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78 ◇採用される運びとなる
哲司の幼馴染だという大川雅代という女性は、慣れない面接に戸惑っている
ふうではあったが、見るからに……聞くからに……人柄の良さが滲み出ている
ような人であった。
そのため、なんなく雅代は合格をし、同日に面接に来ていた田中節子22才共々
採用されることとなる。
親子ほどの年の差のある同期であった。
ふたりとも、自宅から通うには少々遠方だったため、寮に入所して勤める
ことになる。
哲司のツテであるという点と本人の人柄もあり、温子や珠代そして絹とは
すぐに打ち解け他の工員たちに比べて少し距離が近くなる。
そんなだったから、素朴で大人しめの節子も雅代を介して温子たちに心を
開いていった。
雅代も節子も、これまで紆余曲折あり、家では肩身の狭い思いをするという
経験を経て、自立・自活の道が開かれたことで毎日が喜びの連続であった。
ふたりにしてみれば、まさしく夢のような生活が製糸工場勤めと寮住まいには
あった。
……とはいえ、粗末な住み込みの寮、労働に拘束される時間は12時間で、
それに対して休憩時間はほんの僅かと、重労働で厳しい勤めであった。
それでも温子や珠代、絹たちに見守られれながら、ふたりは製糸工場での仕事
を弱音を吐かず懸命に励み、少しずつ職場に馴染んでいった。
雅代がこのような環境になったため、雅代と哲司のその後の交流はもっぱら
手紙のみとなっていた。
それも雅代が毎夜疲れ切って早々と睡魔に負けて寝てしまうため、なかなか
哲司への返事もままならず、二度手紙を出したのみであった。
二度目の手紙で、やっと公休が取れるので実家へ帰るのだということを
伝えた。
折角、勤め先と住まいが哲司の家から近いところだというのに、世の中は
ほんとうにままならないようにできていて、雅代のような工員は毎日働きずめで、
哲司のようにサラリーマンで毎週休みがもらえるわけでもなく、以前のようには
おいそれとは会えなくなってしまった。
でも、雅代は新しい生活に馴染もうと前向きでいたので、哲司に会えない
寂しさはあるものの、そのことをそれほど苦には感じなかった。
ただ帰省の事を直接話して伝えたわけでもなく、手紙なので哲司の反応も
分からずじまいで―――。
雅代は電車に揺られて実家へと2か月ぶりに帰省した。
――――― シナリオ風 ―――――
◇面接の日
〇北山製糸工場/応接室・面接会場
緊張気味の雅代が入室。
隣には田中節子22歳。
温子と涼が机に座る。
珠代と絹は雑務を装い、部屋を出入りして2人を観察。
(N)
「雅代は慣れない面接に戸惑っていたが、言葉や所作の端々から人柄の良さが
滲み出ていた」
涼が静かに頷き、温子が微笑む。
(N)
「その日、雅代と節子はともに採用された。
年齢差は親子ほど。
2人はともに寮へ入ることになった」
◇寮生活と労働
〇寮の部屋/工場内の作業場
寮の狭い布団に並んで眠る雅代と節子。
早朝の鐘で起こされ、作業場へ向かう姿。
(N)
「粗末な寮、十二時間労働。休憩はほんのわずか。
それでも二人にとっては夢のような毎日だった。
肩身の狭さに耐えた過去から解き放たれ、ようやく自立への道を
得たのだ」
作業に励む雅代。温子や珠代、絹の視線が温かく見守る。
節子も少しずつ心を開き笑顔を見せる。
(N)「雅代と哲司のその後の交流はもっぱら手紙のみとなっていた」
〇製糸工場/寮の机 夜
雅代が筆を走らせる。
(N)
「仕事に追われ、雅代は手紙を二度しか出せなかった。
二度目の手紙でようやく伝えた――公休をもらい、実家へ帰ることを」
封を閉じて、灯を吹き消す雅代。
机に突っ伏し、そのまま眠り込む。
◇帰省
〇汽車の車内
窓辺の雅代。揺れる汽車。窓から差し込む光に顔を向ける雅代。
少し疲れた表情だが、口元には安堵の笑み。
(N)
「勤め始めて二か月。ようやく得た休日。
雅代は電車に揺られ、実家へと帰省した」
汽笛が鳴り、列車が走り抜けていく。
―― 豆知識 ――
※某製糸工場にある寮は2~3人で8帖一部屋を使っていたり
多い時には8人ぐらいでぎゅうぎゅう詰めになって寝ていたようです。
温子と絹の時は、あまり考えず、1人一部屋と言う設定にしています。
今回、雅代と節子はシナリオにて同室という設定にしました。
小説では、触れていません。
また現場で働く女性たちのことは『女工』『工女』という呼び方を
されていたみたいです。