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今回は純愛上等の鶴と亀で鶴の体調不良です
映画後の設定で2人は両想いです
少しだけ喧嘩?で暴力シーンあります
苦手な方は自衛お願いします。
夕方の駄菓子屋は、子どもたちの笑い声で賑やかだった。
「円にいちゃん!これ当たり出た!」
「お、すげーじゃん。もう一本持ってけ」
そんなやりとりを、店の奥からぼんやり眺めていた佐藤美鶴は、小さく息を吐いた。
身体が重い。
朝からずっと、嫌な熱っぽさが抜けない。
「……大丈夫か?」
いつの間にか隣に来ていた円が、小声で聞いてくる。
「顔、しんどそう」
『……別に』
「嘘。朝からずっとフラついてる」
そう言いながら、額に手を当てられる。
ひやりとした手のひらが気持ちよくて、思わず目を細めそうになるのを堪えた。
「熱あるじゃん」
『ねぇよ』
「ある」
美鶴は舌打ちして、ふいっと顔を逸らす。
『店、手伝わねぇとだろ』
「今日はいいって。俺ひとりで回せる」
『お前だけだと甘やかすだろ』
「それは否定できないけど」
くすっと笑ってから、円は少しだけ真面目な顔になる。
「でもさ」
そっと、袖を引いた。
「無理して倒れられる方が困る」
その言い方が、やけに優しくて。
一瞬、言い返す言葉を失う。
「……少し休んでろ。奥で」
『……わかった』
珍しく素直に頷いた美鶴に、円は少しだけ安心したように笑った。
しかし、
その“少し休む”は、長くは続かなかった。
外で騒がしい声が聞こえた。
上から外を覗くと
「おい、そこのガキこっち来いよ」
「や、やめてください…」
店の前で、見慣れた近所の子が、見知らぬ不良に絡まれている。
その光景を見た瞬間――
身体の重さなんて、どうでもよくなった。
「……ちっ」
ふらつく足を無理やり動かして、外へ出る。
『そいつから離れろ』
低い声で言うと、不良たちが振り向く。
「あ?誰だお前」
『関係ねぇだろ』
そう言って、子どもを自分の後ろに引き寄せる。
「早く行け…」
そう言って絡まれていた子ども逃がす。
「は?調子乗ってんの?」
次の瞬間、拳が飛んできた。
本調子じゃない身体でも、避けるくらいはできる。
……はずだった。
「っ……!」
ほんの一瞬、視界が揺れた。
熱のせいで反応が遅れ、頬に衝撃が走る。
そのまま、立て続けにもう一発。
「鶴くん!」
店の中から飛び出してきた円の声。
それを聞いた瞬間、気が緩んだのか――
身体の力が、一気に抜けた。
「……っ、鶴くん!?」
地面に崩れ落ちる。
遠くで円が誰かに怒鳴っている声がする。
でも、もう足に力が入らない。
熱いのか寒いのかもわからない。
ただ――
「……円さん、……」
その名前だけ、かろうじて呼んだ。
気がつくと、見慣れた天井だった。
駄菓子屋の奥の部屋。
すぐ隣で、誰かが息を呑む音。
「……っ、よかった……」
円だった。
目が合った瞬間、安心したように力が抜ける顔。
『……ばか』
美鶴はかすれた声で言った。
『泣きそうな顔すんな』
「泣くに決まってるだろ!」
思ったより大きな声で返ってきて、少しだけ驚く。
円はそのまま、ぐっと顔を歪めた。
「お前、熱あるのに、なんで外出てくの」
震える声。
「なんで一人で無茶すんの」
『……あいつが…』
「知ってるよ!でも!」
言葉が詰まって、円は一度俯いた。
それから、そっと美鶴の手を握る。
「……お前が倒れたら、意味ないだろ」
その一言に、胸がちくりと痛む。
『俺、お前が……』
少しだけ、言葉を探す間。
「いなくなるの、ほんと無理だから」
静かに落ちたその本音に、呼吸が止まりそうになる。
『……大袈裟』
「大袈裟じゃない。」
「お前は、俺の……」
一瞬だけ言いよどんで、それでもちゃんと続ける。
「好きなやつなんだから」
その言葉に、美鶴の心臓が大きく跳ねた。
少しだけ、手に力を込めて握り返す。
『……知ってる、俺も同じだから。』
まっすぐ見つめて言うと、円の目が大きく見開かれた。
『今更、隠す気ねぇし』
「……っ、ずるい」
泣きそうに笑う円が、ゆっくり顔を近づけてくる。
「……キスしていい?」
弱ってるくせに、ちゃんと聞くところがらしい。
美鶴は、少しだけ口角を上げた。
「好きにしろ」
触れるだけの、優しいキス。
でもそれだけで、胸の奥がじんわり熱くなる。
離れたあとも、額を寄せたまま。
「……もう、無茶すんな」
『……努力はする』
「努力じゃなくて、約束」
『……わかった、約束』
指を絡める。
そのまま、円はそっと抱き寄せた。
『今度は、俺が守るから』
「……別に、守られなくても」
『…円さんは 俺のだから」
さらっと言われて、さすがに一瞬固まった。
「……そういうの、外で言うなよ」
『じゃあ、ここでだけ言う』
もう一度、軽くキスが落ちる。
『大事にさせろ』
その言葉に、円は抵抗せず、美鶴の胸に顔を埋めた。
『……あったかい』
背中を撫でる手が、優しくて…
痛みも、熱も、少しずつほどけていく。
ここが、自分の帰る場所なんだと――
身体が覚えていくみたいに。
外の喧騒が嘘みたいに、静かな部屋。
二人分の呼吸だけが、ゆっくりと重なっていく。
もう無理はしない。
守ることも、頼ることも、全部2人で。
そう決めた夜だった。
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