テラーノベル
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午前11時、お昼の光も眩しく、恋人の姿をいっそう美しくする。静かな机に1つの世界を作り上げている彼の姿をキッチンから眺める。それが大好きでたまらなかった。
「アイク、お昼ご飯ができたよ」
「うん、今行く。」
なるべく彼の邪魔はしたくない。けれど、夢中な彼はどんなことも忘れてしまうから、またに現実に戻しくてあげる。
お昼のパスタは少し塩っ気が多すぎた。
「悪い、少ししょっぱいな」
一呼吸空く。
「…僕は好きだけどね」
何も言わずに食べ進める。今も彼は彼の世界にいるのだろうか。
食事が終われば、私は家を出て、仕事をする。
請負人ではあるが、シュウの除霊の手伝いをしたり、ミスタの依頼の手伝いをすることがほとんどだが。
家に帰ると、アイクが出迎えてくれる。アイクの作った料理がある。それだけで生きている気がした。
「ごめん、これ薄いね」
アイクが言う。
「優しい味じゃないか」
そう言って、彼を見つめるが、納得していない様子。
小声でそっと言う。
「次は、上手くやるよ…」
その笑顔がやたら寂しくみえた。
なぜ、そんな顔をする?
「十分美味い」
その言葉だけが部屋に残った。
やっぱり、一緒にいるべきじゃないのか。
最近、そう感じることが増えた。
アイクは自分の世界を持っている。机でも、日常でも。
私はそれを邪魔しているのではないか。
私がいない方がいいなら、それでもいい。もしそうじゃないなら、またここへ戻ってきてほしい。
ポケットからチケットを取り出した。
森のコテージに泊まり、星の観察をする。ペアチケット。
「アイク、これをやる」
彼は不思議そうに見る。
「私は行けない。だから、他の誰か誘って行ってくれ」
彼はますます不思議そうな顔をする。やけに部屋が静かに感じ、自分の鼓動だけが響く。そして彼は言う。
「…分かった、ありがとう」
その笑顔の意味が。もう分からなかった。
数日後、アイクはミスタと旅行に出かけた。
「2日後には帰ってくるね」
「…あぁ、行ってらっしゃい」
あの日、「一緒に行こう」と言うべきだったか。その夜は何も考えなれなかった。頭にあるのはアイクだけ。言葉、行動、彼にはどう見えているのだろうか。どれだけ考えても分からなかった。
次の朝、誰もいない家で朝食を食べる。彼がいないだけでこんなにも静かなものか。
ふと、ノートが目に入った。アイクがいつも使っているものだ。
視線を逸らす
はずだった。
気づけばノートを手に取っていた。
そこには1つの物語が綴られていた。
『近くにいるほど、苦しくなる。
なんでもない事で喜んで、なんでもない事で不安になって。
それなのに君はいつも優しい目で僕を見つめる。なんにもないみたいに。それがたまらなく怖かった。こんなに考えているのは僕だけなのか…。
君の前では全てが上手くいかない。なにを言っていいのか分からなくなるんだ。
目の前の君がこんなに遠いのはどうして?理由もないのに涙が溢れる。
それでも君は変わらない。それでも隣にいたい。
だから、僕もなにもないように、今日も笑うんだ。』
ヨロヨロと立ち上がり、キッチンへ向かう。
ここから見える景色は、色褪せている。
何もない机。靡かないカーテン。
「1人でもいい」なんて…
そんなわけなかった。
ずっと彼の為だと思っていた。彼がもっと自由に生きられるようにと。
でも
甘えてたのは私の方だ。
自分がどうしてでも守りたいものは彼だと。もう決まっていた。
今すぐにでも、彼を迎えに行きたかった。
コートに手を伸ばして、止まる。
“帰ってくるね”
彼の言葉を信じたかった。
アイクが帰ってきた。知らない匂いと共に。
「おかえり」
「ただいま」
彼は笑顔だった。今まで忘れてた。アイクの笑顔がこんなにも可愛いなんて…。家が魔法がかかったように色めき出した。
さっきまでの憂鬱がぱっと晴れる。
「そんなところに立ってどうしたの?」
クスッと笑う彼。
「いや、なんでもない。それより、今日は私が夜ご飯を作るよ」
「え?いいよ、この間のリベンジしたいし!」
「そうか、じゃあ2人で作るのはどうだ?」
「え……、うん、いいよ…それなら」
少しだけ彼の耳が赤い気がした。そんな些細な変化に気づけるようになった。
私の言葉で一喜一憂する君が、私にとってどれだけ救いか、君は知らないだろう。
いつか。
素直にそう言えたらいいな。
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