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「………は?クロー………ン?」
カエデは混乱する頭を落ち着かせようとする。
(カナタの、クローン?は?じゃあキビアイのNo.3とタヨキミ最強の男は、同一人物ってことか……?でもカナタはもっと語尾を切らすし、そもそもコイツがさっきいった通り、顔が少し違うよな)
カナタは、もっと、こう………人をバカにしたような、世の中を見下しているような生意気な目をしてる。伏せがちと言うのが正しいのだろうか……それに比べハルカは、目がぱっちり開いていて、カナタより女の子っぽいというか、可愛らしい。
「……私は頭が悪いんだ。もっとわかりやすく説明しろよ、我孫子……ハルカ、さん」
「うんうん、ハルカもそう思うよ~。おねーさん、明らかに体力で通してそうな馬鹿っぽいもんね!ハルカはカナタを元につくられた、改造人間ですよって言ってるわけ~。理解できた?」
いや、一切理解できん……カエデは心のなかでツッコみつつ、適当に「なるほど」と相槌をうった。
「じゃあハルカとカナタは、別の人間、なんだな?テレパシーとか………」
「ほんと馬鹿だね~、できないよ。カナタとテレパシーとか、吐きそうで死んでも願い下げだね」
カエデは、ハルカの言い方に引っ掛かる。
発言を聞くにハルカは、カナタのことが気に入っていないようだ。
「ハルカ、お前カナタが嫌いなのか?たしかに生意気でムカつくが、良い奴だろ」
その質問に、ハルカは急に真顔になる。
カエデが驚くと、ハルカはまた口角をあげた。そのまま、冷めきった笑顔で言い放つ。
「いや、好きな訳ないじゃん。なんたってハルカがキビアイに入ったのは、カナタを殺すためだし?ハルカ、ムカつくんだよね………ハルカより馬鹿で最低な奴が、ハルカの親だって事実に」
さすがのカエデも、ハルカの圧にひるんだ。
「……カナタを殺して、どうするんだ」
「カナタを殺せば、ハルカは、本当のハルカになれる……オリジナルの、ハルカに。だれかの模倣品じゃなくて、唯一無二に、ハルカはなってみたい。それでね、おねーさんが今担いでるそこのイヌイと、一生いっしょに、幸せに暮らすんだ。イヌイと約束したの、ずっといっしょだよって」
その回答に、カエデは苦笑する。
(クローンってのも、大変なんだな……)
………時間稼ぎも、そろそろ限界だろう。
カエデは決心し、話題をうつした。
「……ところでよぉ、No.4を返してほしいんだっけか?言っとくが、お前がまともに戦って勝てる相手ではねえぞ」
ハルカはそれを聞いて、笑う。
「おねーさん、透過の能力に緑の髪、強いで有名のノノカエデでしょ?簡単だよ~、たぶん」
ハルカの発言に、カエデも笑った。
「ハズレ、だな。私はカエデだが……お前の相手は、私じゃない」
その瞬間、ハルカの背後から、銃声がする。
ハルカが振り向くと、そこには、銃を構えたお下げの女の子……ユズキがいた。
ユズキは走って、ハルカに近づく……と、そのままハルカの隣を素通り。
不思議そうな顔をするハルカの前で、ユズキは、眠っているイヌイに触れた。
「……申し遅れました、わたしはタヨキミの、江國ユズキという者です。わたしが相手をしましょう、カエデよりも賢いですよ。もちろん、貴方よりも」
