テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
あの日の“好き”が追いつくまで~~d×n~
※本作はのみ、以前pixivにて掲載した作品のリメイク版**となります。
Side翔太
「翔太、あんた行く高校ないわよ」
俺、渡辺翔太は今日母親から死刑宣告にも似た事を告げられた。
俺は食べていたポテサラトーストのポテサラの部分だけを無残という形で皿に落としてしまった。
――――――――
「あはははは!!翔太、傑作じゃん」
目の前にいるのは俺と同じく顔のホクロがチャームポイントの佐久間大介。
しかも手を叩いて俺のこの現状を笑っている。
ジャ〇〇ズ〇ュ〇アに所属の俺はダンススクールやボイトレに明け暮れてすっかり勉強がおろそかになり今に至っている。
「笑うなよ佐久間ぁ」
「いや~ごめんごめん、けどだから言ったじゃん。ちゃんと勉強しとかないと後で痛い目見るって」
「おま、成績俺と変わらないくせにどの口が言う」
佐久間にだけは言われたくない。
学年で俺と最下位争いをするのはいつも佐久間だ。
ただこの間のテストだけ佐久間は思った以上にいい点を取っていたのが記憶に新しい。
くそぅ、絶対今まで通り勉強なんかしてないと思って勉強してない事の共犯にするのを忘れてしまっていた、
そこで差がついてしまった。
「佐久間…お前も俺と〇ャニ〇ズ〇〇〇アとして一緒だったはずなのに何で今回成績よかったんだよぅ」
ふてくされた俺は先ほどまで食べていた昼食のお弁当を片付け机に突っ伏した。
俺のライフはゼロです。
「いや~その前のテストがやばかったからさ、ちょっとだけ塾に通ったんだよ」
「え、まじか、ぬけがけしやがって」
「人聞きの悪い事を!でも結構効果あったみたい」
「実は俺も今朝母さんから勧められたんだよ、塾。ていうか予備校?見てこれ」
俺は体を起こし母さんから鬼の形相で渡されたチラシを佐久間に見せる。
チラシをちらっと見るだけで今朝の母さんの顔が思い浮かんで少し身震い。
チラシには『たった一カ月で君の力は飛躍的に伸びる!今すぐ体験へ』と書かれている。
俺はこういううたい文句はそもそもあんまり信用しないタイプだけど藁にもすがりたい俺は今その文字が輝いてみえる。
「お~いいじゃん、行ってこいよ」
軽いノリの佐久間。
他人事だと思いやがって…
「でもこれダンスレッスンの時間と被る」
俺はチラシに小さく記載された時間を指さした。
俺と佐久間はジャニーズジュニアに所属している。
自慢じゃないが顔もそこそこいいから彼女だって途切れた事ないし。
「とりあえず一カ月だけ行ってみれば?レッスンは他の曜日もやってる訳だし週一回くらい勉強にあててもいいんじゃね」
「え~…」
俺は歌とダンスが今一番楽しいことなのにそれ削って塾へ行かなきゃいけない理由がほんとに意味が分からない。
「留年ジャ〇〇ズ?」
「中学に留年とかないから」
「中卒ジャ〇〇ズ?」
「それはちょっと…」
ドンドンと追い詰められてしまう。
くしくも佐久間の言ってる事が現実になってしまうかもしれない。
それだけはなんとしてでも阻止せねば。
「佐久間、志望校は?」
「某高校」
「は!?まじ!?偏差値結構高めじゃん!何!?この間のテストで調子乗っちゃってんの?」
おそるべき佐久間のうぬぼれ。
佐久間の口から出た高校はその先の大学までを視野にいれた県内ではまぁまぁの高校だ。
「違うわ!!俺はジャニーズ一本でやっていくつもりではあるけど、それなりに社会とかうんぬんかんぬんとか学んでないと色々大変って聞いたから!それにもしも俺達が売れて有名になった時に学歴ないとかSNSで叩かれまくるんだからな!」
確かに…
グウの音も出ない。
佐久間のくせに。
俺は口を尖らせてふて腐るように机に突っ伏した。
「とりあえず予備校行けば?駅前だしすぐ行けるっしょ。今日のレッスンは俺から休む事伝えといてやるよ。翔太の留年がかかってるって説明しとくから」
「そんな説明しないで。お腹壊したって言っといて」
「何で嘘つくんだよw」
「行きたくない~」
茶化すようなその視線に俺は小声で反論した後に更に拗ねて両腕の中に顔を沈めた。
佐久間は俺の頭をあやすようにポンポンと叩いた後クルリと前を向いたようだった。
―――――――――
人混みの中をチラシの地図を頼りに進んでいく。
東京は広い。
広いはずなのにこんなに人がいればこんなにも狭く感じてしまう。
心無しかこの足取りも重い。
いや…今俺の心が沈んでいるからこの足取りの重さを東京という地域のせいにしてしまいたのかもしれない。
世知辛い世の中じゃ。
謎に憂いてみても俺の頭が急によくなるわけでもなくただただその歩幅を進めた。
…こんなに人がいたら…
昔の友人とか知り合いに会ってしまうんじゃないだろうか?
