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歩道をゆっくり歩く三人。夕暮れの光が街路樹を赤く染め、長い影を落としている。
ひまなつとすちは、みことの腕や服の汚れに気を配りながらも、静かに歩く彼に寄り添っていた。
突然、みことが立ち止まる。
「……?」
すちとひまなつは立ち止まり、振り向いて首をかしげる。
みことは、言葉も表情もなく、ただ何となく、思わず――
細い手を差し出し、すちとひまなつの小指をそっと握った。
すちとひまなつは、一瞬驚いて目を見開く。
だが、握られた指先の温かさに気づくと、自然と胸がじんわりと温かくなる。
「……みこと……」
すちの口元がゆるみ、ひまなつも微笑む。
言葉はなくても、三人の間に、柔らかい信頼と安心の空気が生まれた。
無表情で虚ろなみことの小さな行動が、二人にとって何よりの喜びになった。
みことは自分でも理由をうまく言えない。
ただ何となく――ただ何となく、手を握りたくなっただけ。
その衝動に従っただけなのに、すちとひまなつが微笑む姿を見て、どこか心の奥がふわりと温かくなる。
すちはその握られた手をそっと感じながら、心の中で小さく「大丈夫だ」と思う。
ひまなつも同じく、みことが自分たちに少し心を開いてくれたことに、内心で安心していた。
握った小指は、目に見えない糸でつなぐかのように温かく、 歩道の上で、沈黙のまま、しかし確かな存在感を示す絆になっていた。
みことは再び歩き始める。
すちとひまなつも、それに合わせてゆっくりと歩く。
握った小指はまだ離さず、3人の間には静かな信頼と安心のリズムが生まれていた。
___
家の玄関を開けると、 こさめとらんが既にいて、いるまは少し離れた場所で黙ってみことを見守る。
みことは無表情のまま、玄関から部屋へと歩く。
血が滲んだ腕はそのまま。
袖は少し汚れていて、乾き始めた血がうっすらと赤黒く染まっている。
いるまはそれを見て、眉をひそめる。
「……みこと、腕……どうした?」
声は低く、険しさを含んでいた。
みことは腕を見下ろし、虚ろな目で少し首を傾げる。
「……わかんない……」
その答えに、いるまの表情はさらに険しくなる。
「誰かにやられたのか……?」
怒りと心配が入り混じり、低く唸るような声で問い詰める。
みことは答えられず、ただ目を伏せて小さく肩をすくめるだけだった。
「……わかんない……覚えてない……」
いるまは拳をぎゅっと握り、内心で苛立ちと焦りが交錯する。
怒りが込み上げるが、目の前の無表情なみことを見て、簡単には手を出せない。
彼の視線は、みことの腕の傷にしっかりと固定されていた。
無抵抗で、虚ろなまま答えるみこと。
それが逆に、いるまの心に強く突き刺さる。
「……わかった。無理に言わなくていい」
険しい声は消え、代わりに低く、抑えた口調に変わった。
すちはみことに触っていいか聞き、小さく頷くみこと。慎重にみことの腕の袖をまくる。
血が滲んだ部分は浅い傷だが、やや広がっている。
「大丈夫、少しだけ血が出ただけだよ……でも、きれいにしようね」
すちはぬるま湯で傷口を優しく洗い、柔らかいガーゼで押さえる。
みことは身じろぎもせず、ただ手を差し出すまま。
その無抵抗さが、逆にすちの胸を締めつける。
「痛くない?」
すちは優しく声をかける。
みことはわずかに肩をすくめ、虚ろな目で小さく答える。
「……うん……」
いるまは横で黙って見守る。
すちはガーゼを押さえたまま、そっと手を握るようにみことの手首を支え、絆創膏を貼る。
「これで大丈夫だよ」
みことは無表情だが、その目にほんのわずか、柔らかさが宿る。
虚ろな瞳の奥に、かすかな安堵の色が滲んだ。