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テラー民ワンドロ・ワンライ
第7回 お題『夢·結末』+27min
僕には夢がある。
いつかこの町で一番の花屋になることだ。
育てるのが難しいとされていた花は二年ほど前から家庭でも育てられるように品種改良がされた。
そのおかげもあって、今では花屋になりたい子どもたちが増えてきている。
そんな中で、26になる僕は目覚ましい技術の進歩に負けないよう日々、花たちに受情を注き続けていた。
「そんな手間かけなくたって良いじゃん。お前も市販の種で育てろよ」
花に水をあげている僕の横で、幼劇染で親友の男はやれやれと黄色い花を軽く指で弾いた。
弾かれた黄色い花は、その反動で花弁に乗せていた滴をポタリと落とす。
「あ!こら、丁寧に扱ってくれよ。花だって生き物なんだ。君も指で小突かれたら痛いだろう?」
大事がないか花に駆け寄って確認してみたが、どうやら大丈夫そうだ。
ふっと安堵の息を漏らし、僕は親友に少し睨みをきかせた。
僕が育てる花はどれも力強く咲いてくれている。
だからと言って雑に扱って大丈夫なわけではない。
品種改良された花は、確かに誰でも簡単に咲かせることができる。
それこそ、まだ自転車にも乗れないような子どもですら綺麗な花を育て上げるだろう。
花屋として、世界に花の素晴らしさが広まっていくのは全く悪い気はしない。
自分が育てていなくても、どこか誇らしさまである。
けれど、僕は品種改良された市販の花はどうも好きになれなかった。
市販の花は一適間ほどで見事な花弁をその身に付けるが、どれも三日も保たずに枯れ果ててしまう。
まるで線香花火の様だと僕は思っている。
それほど花を育てるのは難しいのだと、改めて理解できる。
簡単に育てられても、すぐに枯れてしまうのなら花としては未完成なんじゃないかと考えてしまい、僕は市販の花を好きになれない。
それに、市販の花をもういくつも見てきたが、どれも悲しそうに見えてしまってこちらも落ち込んでしまう。
「僕は、僕にしか咲かせられない花を育てたいんだよ。君だって、君にしか作れない帽子を作りたくて帽子屋をやっているんじゃないの?」
どうだ?と横目で親友を見やれば、親友は僕から視線を逸らしてつばの広くないハット帽を深く被り直していた。
その様子に気を良くし、僕は途中だった水やりを再開する。
「お前には負けるよ、。また今度、 うちの店に飾る花をお前のとこで頼むから。良い花を育てておいてくれよ」
「分かった。もう仕事に戻るのかい?」
「バカみたいに花が好きな男と話していたら、なんだか可愛らしい帽子が作りたくなってきてな」
意地の悪い笑みを隠そうともせずに親友はにんまり笑って僕の肩を小突いてきた。
花が好きだからって可愛い印象を持たれても全然嬉しくない。
確かに花は可愛らしい印象の女の子などによく似合うなとは思うけど、別に大人の男が花を好きでいても良いじゃないか
いつもの冗談だとわかってはいるが、僕はムッとして親友の足元にわざと水を撒いてやった。
「うわっ!この、やってくれたな!汚れていたら弁償させてたぞ!」
「花屋の水やり時間に仕事をサボりに来ている帽子屋が悪いんじゃないのか?」
慌てる親友の間抜け顔に気が良くなる
ふふんと不敵な笑みをお返ししてやると
親友は「また来る。じゃあな、花屋」と舌を突き出して帰っていった。
親友の姿が見えなくなるまで見送ってやり、ようやく静かになった店内へと戻る。
先ほど親友に弾かれていた黄色い花が、少しだけ寂しそうに揺れた気がした。
______
最後に親友と話しをしたのはいつだったか。
久しぶりに見る親友は酷くやつれている様に見える。
いや、実際やつれているのだからそう見えるのはおかしなことではない。
とくに探していたわけではなかったが、時々どうしているのだろうと思いを馳せることはあった。
その親友が目の前で花に食われている。
頭から丸かじりといった食われ方ではなく、体内の養分を吸い取られているのだ。
だから親友はこんなにもやつれているのかとすぐに理解はできた。
約束通り、親友は僕の花屋に飾り用の花を依頼した。
もちろん僕は快くその仕事を引き受け、親友の納得いく飾り花を用意した。
それから僕の花屋は随分と有名になっていき、この町では誰もが認める一番の花屋になっていた。
念願の夢が叶い、僕は自分でも驚くほどに喜び浮かれてしまった。
それがいけなかったんだ。
町一番の花屋になってから、僕は少しずつ変化していた。
注ぐ愛情が欲に変わってしまったのだ。
昔に聞いたことがある。
花は注いた愛情の分だけ綺麗な花を咲かすと。
本当にその通りだったと今では思う。
では、その愛情が欲に変わったらいったい花はどうなるのか?
その答えは今、目の前にある。
入間の大きさをはるかに超えた茎。
まるで刃物の様に鋭く尖る葉。
怪物だ。
欲を沢山注ぎ込まれた花は歪み、暴走し、そして怪物となった。
一週間ほど前からは人間を襲って捕食するようになっていた。
汚い外見は好まず、栄養となる中身だけを食らう怪物。
僕の花屋は町一番だった。
花を買うなら、当然みんな僕の店を訪れる。
だからこそ、こんな大惨事になってしまっている。
あちこちで聞こえていた悲鳴は、二日前からあんまり聞こえてこない。
それどろか、犬や鳥の鳴き声なんかもほとんど聞こえてこない。
異常だ。
誰が見たって異常事態だ。
僕の育てた花のせいで、この町はまた終わりを迎えてしまうんだろう。
歴史の授業で習った数百年前の世界に最も近付けていた町だったのに。
僕の花のせいで…。
目の前で食われる親友を見ながら、僕ははしたなくも高揚していた。
「僕の花は、やっばりこの町で一番だ。この花は僕にしか咲かせられない」
風に揺れる黄色い花弁。
それはとても美しく、嬉しそうに親友の体液にまみれていた。
その黄色い花を代弁する様に、僕は恍惚と笑って見せた。
_____ニホンコク花の町区域の結末より