帰路に着いたのは夜だった。
暗いシェアハウスの電気をつけ、雪崩れるように皆部屋へと入る。
「いや〜楽しかった! けど疲れた…」
「水って体力奪いよるな」
「よく寝た〜!」
じゃぱぱさんが伸びをし、その後ろでたつやが荷物を入り口近くに置く。大きなあくびを噛み締めてどぬがソファに座り込んだ。
「運転お疲れ、シヴァさん」
「ん」
実はみんなで車で移動していた。
運転を安定的にできるのは俺とのあさんヒロくんしかいなくて…(あとは免許あるけど自信がない、とか)行きと帰りは三人で交代しながらだったけれど。
途中渋滞にハマったり、SAで休憩したりしたのでそこまで疲れてはなかったのは幸いだ。
「女子会しましょ!」
「わぁ嬉しいっ! ひさびさにやりたいですっ」
「おさけーおかしーおつまみー」
着いて早々、女の子たちは集まってきゃっきゃっとおしゃべりし始めた。
るなさんも車で爆睡だったらしく(のあさんの運転する車に乗った)今は元気だ。
(夢見たいな時間だった)
白昼の出来事を思い出す。
水着で二人、最初こそ恥ずかしがっていたけれど飯食って遊んで。
途中だれかと会ったら合流しよう、なんて話をしていたが誰とも会わず。
結局…デートのような形になって終わった。
楽しかったなぁ…。
「シヴァさん、飲み直さない?」
「あ、うりか」
「オレで悪かったな。女子たち部屋行っちゃったし、シヴァさん運転あって飲んでないだろ?」
「飲みたいんじゃないかなって思ってね、
どうかな?」
うりとなおきりさんが、いつのまにか缶の酒を手に取り、ふらふらと自分の前で振って見せている。
ちらりとるなさんがいたあたりに目をやった。
もういなくなってる。
早かったな。
明日帰るから、もう少しだけ話がしたかったけれど…無理か。
「ごめんな、るなじゃなくって」
「なっ、ばっ、ちげぇよ!!」
この二人には頭ん中丸見えで嫌だ。
「るなさんと遊べてよかったね」
諭されるような優しい声。
そしてなおきりさんの柔和な笑みに抗えず、素直に頷いた。
「いつもそう素直にしてればいいんだよ」
「う、だ、だって」
「だってじゃないよ。ちゃんと思ったことは伝えていってね」
俺がまたくだらないこと考えてる、とか自信持て、とか。きっとなおきりさんは色々知っている。二手三手先を読みアドバイスをされ、俺は何にも言えなかった。
side rn
「ででで〜るなさんは最近どうなんですかっ!?」
「のあさん酒回るのはやくない?」
のあさんのお部屋にうつってみんなで女子会をしてるんだけど…。
いきなり恋バナ!?
どうしよう、シヴァさんとのことは内緒だし。でもるなのことだから、どこかで変なことを言ってしまいそう。
ええと、ええとー…
もたもたしていたら、のあさんからの追求が始まった。
「あやしい…」
「るなまだ何にも言ってませんよ!?」
「だって今日久しぶりにるなさんに会って、可愛くなったなって思ったんですよ〜」
「あ〜それは私も思った」
「えとちゃんまでっ」
可愛いなんて言われて困る。
だって特に変わったところはない、髪型だって、メイクだって、服だって。
そりゃあ、東京に行くからちょっとはおしゃれしたけれど。
「今日着てるお洋服がかわいい、とかですか?」
「違いますよぉ、なんかこう、雰囲気?」
「雰囲気ですか?」
「甘くて可愛い、オンナノコしてるなーって」
のあさんはとても嬉しそうに紅茶を啜る。
ラズベリーティーの香りが部屋中に広がった。
「わかる。今のるなはこの紅茶みたいな甘い雰囲気する」
「えぇ〜大袈裟だよ…」
私からはこんな甘酸っぱい匂いがしてるのかな。二人に指摘され顔を赤らめた。
「どんなひと?」
「えっ、いる前提…?」
「のあさんには隠さなくても全てわかりますから!」
今度は紅茶ではなくほろよいを飲み干す。
紅茶とお酒って合うのかな?
