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「……そう」
星導の話を聞き終えると小柳はため息混じりに言った。言いたかったことを全て話せたけれども胸のつかえは取れないまま。
まるで自分が罪人で犯した罪を述べているようだった。被害者である彼は最後まで黙って聞いてくれた。
辛くて今だに彼の顔が見られない。だけど、これで良かったはず。
「思い出させるようで悪いけど」
不意に彼が二の腕に触れてくる。4週間前の戦闘中に自らが判断して切断した箇所。優しくさすりながら呟くように言う。
「痛かったろ」
フラッシュバックする当時の記憶。
“星導ッ……!!なんで!!?”
落ちていたナイフを振るいきった瞬間、声を荒げた小柳。しまったと思った。よりにもよって彼が見ている時に腕を斬り落としてしまった。自分がそうなっている訳でもないのに苦しそうに顔を歪める彼。
他のエネミーが飛びかかっていったため、その姿はすぐに見えなくなっていった。
残りの手足を握り潰されたと認識した瞬間、口が勝手に空いて、自分の声かと紛う程に酷い音が轟いた。鼻と喉の奥に広がる鉄の味。生臭い匂い。
激痛で意識が遠のく。さっきまで頭が痛くて寒くて、酷い耳鳴りがしていたのに全てがなくなっていく。五感が死んでいくような感覚だった。それでも何かしようとして泥水と自身の血の中に浸りながら顔を上げる。
ぼやける視界に鬼の形相で俺の手足を握り潰したエネミーに斬りかかる小柳がうつった。
それを最後に意識を手離した。
痛かった。
「辛かったろ」
「……ッ」
いつの間にか眼前に迫っていた彼。ぽす、と肩に顔を埋めて消え入りそうな声で呟く。
これで辛い思いをしたのはよっぽどお前の方だろうに。全身打撲で鎮痛剤が上手く効かなくて夜な夜な呻いていた。小柳が眠れていない理由が俺だとを知って辛くなった。
睡眠を妨げる程のフラッシュバックに悩まされてなければ寝ている間だけでも痛みから遠ざかれただろうに。
ひしと抱き締められて堪えていたはずの涙が溢れた。
なんでそんなに優しいんだよ。
駄目だ。離れなきゃ。そう思うのに彼を振り払えなくて。
「確かに多少の犠牲はしょうがないのかもしれないけど、その犠牲を買って出る奴にお前が進んでなるなら俺はそばにいるよ」
腕はちゃんと動くはずで、体も元通りだと医師から診断を受けたのに。頭では離れなくてはと考えているのに。
温もりに触れて苦しくて。でも、離れ難くて。視界がぼやけていく。
彼の腕の中で泣くのはもう何回目のことだろうか。
「お前だって痛覚も感情もあるんだから痛くて辛いのは皆と一緒だろ」
「…うん」
寄り添うように言われて思わず返事をしてしまった。その瞬間に気がつく。無意識のうちに自分が犠牲を払っている時にそれらに蓋をしていたこと。彼の言葉で剥がれ落ちていく取り繕っていた強がり。剥き出しになるどこまでも弱虫な本心。
「一緒にいさせてくれよ」
「でも…でも…」
「お前が自分のこと大事に出来ないならその分、俺が大事にするから」
彼の背中に腕をまわす勇気がない。腕をまわしたらきっと___。
「何があっても一緒にいる限り俺は不幸と思わないよ」
一緒に幸せにはなれないと決めつけた。それこそ偏見だと、初めて気が付いた。
この人はどこまで分かっているんだろうか。
都合が良すぎるくらいに欲しい言葉をくれる。
狡いよ。
ぼろぼろと涙を零しながらぎゅっと抱きしめた。ごめんね、と言いそうになって言い留まる。
「…ありがとう」
俺の考えを否定しないでいてくれて。
本心と自分でも気がつけなかった取り繕いを暴いてくれて。
何があっても一緒にいるって言ってくれて。