それ以来俺はアジトに帰っていない。仕事はサボってなどいない。むしろ増やしている。帰る理由を作りたくなかったからだ。携帯は毎日のように耳を塞ぐほど鳴った。勿論、ココと首領から。仕事報告はメールか部下を使って伝言でやり取りした。
「うっし…仕事しゅーりょー」
死体を隠し終え、額にある数滴の汗を黒手袋をつけた手で拭いた。部下は言わずとも車を用意し、次の仕事の内容や現在の敵の動きなどを報告してきた。俺はそれに対して「わかった」と一言返してやる。少し休憩をとろうと俺は車の中にいる運転手に気付いてもらおうと車の窓をトントンと叩いた。それに気づき窓が下に下がっていく。
「休憩してぇから◯◯って場所に行け。」
「はい、わかりました。」
俺はそれを伝え、愛刀を横に倒れさせ車に乗った。発車と同時に俺は携帯を出し仕事報告をメールで送った。送った数分後すぐにピロリンと通知音が鳴り携帯を見る。やはり、首領からだ。
“そうか、三途が無事で良かった。
最近三途が帰ってこないから梵天は静かだ。
灰谷兄弟ですら、お互い空気を読んで静かに喋るんだ。
頼むから帰ってきてくれ。頼む。”
いつもこんな感じで帰ってきてくれと懇願される。俺も出来れば帰りたい。でも帰ったら何をどう話せば良いのかわからねぇんだ。怒られるんじゃないかって、嫌われるんじゃないかって不安になる。所詮俺は皆んなの性処理係でNo.2という称号も本当は相応しくない。
そう思っていると車が止まり、着いたことに気がついた。俺は運転手にさんきゅ、と一言言い残し外に出る。ここは俺の好きな場所だ。人が少なく景色も綺麗で気持ちが良い。一服するにはちょうど良い場所だ。俺は煙草を取り出し、口に咥える。火をつけようとすると後ろから足音が聞こえた。部下か、と思いゆっくり振り返ると、そこには会いたくない奴が立っていた。
「灰谷…?」
「見つけたよ、さーんず」
俺は直ぐに背中を見せて必死に逃げた。咄嗟にその行動に移った。後ろを少し見ると灰谷達は全速力で俺を追ってくる。来るなよ。俺はお前らに会いたくねぇから離れてるのに…なんで俺の願いを聞いてくれねぇんだよ。
足の速さはあっちの方が上。勿論、直ぐに手首を掴まれ捕まった。抵抗はしたものの俺の力はこいつらには及ばず、抵抗は無意味と化した。
「三途、なんでにげんだよ。」
「…んで、この場所が分かったんだよ。」
「お前の部下にメールで無理やり聞いた。」
あの部下、余計な事しやがって。俺は灰谷達に顔を見せずに話していた。相手も無理に顔を見ようとはしなかった。
「帰ってこいよ、皆んな心配してるぜ。」
「どうせ怒るんだろ。
そんでお前らは俺を捨てるはずだ。」
「なんでそんな考えになるんだよ。
捨てるなんて事一言も言ってないだろ?」
竜胆が少しキレ気味で言ってきた。声のトーンでそれがわかる。それに対して蘭は落ち着いて、と兄貴らしい事を言い竜胆を落ち着かせていた。
「三途」
「……」
「顔見せないで良いから聞いて。
確かに、この後お前は怒られるかもしれない。俺だって今からでもお前を叱りたい。でもそれは今じゃないってのは蘭ちゃんでもわかるよ。
…変なお願いだけどさ、俺と竜胆の怒りは皆んなに任せてるからさ、ゆっくりで良いから俺らに弱音吐いてよ。絶対に嫌いにならないって約束するから。絶対捨てたりなんてしないからさ。」
蘭は俺の手首を掴む手を俺の掌に移動し、手を握ってきた。それは蘭とは思えないほど優しかった。竜胆も俺の手を握る。竜胆は俺と蘭の手を包み込むように覆った。本当に蘭の言葉を信用して良いのか俺は迷った。本当は捨てられるんじゃないかって。嫌うんじゃないかって。
「三途」「俺達を」
「「信じて」」
俺はその言葉を聞いた瞬間振り返り、いつの間にか蘭と竜胆をギュッと強く抱きついた。それを支えるかのように蘭と竜胆は俺の腰に手をあてる。何方とも俺の頭を大切なものに触れるかのように撫でてきた。
「ら、ん…りんど…」
「なに?」
「俺、梵天に…帰りた、ぃ」
「うん、帰ろ
俺らの居場所に。」
その時も蘭と竜胆は優しさで俺の顔を見ようとしなかった。
コメント
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最高♪続き楽しみ♪ 春千夜尊…♡蘭ちゃん流石に 兄貴だからたまには こういう風に優しくなるから ギャップ萌えだよねぇ❣️ 応援してます! 頑張ってください!