のあさん、私に付き合ってる人がいるってわかっちゃったんだ…さすがだなぁ。
「あのじ、じつは、付き合ってる人がいて」
「えぇ!?」
「えっ!?な、なんですか!?」
「いやてっきり好きな人がいるだけで、まだだと思ってたので…もうつきあってるの!?」
「(る、るな〜)」
えとちゃんの心配そうな顔が視界に入る。
うわーやっちゃった… そっちかぁ。
相手はシヴァさんということは隠しますが、言っちゃいました…。
こころの中で彼氏に小さく謝った。
「ききたいっ!どんなひと!?大阪であったの??大学のひととか…?」
「えっと、年上で…東京の人です」
「東京っ!?じゃあ遠恋だ…」
「いつもどっちから連絡するの?」
のあさんとのお話の合間にえとちゃんから質問が入る。えとちゃんはるなの彼氏が誰かわかってるから、きっと頭のなかにシヴァさんを思い浮かべているんだろう。
「う、うんLINEも電話もるなから…」
はた、と気づいた。
いつも連絡はるなからばかりで、シヴァさんからきたことない。
しつこかったかな?
もしかして迷惑だった??
不安になる。
私が黙ってしまったので、えとちゃんが何かを察して慌てだした。
「ほら?忙しいからタイミングとかわかんないんじゃない!?るなから連絡すれば、すぐ返してくれるんでしょう?」
「うん。でも、るながしつこいから仕方なしに電話もLINEも返してくれてるのかも…」
「それは絶対ない」
えとちゃんがるなの不安をきっぱりと否定してくれた。
「そうかなぁ」
「そうだよ。どう見たってデレデレじゃん」
「デレデレって…そんな感じしないよ」
「どうせ顔隠してるんでしょ、今度覗いてみな。悶えてるのが目に浮かぶわ。」
確かに視線を逸らされることはあるなぁ…あれって照れてるのか。
「明日帰るんでしょ? まだ時間あるし。もうちょっと会っておいでよ」
「でも、えとちゃんとのあさんと女子会中だし…あっ」
だいぶ込み入った話をし始めてしまい、慌ててのあさんを見る。
…お酒が回ったのか、ぐっすりと寝ていた。
「のあさん寝てるし、ねっ?たぶんうりたちと飲み直してるはずだから、夜はシェアハウスに泊まっていくよ。」
「でも…るながいきなり声かけたら、もふくんやじゃぱぱさんたちいたら怪しまれない?」
「どーせハゲズでしか飲んでないって。大丈夫大丈夫!ほらほら!」
グイグイと背中を押され、女子会はいそぎ足ででお終いになってしまった。
(扉の前まで来たけど、どうしよう〜)
ノックする?しない?
かれこれ五分くらい悩んでる。
そしてノックしたところで…なんて言おう。
扉の向こうは賑やかな声が聞こえる。
えとちゃんの言ってた通り、ハゲズみんなでお酒飲んでるみたい。
動画を撮る時とはまた違った、くだけたシヴァさんの笑い声も聞こえた。
(すごく盛り上がってるみたいだし…邪魔しちゃ悪いよね)
もっとるなにも、ハゲズで喋るようにゆるい気持ちで話して欲しいなーなんて思ってる。
ちょっと固いっていうか…言葉少ななんだよね。
付き合ってるのにもっと求めちゃうのはわがままかな。
ノックしようとした手を引っ込めた。
「気分転換に麦芽飲料でも買ってこよっかな!」
彼女と男友達の前で違うのはわかってる。
付き合う時も、全部好きって話してくれたけど…その気持ちはまだ変わってないのかな。大丈夫なのかな。
シヴァさん私と無理やり一緒にいてくれてるんじゃないのかって、ちょっと思っちゃう自分がいて。
「わがままだと嫌われちゃうぞー…るな」
頭を冷やすためにも外に出よう。
扉に背を向けて玄関へと歩いた。
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