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「それ、新藤さんのお世辞やで。真に受けたらアカン」
光貴に脇をつつかれた。
「うるさいなぁ。光貴は全然私のこと褒めてくれないし、お世辞ってわかってるけど素直に喜びたいもん」
光貴を睨んで言うと新藤さんはさらりと言ってのけた。「律さんは、本当にお綺麗ですよ」
またあの鋭い目をする!
私を揺さぶっても何も出ないよ、新藤さん!
彼はどうして私に熱い視線を送ってくれるのだろう?
…気のせい、だよね。勘違いなら相当恥ずかしい。
「もー、新藤さん、うちのが調子に乗りますから、止めてくださいよ」
光貴……。折角いい気分に浸っているのに、余計なこと言わないで!
「光貴さん。少々差し出がましいとは思いますが、奥様は大事にしないと後悔しますよ」
新藤さん、神!
そうだそうだ!
もっと光貴(だんな)に言ってやって!!
「有難いのですが心配無用です。ぼくらめっちゃ仲がいいので」
光貴が無邪気な顔で言った。悪気はないのはわかっているけれど、こういう所が腹立つ。でも光貴にそういうのを求めるのが間違っているから諦めるしかない。悪気が無いから余計にタチが悪い。
「ぼくら、音楽オタクですから。お互いのことはよくわかっているつもりですし、僕や彼女が浮気するなんて天地がひっくり返ってもありえませんし、お互いそんな相手もおりません」
だから大丈夫ですと光貴が笑った。相変わらず無邪気。もう、腹が立つ。
「差し出がましく失礼しました、それより音楽ですか。お二人はどのようなジャンルの音楽がお好きですか?」
「ジャンル的にはハードロックやメタルとか、そういうのが好きですね。実は昔、オリジナルのハードロックバンドをやっていたのです」
「では、お二人はバンド仲間だったと?」
「はい」
「私も音楽はとても好きですね。お二人と同じです」
「へえー、新藤さんも音楽がお好きなのですか! それはいいですね。因みに、どのようなバンドがお好きですか?」
「私は、生バンドが好きです。ジャンルは問わず音楽に関しましては、割と雑食です」
新藤さんの好きなジャンルのバンド名を聞いた途端、光貴の顔が輝き出した。
「えーっ、うそぉー!? そんなマイナーなバンドをご存じの方がいらっしゃるなんて! 僕、感激です!!」
光貴が大興奮だ。じゃあ、もしかして新藤さんはRBも知っているかな?
「新藤さん、RB――Red BLUEってご存知ですか? 私たち、めっちゃ好きなんです。もう六年くらい前に解散しちゃった、ビジュアル系のバンドですけれど」
私も二人の会話に参加した。
「ええ。知っています」
「最初、僕らがバンドを組んだ時、RBのコピーバンドをやっていました。懐かしいなぁ。彼女なんか未だにRBが好きで、ずっと聴いていますよ。車内は延々RBのリピートです」
「そうでか。RBがそんなにお好きとは」
新藤さんが笑った。とても優しい笑顔だ。
クールな真面目要素に加え、笑顔が癒し系。そして隠れドS。それってサイコーの乙女ゲームキャラじゃない?
私が一番好きなやつ!
実写で乙女ゲームキャラがいるとは思わなかった。
ああ、新藤さん推しになりたい。ファンクラブないのかな?
「はい、音楽は本当に大好きです。新藤さんも相当詳しいので、バンド経験あるのでは?」
「経験者に見えますか?」
逆に質問を受けた。このキャラでバンド経験者というのは考えにくい。もしも彼がバンドをしていたら、絶対に超人気があっただろう。
「失礼ですが、ご経験は無さそうに見えます」
「はい。私は聴き専です」新藤さんは何故か鋭い目つきになっている。「演奏するより、聴く方が好きですから」
「でも、新藤さん低くていい声しているから、歌ったらすごく人気出ると思いますよ」
「オンチなので、私は歌いません」
鋭い目線のまま言われた。えっ? 何か怒っているようにも見えるけれど、何か悪いこと言った?
「新藤さんでも苦手なことがあるのですね。完璧に色々こなせそうなのに、意外です。実は夫もオンチなんですよ」
「コラ、バラすな」
三人で楽しく談笑を続けた。
住宅の話をそっちのけで、好きな音楽の話で大盛り上がりだった。新藤さんが担当してくれるのなら、ますますこの大栄建設で家が建てたくなった。
帰りの車内では光貴が大興奮だった。
ハウスメーカーは大栄建設にしよう、新藤さんに担当をお願いしようと、言っているのだ。
大好きなメタルバンドの話で新藤さんと盛り上がっていたから相当嬉しかったのだろう。バンドに精通している人でない限り、知らないようなマイナーなバンドまで新藤さんは知っていたから。
機会があれば互いに好きな海外アーティストのCDを渡し合い、ライブも一緒に見に行こうと約束までしていた。
新藤さんがマイホームの担当になるなら、これ以上に楽しいことはないと思った。