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グレーのスーツを着た長身の男性。准はその人物を見て息を飲んだ。
「うわ……っ。涼、あの人だよ。俺が言ってた人は」
「うっそ、なんてタイミング。俺隠れてますね!」
アクション映画のようなノリで出てきた割に、涼はすぐに車の後ろへ回って隠れた。さすがに顔を合わせるつもりはなかったようだ。
気を引き締めるつもりでネクタイを締め直す。そして右手からやってくる青年に挨拶した。
「おはようございます、加東さん」
「あぁ、准君。おはよう」
青年は、眠そうな目と声で返した。動作も緩慢な彼こそ、准が今現在気になっている相手。
営業部に務める六つ歳上の上司、加東大陽《かとうたいよう》だ。
「あれ。准君、何かちょっと顔色悪くない?」
「え?」
加東は前のめりになり、心配そうに准の顔を覗き込んだ。一気に距離が縮まる。どんなに親しい相手でもここまで顔を近付けることは少ない為、思わず後ずさった。しかし不審に思われるわけにもいかないので、極力無表情を保つ。
「何かあった? 俺で良かったら聴くよ。ちょうど今日は何も予定ないから」
「えっ、でも」
「うん、決まり。今日は残業しないでよ、准君? じゃ、また後でね」
ポンポンと話を進め、彼は手を振って行ってしまった。これは……果たして、喜んでいいんだろうか。あまりにマイペースで掴みどころがない。
でも、そこが良い。あの掴み所のない性格が好きだ。
気づけば少し手汗が滲んでる。彼と話す前にどれだけ緊張していたかよく分かった。
「准さん、おめでとうございます! これで処女は喪失ですね。薬は買っておきますのでご安心ください。あ、俺早く銀行行ってお金おろさなきゃ」
何を言ってんのか分からない(というより分かりたくない)が、涼は拍手しながら准の後ろに現れた。
「ふふ、准さんデートのお誘いなんてやるじゃないですかぁ」
「デートじゃない。相談に乗ってもらうだけ」
だから素直には喜べず、車のキーでドアをロックした。
「諦めないでください、二人になればこっちのもんですよ。ウブなふりして相手を油断させて……くくっ、ふふふふ……」
「お前ヤることしか考えてないんだか。何か逆に哀れに思えてきたよ」
「まぁまぁ、俺が一からデートのコツを教えて差し上げますよ! なんで一緒に頑張りましょう!」
そう涼は意気込んでいるが、准は不安でしょうがなかった。来たばかりだけど早くも帰りたい。
大体の温度差が違う。ため息を飲み込んで天井を見上げた。
デートねぇ……。