テラーノベル
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夜の八時。
わたしのいちばん大事な時間。
マグカップにたっぷりのミルクティーを入れて、クッションをぎゅっと抱きしめる。テレビの向こうで笑うのは、わたしの彼氏。
__と、わたしが勝手に呼んでいる人。
国民的アイドルの 天城レン。
「今日もかっこいいねえ、レンくん」
画面越しに小さく手を振る。もちろん届かない。
でも、届かないってわかってるのに、振っちゃうの。
だって好きなんだもん。
学校では、みんなが「レン様」って騒いでる。
ドラマの主演が決まったとか、CMが増えたとか、雑誌の表紙がどうとか。
わたしは、その輪の端っこで、うんうんってにこにこしてる係。
本当はね。
ちょっとだけ、胸がきゅってするんだ。
だって、テレビの中の彼は、誰のものでもない顔で笑う。
でも同時に、みんなのものでもある。
この前、バラエティ番組で彼が言ってた。
「いつも応援してくれる“あなた”がいるから、僕は頑張れます」
“あなた”。
その言葉を聞いた瞬間、
わたし、ちょっとだけ泣いちゃった。
ああ、わたしのことかもしれない。
でも、わたしじゃないかもしれない。
きっと、何万人、何十万人に向けた“あなた”。
それでもね。
「はーい、ここにいます」
って、画面に向かって返事しちゃった。
ばかだなあって思うけど、
好きって、理屈じゃないんだもん。
放送が終わって、真っ暗になったテレビに、
ぽつんと映るわたしの顔。
ふわふわのパジャマ。
少し赤い目。
テレビの中には王子さま。
テレビの外には、ただの女の子。
もしも、駅のホームですれ違ったとしても。
もしも、同じ空気を吸えたとしても。
きっと彼は、わたしに気づかない。
それでもいいの。
だって、わたしは知ってるから。
彼が眠れない夜もあること。
緊張で手が震えること。
笑顔の裏で、いっぱい努力してること。
インタビューやドキュメンタリーで見た、ほんの少しの素顔。
それを知れただけで、
わたしはもう、十分しあわせ。
「明日も、がんばってね」
消えた画面にそっとつぶやく。
届かなくてもいい。
返事がなくてもいい。
わたしの恋は、拍手みたいなものだから。
触れられなくても、
抱きしめられなくても、
ただ、あなたがそこにいるだけで、
わたしの毎日は、きらきらする。
テレビの向こうの王子さま。
今日もだいすきだよ。
ソファの上のお姫さまは、
ちゃんとここで、笑ってるからね。
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