンドームを被せてあげると、彼は私の肩を掴み、そこからは行為に夢中になっていった
時折
「……くそっ」
と呟きながら、目尻に涙が見えた。
そして、何度も激しく腰を打ちつけてから
身体を強張らせた後に
フッと彼の身体が弛緩した。
「……ごめん、乱暴にしたよね」
ゴムを自分で外そうとする手を制して
そっと外しながら
「ううん。怒りをぶつけていたみたいだったけど、優しかったよ」
そう口にすると、彼は私の頭を閉じ込めるように強く抱き締めてきた。
「君って、不思議な子だよね」
私はこの業界で五年勤めていて、色々な客を見てきたけれど、彼はどこか特別に感じた
それから、雅弥は月に三回程度通ってきたけど、毎回行為を行うわけでもなく
服も脱がずお喋りするだけで終わることも多かった。
そして、そんな関係を四ヶ月ほど続けたある日、私が塞いでいた
休みを取っていたが、出勤する女の子がとても少ないからと店長に頭を下げられ仕方なく出ると
彼が来てくれた。
「居ないと聞いてたけど、会いたくて店に確認したら出勤してると言われたんだ。会えて嬉しいよ」
「うん、本当は休みだったんだけどね」
「なんか元気がないね?」
「ん、ちょっとね。明日、行きたくない予定があるの」
それは、兄の七回忌法要だった。
「行きたくないけど、行かなきゃいけない感じなんだ?」
「まぁ……ね」
「一緒に行ってあげようか?途中までとか」
「本当!?あ、でも会社は?」
「いいよ。急ぎの仕事も無いし病欠でサボるよ」
―――
翌日待ち合わせの駅で会った。
けれど、私はどうしても行きたくなくて
雅弥にわがままを言って
二人で郊外に遊びに行った
スマートフォンには、母や親戚からうんざりするほど電話が来たが
電源を落として無視した
あんなアホな兄貴の法事だなんて行きたくない
この日以降
私は実家に行かなくなった
そして、お金だけ送り続けた
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