コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
その日、瀬名(せな)と柊(しゅう)は真冬の空に散りばめられた星をみていた。こうやって2人でゆっくり星空をみるのは、いつぶりだろうか。
「そろそろかな。」小さく呟きながら瀬名はスマートウォッチに目を向ける。”2022年12月3日21時5分”という印字を見ながら小さく白いため息をつく。
「‥瀬名、あっち。」柊が指差した方向を見ると、木々の奥に流星群が見えた。星の群衆の中には、あっと目を引くほど光輝くもの、静かに輝きを放ち思わず目に留まる星、そしてそれらをより引き立てるかのように周囲にひっそり佇む小さな星の数々。瀬名は、久々に見る夜空のアートに小さく興奮しながらも、静かに見つめていた。
「流星って、まるで人間の世界みたいだな」そうつぶやく柊の横顔を、瀬名は静かに見つめる。穏やかとも切ないともとれるような柊の表情は時の流れを感じさせた。「不思議だね、あの頃の星の見え方とはなんか違うなぁ。」そう呟きながら、瀬名は幼い頃の記憶を思い出していた。
2008年のとある日、徳之島は夏の終わりにさしかかっていた。「せなー!せーなーー!」優しいピンクの浴衣には似合わない険しい表情で扉を叩く百合花(ゆりか)。「んもう、うるさかって‥なによぉ。」瀬名は気だるそうに起き上がり、目を擦りながら四つん這いで縁側から百合花に声をかける。その姿を見て百合花は「まさかあんた、寝てたの?もう‥今日は徳之島祭だがね!もう柊も堅人(けんと)も都おばちゃんとこ来てるよ!」と頬を膨らませている。瀬名は目を丸くして2秒ほど静止した後、「うわ、ごめん!急ぐから待ってて!」とすぐに玄関に周り、扉を開けた。
「今年も夏が終わるねぇ。あんたたちも来年から中学生だがね。時の流れは早いこと。ほれ、行っておいで。」と、着付けを終えた瀬名の背中をぽんと叩く都おばさん。「お〜!黒の浴衣もいいじゃん。なんか大人みたい。」と、カルピスを片手に機嫌を直した百合花が駆け寄ってきた。その横で「あと1時間で花火上がるぞ。ぎりぎりだがね。」と唇をつきだし嫌味を垂らす柊。堅人は瀬名の浴衣姿をチラチラと見つめていた。都おばさんは子供がおらず、徳之島の子供達の世話を焼いていた。「おばさん本当にありがとう!」と瀬名は下駄を履きながら御礼を伝え、4人は小走りで祭りへと向かった。「はいはい。楽しんでおいでな。本当にあんたら仲の良いこと。」と微笑みながら都は手を振った。
この時はまだ、この日が4人でみる最後の花火となるなど、誰も予想はしていなかった。