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翌日。
興奮が収まらない私達は他のハウスメーカーを検討することなく、大栄建設で新藤さんが担当してくれるのなら家を建てたいと意見が合致したので、早速新藤さんに連絡を取った。
私が連絡窓口となっているので、仕事の休憩中彼に電話を掛けた。スマホからコール音が流れると、ものすごくドキドキした。
『はい、新藤です』
相変わらず低くて男らしい声に思わずキュンとなる。心臓が口から飛び出てしまいそうだった。
「荒井です。先日はありがとうございました。工場見学、楽しかったです」
『ああ、律さん。こちらこそ沢山お話が出来て、本当に楽しかったです』
楽しかったって言ってもらえた!
リップサービスも抜群な新藤さんだ。女性の扱いには慣れていそうだし、まるでホストに電話かけてるみたいな気分になる。
だから今日の気分は、イケメンホスト攻略っていう乙女ゲームをプレイする感じだ。
「新藤さんが担当してくれるなら、是非大栄建設でマイホームを建てたいと二人で決めました。これから宜しくお願い致します」
『左様でございますか。誠にありがとうございます。それでは詳しい資料などをご自宅にお持ち致します。確かご住所は大開通(だいかいどおり)で御座いましたよね?』
「はい」
大栄建設の展示場から自宅マンションがある兵庫区大開通までは、車で十分ほどの距離だからとても近い。
『こちらの終了時間が午後七時になりますので、それ以降の遅い時間の訪問となってしまい恐縮ではありますが、資料と仮契約書を持参の上、ご自宅までお伺いさせていただきますが、本日のご予定はいかがでしょうか?』
「夜間ならいつでも大丈夫です。お待ちしております」
『承知致しました。それでは伺いますので宜しくお願い致します。失礼致します』
あいさつの後、電話が切れた。
わあ。今日。自宅に新藤さんが来てくれる! テンションが半端なく上がった。
来ていただくなら、仕事終わりにケーキを買って帰ろう。新藤さん、何が好きかな。ケーキなんか食べるかのな。あのキャラで甘いもの好きとかなったら、また私のテンションが上がるぅー。
家の近所に美味しいケーキ屋があるから、とりあえず寄って帰ろう。
テンションマックスで仕事を終わらせた私は、残業を言い渡されることなく定時で職場を後にした。三宮から電車を利用し、最寄り駅の兵庫駅で降りる。お気に入りのケーキ屋に寄って新藤さんに食べてもらうためのケーキを買い、急いで帰宅した。
光貴はスタジオの手伝いがあり、帰りは遅くなると聞いている。
このままだと、新藤さんと自宅で二人きり!
嬉しいけど、緊張するやんっ!
今日ばかりは、光貴に早く帰って来て欲しいと思った。
帰宅後、散らかった部屋を片付け始めた。光貴との結婚式写真を玄関に飾ったままだけど、変じゃないよね?
よく見ると写真立てに埃が付着していたから、急いで拭いた。こまめに掃除しないから、突然の来客があると焦ってしまう。
掃除をしているとあっという間に約束の時間になったので、珈琲を沸かした。ケーキを食べなくても、珈琲くらいは飲むだろうと思って。
そろそろかな、と時計を見ようと思った所でインターフォンが鳴った。玄関の扉を開けると、新藤さんが立っていた。
――来た!
「こんばんは、律さん。遅い時間に申し訳ございません」
「あ、いいえ。こちらこそわざわざ来ていただいて、ありがとうございます。どうぞお上がりください」
スリッパを揃えて出し、狭い廊下を通って奥のリビングへ案内した。
小さなガラステーブルに書類を広げた。淹れたての珈琲を出し、ケーキも一緒にいかがですかと伝えてみた。
「お気遣いありがとうございます。遠慮せずに頂きます」
新藤さんはいつも丁寧だ。私みたいな年下の女にもきちんと頭を下げてくれる。
「あ、でも今ケーキを食べてしまったら、晩御飯が食べられなくなって困りませんか? 考えなしにすみません」
「律さんが私のためにご用意下さったのでしょう? 夕飯よりそちらの方がいいです。ありがとうございます」
新藤さんが微笑んだ。
お気遣いありがとうございますというのは、こっちの台詞!
営業マンの鏡だ。ほんとうに優しい人。
それにしても夕食ってどうするんだろう。おひとりさまだと家に帰って自炊、それとも実家暮らしとか?
謎。新藤さんからは生活臭がしないので、なにも読み取れない。
勝手な想像だけれど、彼は家事のひとつを取っても完璧な雰囲気がする。ビシっと決まっているから、コンビニ弁当を買って食べる姿、想像ができない。
複雑な横文字で構成されたような、私には完全に無縁の意識高い系メニューを食べていそう。家が綺麗なのは当然。スタイリッシュなお洒落マンション住まいを想像する。
新藤さんのことを勝手に妄想しながら、買っておいたケーキも追加で置いた。
「これからよろしくお願いします。マイホームなので、色々と楽しみです」
深々と頭を下げた。
「はい。こちらも全力でお手伝いさせていただきます」
新藤さんが微笑んでくれた。
素敵な笑顔でこちらも嬉しくなる。いい担当の人に巡り合えて良かった!