「 夏 の果 」
 もとぱ
 
若井side
 蝉の声が夕焼けに消えていく時間帯が、どうしてこんなに寂しく感じるんだろう。
元貴と知り合ってから、何度目の放課後だろうか。
彼は今日も、何も言わずに屋上に現れた。
頬のカットバンが新しくなっていた。
それだけで、「 今日は何かあったのか 」と思ってしまう。
けれど、彼は一言も触れないし、俺も聞かない。
 「 行こうか 」
 俺がそう言えば、元貴は何も言わずに頷く。
それだけで、もう慣れてしまった。
コンビニまではゆるい坂道。
セミの鳴き声、舗装のひび割れ、ラムネの冷蔵庫が開く音。
この時間の全部が、元貴の記憶と重なる。
瓶を手渡すと、彼はビー玉をじっと見つめた。
ラムネを開けるのが少し苦手らしく、俺が代わりに開けてやると、そっと小さく「ありがと」と言った。
その声が、壊れそうなくらいか細くて、胸が痛くなる。
飲みながら歩く帰り道、元貴がぽつんと呟いた。
 「 夏 、 いつ終わるんだろ 」
 「 …まだ蝉が鳴いてるから もう少しかな、 」
 そう返すと、彼は「 そっか 」とだけ言って、口をつけた。
ラムネの瓶の口に、唇が淡く触れる。
それだけの仕草なのに、妙に綺麗だと思った。
俺は、助けたいわけじゃない。
元貴の全部を知りたいわけでもない。
ただ、消えそうなその姿を、ずっと見ていたいと思った。
わがままだとわかっている。
けれど、どうしようもなく惹かれていた。
学校に戻ると、元貴はふっと俺の方を見て、言った。
 「 若井って、やさしいね 」
 「 そんなことないよ 」
 「 …でも、好きって言えば 優しくしてくれるんでしょ、 」
 その問いかけに、うまく答えられなかった。
俺が本気で彼を好きだとしても、元貴の「 好き 」は、まるでどこにも届いていない気がした。
何かが、すれ違ってる。
でもそれを認めたら、彼との時間が崩れそうで怖かった。
だから俺は、笑って言う。
 「 当たり前じゃん。好きって言われたら、何だってしてあげたいって思うだろ 」
 元貴は笑わなかった。
ただ、視線を逸らしただけだった───
 #5.「 匂いの残る場所 」
 
切ないですね、、
急に寒すぎるт т
コメント
3件
久しぶりですね୧( "̮ )୨ ほんとに大森さん儚すぎてふらっと消えちゃいそうで怖い🥹 ♡♡♡の時もすっっごく怖かったです😭 最近寒暖差すごいから体調気を付けてくださいね♪