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- shp side -
パタン、と鳴った無機質な音が、物静かな部屋に飲み込まれていく。
現在の時刻は深夜2時。
皆寝静まる丑三つ時だ。
shpは、来週に迫る期末テストに向けて、少々テスト勉強をしていた。
読んでいたのは、とある人類史の本 ─── 。
本を閉じると同時に、shpは
「はあ。」
と一息、小さなため息をついた。
時は、2218年。
人類は、約100年前、死者を蘇らせる装置、
『Raising the Dead』
通称、【RD】をついに開発した。
この報道に世界中が狂喜していたことだろう。
RDを開発したのは、なんと世界規模で有名な、あの《SatisFied world》、通称【SFD】だったからだ。
ただし、このRDを使うには、莫大なエネルギーがかかってしまうことが分かっている。
しかも、ほんの数回使っただけで、宇宙にまで影響を及ぼすとされているくらいには、だ。
現時点ではまだ、たったの2回しか使えないらしい。
しかし、人間は好奇心には勝てないものだ。
すぐに国際会議が開かれ、地球を大きく発展させた世界の偉人の中から1人に、RDを使おう、ということになったのだ。
しかし、RDを使用するには、当然ながら生前の情報が大量に必要なのである。
もっとも、死体が残っているのが最適な状態らしいのだが…。
およそ10年にもわたる、世界中の人々による投票、国際連合等の情報収集により、まさに「発明王」とい われるであろう人物、
「トーマス・アルバ・エジソン」
通称、トーマス・エジソンが選ばれた。
これに全人類は大歓喜。
”エジソンが一緒なら、RDが世界に及ぼす影響も解決できるだろう!”と、世界中が凄まじい大盛り上がりを見せたのだ。
蘇らせる人物が決まってから1年後、早速、エジソンにRDが使われることとなった。
SFDと生中継を繋いでいた日本のテレビ局や人々も、この日がついにやってきたかと、皆期待の目で今か今かと待ちわびていた。
そしてついに…!!
その瞬間がやってきた。
プシュー、という大きな音と共に煙を吐いたRDから出てきたのは、紛れもないあの、トーマス・エジソンの姿だった ───
はずだった。
その姿は誰が見ても言葉を失うような状態であったのだ。
腰は完全に曲がりきり、発明王として知られた顔は、もはや誰か分からないほどシワで覆われていた。
さらには、1人では十分に歩くことの出来ない、貧弱な体にまでなっていて、歴史の授業で習ったような何度でも挑戦し続ける、たくましい彼の姿は容易には想像もできないような容姿をしていた。
それでは、SFDが、RDが、実験に失敗してしまったというのだろうか。
そもそも、蘇生された人物はエジソンではなかったのだろうか。
否、違う。
RDでの死者蘇生は完璧に成功しており、蘇生された人物もまた、エジソン本人で間違いなかったのだ。
では、何が違ったのだろうか。
この時、人類は考えることができていなかったのだ。
この装置は、あくまでも”死者蘇生”を行えるだけである、ということに。
この装置に死者蘇生を蘇らせたあと、さらにちょうどいい年齢にまで若返る、なんていう都合のいい仕組みなど付いていなかったのだ。
つまり、この数十年間は無駄になったということなのだ。
全世界の大誤算により、たったの2回しか出来ない死者蘇生の1回を無駄にした挙句、数十年間の努力やRDの開発にかけた諸々は、全て水の泡になったのだ。
なかったことになってしまったのだ。
約100年前に起きた、宇宙までをも巻き込んだこの大事件の記録は、ここで途切れている。
なんとも歯切れの悪い終わり方だと俺は思う。
だがしかし、過去を変えることはもうできないわけで…
もう…できないわけで…
俺は、ふと考えてしまった。
もし、過去に犯してしまった自分の過ちを、無かったことにできたのなら…
もし、あの時、あの瞬間、目の前で失ってしまったものを、取り戻すことができたのなら…
あの時、俺のせいで失ってしまった彼と、まだ、笑い合うことが出来ていたのなら…
どれだけ幸せなのだろうかと。
しかし、タイムマシンなんてファンタジーめいたものはこの世に存在していないわけで…
こういう思考に陥る時、毎回のように一瞬、脳内にRDのことがチラついてしまう。
あの機械はもう使うことは出来ないのに。
俺は自分にそう言い聞かせ、今日もまた、毛布とベッドの隙間に体を挟み込んだ。
𝙉𝙚𝙭𝙩 ︎ ⇝ 2025/3/7 (金) 予定