高速を降りると、車は徐々に山道へと向かって行く。
(……一体、こんな所まで、何しに来てるんだろ?)
時折会話をしていたものの、山道へ差し掛かった辺りから話題が尽きて再び無言になる。
依然としてラジオから流れる音楽だけが車内に響いていたけれど、山道で若干電波が悪いのか途切れ途切れになった事で鬱陶しく感じたのか恭輔が消してしまい無音になる。
それから少ししてどこかの駐車場らしき場所へ辿り着いた瞬間、車はそこに停車した。
「着いたぞ」
「こ、ここですか?」
駐車場らしき入り口に看板があり、小さなライトが照らされて『公園』という文字だけは読み取れたので、ここは恐らく公園の駐車場なのだろう。
けれど、こんな山の中にある深夜の公園駐車場に用のある人など、ほぼ居ないだろう。辺りを見回すと、放置している車なのか、誰かが何かの目的で停めて別の車で移動しているのか、端の方に数台止まってはいるものの、人の気配はまるで無い。
何の目的でこんな場所に来たのか分からない樹奈は、ますます不安な気持ちでいっぱいになる。
「どうした? 降りるぞ」
「え? お、降りるんですか?」
「ああ。もう少し先へ進んだ方が都合が良いんだ。行くぞ」
「……は、はい……」
どうやら恭輔は公園の方へ行こうとしているようで、相変わらず意図が分からない樹奈は若干警戒しつつも車を降りると、恭輔の後に続いて歩き出した。
駐車場から公園へと続く一本道にはところどころ外灯があって歩きやすく、多少の明るさに安心感もある。
だけど、まさかこんなところに来るとは思わなかった樹奈は少しヒールのあるパンプスを履いていた事もあって、先を行く恭輔に置いていかれないようスピードを上げようとした瞬間、
「きゃっ!」
何かに躓いたのか、よろけそうになって思わず声を上げた。
「どうした?」
普段女と歩く事がない恭輔は普段通りの歩幅で歩みを進めていたので、樹奈が声を上げた事でようやく彼女と自分の間に距離が出来ていた事を知り、すぐに戻って行く。
「す、すみません……ちょっと、何かに躓いたみたいで……」
「いや、俺の方こそ済まない。てっきり俺のすぐ後ろを歩いていると思っていた」
「いえ、私が遅かったんです、すみません。もう大丈夫ですから」
体勢を立て直した樹奈は恭輔に『大丈夫』だと伝えて再び歩こうとするも、そんな彼女の前に恭輔は左手を差し出した。
「…………?」
突然差し出された手に樹奈が戸惑っていると、
「女と歩く事なんてねぇから気を回せなくて悪かった。その靴じゃ歩きにくいだろ? また何かに躓いても危険だから、繋いどけ」
気遣いが出来ていなかった事を詫びながら、手を繋ぐよう口にした。
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