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Doors好きな主
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高校を卒業し、大学進学が決まった春。私はまず、原付の免許を取ることにした。
免許は無事に取得でき、知り合いから状態のいい新古車を安く譲ってもらう話もまとまる。
ただ、名義変更や簡単な整備が必要だったため、すぐに乗り始めることができず、原付が届くまでの短い間だけ、バスで大学へ通うことになった。
バス通学初日。
自宅から1番近い停留所で乗り込むと、昼前の便だったこともあって車内は空いている。
私は2人掛けの席の窓側へ座って、ぼんやり外を眺めていた。
次の停留所が近づくと、数人の人が待っているのが見える。
その中に、1人だけ目を引く女性がいた。
(綺麗な人だな)
そんなことを考えているうちにバスは停まり、後方のドアが開く。
何人かが乗り込んできたものの、私は特に気にも留めず、窓の外へ視線を向けたままだった。
すると、隣の席に誰かが腰を下ろす。
反射的にそちらを見ると、さっき停留所で目に入った女性だった。
2人掛けの席に1人で座っている以上、隣へ誰かが座ることくらいある。それ自体は、別におかしなことではない。
ただ、車内にはまだ空席がいくつも残っていた。
1人掛けの席どころか、2人掛けを1人で使える席さえ残っている。
それなのに、彼女はわざわざ私の隣を選んだ。
しかも、若い女性である。
見ず知らずの男の隣より、空いている席を選ぶ方が自然ではないかと考え、一瞬だけ「知り合いだったか?」と考え、チラリと顔を盗み見る。
けれど、見覚えがない顔だった。
(まあ、いいか……)
席の選び方に決まりがあるわけでもないし、話しかけてくる様子もない。
気にしないことにして、再び窓の外を見ていると、そのまま何事もなく大学前の停留所へ着いた。
「すみません、降ります」
そう声をかけて女性の前を抜け、バスを降りる。
彼女が後についてくるようなこともなく、外から窓越しに見ても、先ほどと同じように行儀よく座ったままだった。
その時は、それで終わる話だと思っていたのだ。
ところが翌日、私が乗る停留所の次の停留所に、また彼女が立っていた。
バスが停まり、彼女が乗り込んできて、当然のように私の隣へ座る。
その次の日も同じだった。
さらに翌日も、そのまた翌日も……。
私がどの時間のバスに乗っても、彼女は次の停留所で待っていた。
しかも毎回、他に席が空いているにもかかわらず、迷うことなく私の隣へ腰を下ろすのだ。
若かったこともあって、最初のうちは「もしかして、俺に気があるのかな?」なんて、馬鹿なことを考えたりもした。
だが、それなら少しくらいこちらを見るなり、話しかけるなりしてきそうなものだ。
しかし、彼女は一度もそうしなかった。
隣へ座ると、背筋を伸ばして前を向き、ただ静かに座っているだけ。
それが何日も続くうちに、最初に抱いた淡い勘違いは、別の感情へ変わっていく。
(怖い……)
どれほど綺麗な女性でも、毎日こんなことが続けば気味が悪くなってくる。
「どうして、いつも隣に座るんですか」
そう聞けば済む話なのかもしれないが、わざわざ口にするのも妙な気がして、結局こちらから話しかけることはできなかった。
もう1つ、どうしても腑に落ちない点がある。
それは、行きのバスでは毎日のように会うのに、帰りの便で顔を合わせることがない、ということ。
同じ路線を使っているのなら、帰りもたまたま一緒になってよさそうなものだ。
それなのに、彼女の姿を見るのは、決まって行きのバスだけだった。
そんな日々がしばらく続いた頃、ようやく待ち望んでいたものが届く。
大学から帰ると、自宅の駐車場に原付が停まっていた。
「原付、来てる!」
本来なら、ようやく自分の足が手に入ったことを喜ぶところだろう。
けれど、その時の私が真っ先に感じたのは、別の安堵だった。
――これで、もうあの女性と同じバスに乗らなくて済む。
翌日から、原付で大学へ通い始めた。
そして数日後、あることに気づく。
(……今日もいないな)
通学路は、それまで使っていたバスの路線と同じだった。
当然、あの女性がいつも待っていた停留所の前も通る。
だが、原付に乗り始めてから、彼女の姿を1度も見かけなかった。
たまたま時間が合わないだけかとも思ったが、それにしては不自然に思える。
そもそも、バス通学をしていた頃から妙な点はあった。
大学の時間割は曜日によって違う。
1限目から講義がある日もあれば、昼前からの日もあり、時には自主休講を決め込んで、普段よりかなり遅く家を出ることさえあった。
それでも彼女は、必ず次の停留所で待っていたのだ。
私が何時のバスに乗ろうと、彼女はそこにいた。
当時、1つだけ考えた可能性がある。
もしかすると彼女は、毎朝かなり早い時間から停留所にいて、私が乗っているバスが来るまで何本も見送っていたのではないか。
そうであれば、私の乗車を確認してバスへ乗り込むことができる。
現実的ではないにせよ、これなら彼女が毎回私が乗るバスを待っていた説明がつく。
しかし原付通学を始めてしばらく経過した時、その可能性もなくなってしまう。
友人宅でつい夜更かししてしまい、そのまま泊まって朝帰りをした日、始発のバスが例の停留所を通る時間
に帰宅していた。
そこに、彼女の姿はなかったのだ。
一度だけではない。何度も朝帰りをしたが、ついに1度も彼女の姿を見ることはなかった。
バス通学をしていたあの短い期間だけ、私が乗る便を待ち、必ず隣へ座ってくる不思議な女。
その不思議な女は、私がバスに乗らなくなった途端、停留所からも姿を消した。
彼女はいったい何者だったのだろう?
そして、なぜ毎日、私の隣でなければならなかったのか?
けれど、この女性との話は、これで終わりではなかった。
<不思議な女②へ続く>