自信満々に言うユズキに、ハルカは相変わらずの笑顔でこたえた。
「どうも~、ハルカっていいます。ハルカより賢いってマ?ウケる~」
煽りの混じった笑顔を完全スルーし、ユズキは人差し指をたてる。
「それでは、クイズです。私の能力はなんでしょうか。1、治癒 2、模写」
いきなり出されたクイズに、ハルカは面白そうに眉を下げた。
「え、なにそれ。不思議な子だね~。イヌイがダウンしてるのはサチの能力のせいであって、治癒が効くような状況じゃないんだよ、だから模写でしょ。少し考えたらわかるよね」
ユズキはハルカに、感心する。
(わたしが敢えて出した簡単な問題を、根拠を指摘しながら正解し、しかも煽ってくる……見たところ小学校も卒業してなさそうなのに、その頭脳は一体どこから)
キビアイのメンバーは、大体幼卒。いや、まともに幼稚園にさえ行っていない人が殆どだろう。
「……まあいいでしょう。そんなことより、わたしが来たことによって、2対1ですね。いいんですか、仲間を呼ばなくて」
「ん~、女が二人になったところであんま変わんないし?一応、キビアイっていう犯罪組織の上から三番目だからね」
そう言ったハルカの背後に、十数本のナイフが浮かぶ。
「ハルカの能力はカナタと同じ”操剣”で、強さも性能もぜーんぶ、カナタといっしょ。おねーさんたち、このハルカさんから可愛い可愛いイヌイを奪おうってなら………悪いけど、死んでもらうよ」
(………埒が、明かない…………)
サユはサチの鉄球を、後ろに跳びのけるように避ける。
(もう、限界が近い。カエデ、上手くやれてるかな……)
休まずに鉄球を振り続けているサチは疲れているような様子もなく、ただ、サユの体力がどんどん削られていった。
もう、10分も持たない。サユの体が悲鳴をあげている。
だからと言って、逃げられない。サチはきっと足が速い。
そもそも残りの体力を振り絞って逃げたとて、スピードは出ないだろう。
(どうにかしなきゃ……)
なにか、行動を起こさなければ。
体力が切れる前に、サチを救わなくては。
そうしなければサユは、倒れるまで鉄球を避けることになる。
ブローチをつけてる余裕はない。
なにか、良い方法───
サユは、思い付いた。
これは、タヨキミとして……キビアイを救う側として、最も相応しくない行動だ。
でもこうでもしなければ、きっと、サチは救えない………!
サユは思いきって、前に出る。
そして飛んできた鉄球の、鎖の部分を掴んだ。
「!?」
サチは、サユのまさかの行動に驚く。
そんなサチを無視し、サユは勢いよく、鉄球を投げた。
「サチ、ごめんね!でも、これも……サチが将来幸せに暮らすためには、必要なことなんだ!」
サユが投げた鉄球は一直線に飛んでいき、サチの側頭部に、勢いよく当たった。
熱くなる周りの空気。
胸の鼓動とひどい息切れで、周りの音が聞こえない。
自分の身に何があって、今どうなってるのか………朦朧とする意識のなかで、俺は考えた。
目の前には、燃えた、家。あれはだれの家なのだろうか、知っていた気がするが、思い出せない。
「………母っ、さん、父……さん……」
どこ行ったの………あれ、両親って、どんな顔してたっけ………?