ふとそんな事が頭によぎった。
最近は学校、稽古場、家の往復ばかり。
久しぶりの駅前。
もしかしたら懐かしいアイツが居たりして…なんて。
昔。想いを馳せた人物が頭をよぎった。
『翔太』
そう呼んでくれる幼い顔。
アイツとは確か幼稚園で離れ離れになってしまったんだっけ。
子供の頃の遠い記憶。
でもソイツだけは覚えてる。
なぜか分からないけど覚えてる。
だってあんなに正反対で気の合うやつはいなかったから。
いつの間にか惹かれていってたけどまだその感情に名前をつけれずそのままにされている。
人混みをかけわけながら予備校が見えてきた。
ふと現実に引き戻される。
予備校の玄関前には見覚えのある中学の学ラン姿の男と女。
男女カップル?くっ…カップルで予備校とかどんだけリア充だよ。
別に自分にだって彼女はいるが別に告白されて付き合ってるだけで特に思い入れがない。むしろ自分は今の予備校への憂鬱感から幸せそうにしているカップルが疎ましい。
『もういっそバックレてレッスン行くか』
玄関を開けたがクルリと180度足をターンさせ帰ろうとしたその時、一瞬見えたその男の方はどことなく見覚えのある顔である事に気づく。
キリっとした切れ長の瞳。
髪はロイヤルさを醸し出した毛先の巻き髪。
独特の口元は上品に笑っている。
「え」
「ん?」
つい声を出してしまった。
俺の声が聞こえたのであろう向こうも俺に気が付いた。
その瞳に俺が映っている。
「翔太?」
「りょ…うた?」
呆気にとられたその顔に俺は引き込まれそうになる。
まるで二人きりの空間にでも転移してしまったような気がした。
世界は限りなく狭い。
でも、その狭さに少しの感謝を持つことになろうとは。
「誰?」
だけどその空間もたった一瞬で終わりを告げる。
女の声で俺は現実に引き戻された。
サラサラと黒い髪がなびくその女の子も俺の方に視線を向けた。
どこか品定めするような感じに俺は居心地がかなり悪くなってしまった。
早々に退散したい。
俺は会釈をしてその場を去ろうとした。
しかしソイツは俺を制止させた。
「あっ、待って翔太。夏帆、じゃまた」
「え?」
驚く彼女に涼太は手を振った。
「一人で帰れるだろ?」
「約束が違うじゃん」
「ここまでで十分約束は果たしたよ」
「ぶ~分かった。じゃあね涼太」
夏帆…さん…。
どう見ても彼女。
しかし彼女とあっさりと踵を返し行ってしまった。
「宮〇〇太?」
「そうだよ、翔太。久しぶりだね」
「なんか…変わったな。王子様感的な…?」
「はは、ちょっと言われる。昔は泥んこ遊びばっかしてたのにね」
そう。昔の涼太は無邪気で、泥にまみれて一緒におままごとして、秘密基地作って、時には俺が泣かされて、でも最後は「翔太、これでナミダふいて」って笑ってくれるやつだった。
「ところで翔太はなんでここに?」
涼太の問いかけに、俺は一瞬返事に詰まった。
(やっべ、成績悪くて親にむりやり勧められて予備校来たけどイヤすぎてバックれようとしてたなんて正直に言えない!再会してさすがにそれは悪印象すぎる!)
「あ~…」
口ごもった俺に、涼太は首をかしげながら優しく待ってくれてる。
(くぅ…この無言の圧が逆にしんどい…)
「ま、まぁ…ほら、ちょっと勉強もしといた方がいいかなって思って…?」
「ふーん」
「……いやほんとだって!ジ〇〇〇ズの活動も大事だけど、将来のために、ちゃんと学んどかなきゃっていうか!」
目線を逸らしながらちょっと早口で言い訳っぽくなってるのは、自分でも分かってる。でも涼太はそれを咎めるわけでもなく、にこっと笑ってこう言った。
「うん、それ大事だよね。俺もそう思ってる」
「そ、そうっしょ!? ……はは、だよな~」
あっぶねぇ…なんとかごまかせた。
いや、ていうかごまかす必要あった? てか、バレてない? なんか涼太、全部分かったうえで受け入れてくれてるような気がするんだけど…気のせい?
「あ、ちなみに今日が初日?」
「……うん、そう。今日から」
小さくうなずいた俺に、涼太は少しだけ目を細めて嬉しそうに笑った。
「じゃあさ、最初は一緒に行こう。教室まで案内するよ」
「え、まじで!? いや助かるけど、なんか…俺、完全に“涼太に連れてこられた感”出ちゃうんだけど…」
「だって実際そうじゃん?」
「ぎゃー! 言ったーー!」
涼太のツッコミに思わず頭を抱えた俺だったけど、どこか心の中がふっと軽くなってる気がした。
予備校、正直来る気なんかなかったけど——
もしかして、ここから何かが変わるのかもしれない。
いや、もう変わり始めてるのか。
俺、渡〇〇太。中2。ジャ〇〇〇〇〇ニア。勉強超苦手。今懐かしい恋がスタートしそう。
――――――――
続きはnoteで作者名『木結』(雪だるまのアイコン)で検索して下さい。