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「スト―ップ!!」


必死に目の前の身体を押し返す。


なのに、彼は耳元に近付いて


「大人の二人だからこそ感じられるたまらないドキドキ欲しくない?」


そんな甘い言葉を囁いてくる。


ヤバイ。流されそう。

ホントはもうこのまま流されてもいいかなって、心のどこかで思い始めているけど。

このドキドキがどこまで続くのか、どこまで行けば限界を迎えるのか、ホントは知りたい自分もいるけど。

だけど、まだ今このまま流されてしまえば。

それだけの関係になってしまいそうで。


早瀬くんの心も少しずつ欲しくなり始めてる自分がいて、それを求めてるもう一人の自分がブレーキをかける。


「透子をドキドキさせるのはオレだけでいたい」


何気なくこんな時に呼び捨てにされて。

そんな言葉だけですでにこの心臓は高鳴って。

目の前で見つめて来るその瞳にまた吸い込まれそうになる。


どうしたらいい?

もうこのまま流される?

その言葉にどういう意味があるのかはわからないけれど。

多分この人の一言一言にドキドキしてる自分がいるのはわかる。



「だけど。・・これ以上ドキドキさせるのはまた今度ゆっくりと」



そう言って、今度はなぜか急に近づいていた身体をその場から離された。


え・・?ちょっと待って。

そこそこその気になりかけてましたけど?

ここで寸止めでスルーですか?


まただ。

またドキドキさせられるだけギリギリまでさせられて。

それで、その気になりそうになると、そのタイミングでかわされる。

確かにドキドキさせるだけの関係だけど。

それだけが目的の関係っていえば確かにそれまでなんだけど。


でも何、この一人振り回されてる感。

年下の後輩に、なんで私、こんな・・・。


「まぁ少しずつこれからオレに夢中にさせていくから」

「な、何それ。帰る・・・」


思わず雰囲気に流されてその気になりかけた自分に気付かれたくなくて、ベッドから降りる。


「お邪魔しました」


自分の荷物を持って玄関へ向かう。


「どういたしまして。またいつでもどうぞ」

「またって・・もう来ることないと思うけど」

「そっ?またすぐに来るよ、きっと」


だけど私のその言葉に躊躇もせず笑顔で余裕で答える。

なんなの、この余裕。


「あっ・・」


そして玄関を出ようとして気付く。

私、ここからどうやって家帰ればいいんだ・・。


「ん?どした?」

「あの・・こっから駅って近い?」

「駅?あ~。ん~まぁ、近いのは近いけど・・」

「駅までの道だけ・・教えて」

「いや・・教えなくてもわかるんじゃないかな・・」

「え?どういうこと?」

「玄関開けたらわかると思うけど」

「何それ。意味わかんない」


その言葉に疑問を持ちつつ、言われたまま玄関のドアを開け部屋の外へ出る。


さっきから、何意味わかんないこと言ってるんだろ。

あたし早瀬くんの部屋初めて来たんですけど。

そう思いながら、廊下に出る。


えっと、こっからどうやって帰るんだ。

帰る方向を確認しようと辺りを見回す。


・・・・え??

ちょっと待って。

ものすごーく見覚えある場所なんですけど。

あれ? 私今、早瀬くんの家から出てきたよね?

で・・・。

あっ、うん・・。


ここ。

私ん家と景色が瓜二つなんですけど。


「ようやく気付いた?」


すると早瀬くんが玄関のドアを開けて外へ出て来ながら声をかけてくる。


「ここ・・・」

「そっ。帰ろうとしてる家はお隣」


早瀬くんが指さす方向を見ると・・・うちの家。


「は!!?? えっ!ちょっと待って!意味わかんないんですけど!」


また状況が飲み込めなくて軽くプチパニック。


「だからオレと透子とは隣の部屋ってこと」

「えっ? 全然知らない! いつから!?」

「透子が引っ越してきてからずっと」

「えっ?私引っ越してからって・・ここ結構住んでるけど」

「うん。オレはもっと前からここ住んでる」

「はっ?私よりも前から!?一度も会ったことないよね!?」

「いや。たまに廊下ですれ違ったことあったけどね。そっちが気付いてなかっただけで」


うん。全然気付いてない。

全然知らない。


「まぁ、それも滅多にないから。記憶にも残ってないんだろうけど」

「そっちは知ってたの・・?」

「もちろん」


知ってたんだ・・。


「ごめん。全然気付かなかった」

「そうだろうとは思ってたから」

「なんかちょっと色々ありすぎてまだ頭の中整理出来てないんだけど」

「隣だってわかってたから美咲さんがオレにお願いしたってワケ」

「あ~、なるほど・・・。って美咲知ってるの!?」

「あぁ、うん。だって元々修さんに隣空いた時教えたのオレだから」


そういうことか~!

確かに前の家引っ越す予定で物件探してた時、修ちゃんと美咲からこの部屋勧められたのがきっかけだったの思い出した。


「なのでこれからは好きな時にいつでも会える♪」


彼のその言葉と共に見せた微笑みに。

戸惑いを隠せなくて。


「か、帰る・・・」


また同じ言葉を繰り返すことしか出来なくて、自分の家の鍵を開ける。


「またね。透子♪」

「・・・・」


彼のその余裕な声を背に自分の部屋に入った。


いやいやいや。

早瀬くん隣住んでるとか全然気付いてもなかったんですけど。

何このいきなりの彼との急接近感。

こんなの・・意識しない方が無理なんですけどーーーー!!


そうじゃなくても、彼を意識し始めてる自分がいて。

仕事仲間として力を合わせたいと思う反面。

このドキドキする関係もまだ続けたいと思う自分もいる。

少しずつ近づいて来る彼が、少しずつ知りたくなっていて。

この先の彼との関係もどうなっていくのか、試したい自分がいる。

自分でもまさかこんな短期間で気になる存在になるなんて思ってもいなかった。

でも、なぜか妙に気になってしまう。


近づけば近づくほど、わからなくなる不思議な存在。

早瀬 樹・・・。








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