「探さなきゃ………」
俺は立ち上がる。
わかんないけど、探さなきゃ。覚えてないけど、探さなきゃ。
「……君、中に飛び込んだら、死ぬよ?」
家に入ろうとしたら、突然、俺の真っ赤な手を掴んで………ボスはそう言った。
家族も友人も、誰ひとり覚えちゃいない。
あの日………目の前が真っ赤な炎で覆い尽くされた日以来の、記憶がないんだ。
ただ、俺の名は[雲雀サチ]である……その記憶だけ置き去りに、俺は殆どを忘れた。
俺は人間が嫌いだ。互いに焦がれ、互いに傷付け、互いに散る。実に愚かで、実に低能。
世の中は平穏やら世界平和やらほざいているが、俺に見えてる世界には、平穏なんて見当たらない。
存在するだけ、無駄な人生だ。記憶はないが、今の自分を見るに、きっとそうだろう。
アイツは言った。
誰かに尽くせば、いずれ自分も、その人に尽くされると。
でも記憶がある中で、そんな経験はない。
俺はボスに尽くし、ボスに尽くされることもなく、やがて朽ち果てる。
決して、見返りを求めてはいけない関係。
いいように利用されている。そんなことは、ずっと前からわかっていた。
たとえその人が示してくれた真実が嘘偽りだったとしても、俺に、信じる以外の選択肢はない。
知らないのだから、覚えていないのだから。
──俺の両親は、俺を見捨てた。
と、ボスが、言っていた。
頭が真っ赤になった。俺はボスの言葉を、なぜかいとも簡単に信じ込んだ。
あの日、俺の家は、犯人不明の放火事件にあったらしい。
その際に、俺を見捨てて自分たちだけで脱出しようとした両親が、二人揃って死んだ。俺は助かった。
行く宛もなかった俺の手を引き、ボスは、”キビアイ”に俺を加入させた。
「ここなら、誰も君を見捨てない──もちろん俺も、上層部のみんなも」
『上層部』………そう呼ばれた少年たちは、世の中に、また大人に、呆れたような顔をしていた。
俺は、この組織を信じると決めた。
「…………フッー…、…ゔ、あ゙」
苦しそうにしゃがみこむサチを前に、サユは焦った。
我ながら、最低なことを……でもここで何か言葉をかけなければ、サチを……!
「思い出してよ、サチ!楽しかったこと、嬉しかったこと、悲しかったこと……!ないなら……ないなら、これから、いっしょにつくろうよ!」
良い言葉が、思いつかなかった。
やばい、余計追い込んじゃうかも……サユは言った瞬間、後悔する。
(楽し、かった、こと………)
ない。楽しかったこと、嬉しかったこと、悲しかったこと……その記憶ごと、存在しなくて………
そう思った時、ふと頭に、ある少年の声が過った。
「 ね え サ チ く ん 、 楽 し い ? 」
わからない、覚えてない……でもたしかに、頭にこびりついている。
その瞬間、頭に、衝撃が走った。
感じたこともない頭痛、吐き気。
神経を逆撫でするような高い声が、頭のなかに響く。
それと同時に、大量の”記憶”が、俺の頭に流れ込んできた。
俺を見て、面白そうに笑うクラスメイト。
でもそんな俺には、何があってもいっしょにいてくれる、親友がいた。
でも、ある日の記憶のなかで、その親友は血みどろの三角定規を持っている。
───サチくんといたら、ぼくまで………!
左目が痛い。
先生の悲鳴、ざわめく教室、遠くから救急車の音。
俺は、俺へのいじめに巻き込まれた親友に恨まれ、左目を刺されて失明した。
寄り添ってくれたのは、両親だった。
学校には行かなくていい。お前はお前の好きなように生きなさいと、両親は励ましてくれた。
(俺は……何を、していたんだ)
記憶がなくなったのは、仕方がないかもしれない。
それでもボスの言葉を簡単に信じこんで、自分を救ってくれた両親を勝手に恨んで。
両親が繋いでくれた命を大事にせず、自分の存在価値を否定し、挙げ句の果てに犯罪を………?
(お父さん、お母さん………ごめん、なさい)
押し寄せてくる、後悔の波。自分がどれだけ馬鹿なことをしていたのか、気付かされる。
でもそれと同時に、頭にかかっていた霧が、少し晴れたような気がした。
唖然としているサユの前で、サチは立ち上がる。
「……サチ?洗脳、解けたの?」
何を驚いて……疑問に思った途端、莫大な眠気が、サチを襲った。
「えっ!?さ、サチ!?」
立ち上がったと思ったらまた倒れたサチに、サユは大きな声をあげる。
「え、これ、救えてる……?再洗脳は?い、意味わかんない……!」
取り敢えず、とアキトに連絡をとろうとするサユ。
その頃、はるか上空。
一本のナイフが困り果てるサユの方向ヘ、まっすぐに落ちていった。
続く