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2.嫌悪
時谷と初めて話したのは練習中だった。
球場の裏、自販機の前にしゃがみこんで自分の右手を見つめていた。
そんな中、声をかけてくれたのが時谷だった。
” いい結果を残したいなら尚更、怪我を悟られないように隠すなんて自殺行為だよ ”
一切こっちは向かずにただ自販機で水を買って立ち去っていくあの後ろ姿を今も忘れることができずにいる。
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「お疲れ、トキ……ってどしたの?」
タオルで汗を拭いながらベンチ裏の椅子に座る時谷に話しかける。
すると焦った様子で時谷は顔を上げた。
「翔太…、ごめん、なんもないよ」
「なんもないって……肩、痛そうだけど」
俺の指摘に時谷はまた黙りこくった。
人の事には敏感な癖に自分は無理をする。
記憶を失った今も変わっていない所がある事に森下は少し安心してしまっていた。
「……トキ、もう二度と無理しないって約束して。お願い。」
「…一度は無理したんやな。何で記憶を無くしたのか、誰も教えてくれへんし。」
「皆はトキに活躍を求めてる訳じゃない。ただ、笑って野球をして欲しんだよ。」
野球以外の事でこんなにも熱くなるのはきっと今も昔も時谷に対してだけだと思う。
「翔太…もしかして泣いてるん」
タオルが手放せずにいるとふいに時谷の小さな両手に顔が包まれた。
「何処にも行かへんよ。ずっと翔太の横におるから、約束する。」
手に平から伝わってくる体温と頬を伝う涙の感触。前を向くと時谷の笑顔がそこにはあって、胸の奥が熱くなると同時に苦しくなった。
” 生まれ変わったら、愛される人間に ”
チームがまるで硝子を扱うように時谷に過保護なのは誰もが思っているから。
時谷を守らなければならないと。