透子と何気ない幸せを感じたそれからすぐ。
オレは透子に伝えた通り、しばらく大阪へ出張。
大阪での新店舗計画の相談で一週間は滞在予定だけれど、毎日目まぐるしい忙しさで。
自分が関わる以上、中途半端なモノにはしたくなくて、やる以上には集中して進める。
またこの忙しさで、少し前の透子と離れていた時を思い出してしまう時がある。
あの時は先の見えない中で、その先の未来を信じてがむしゃらに頑張っていただけだったけど。
でも今は、毎日忙しく疲れた後も、夜には透子と電話で連絡が取れる。
画面越しでも、その声や、顔を見るだけで安心する。
それだけでまた頑張る意欲が湧いて来る。
だけど、やっぱり声や顔を透子を感じてしまうと、その分会いたさも募る。
だから、オレは出張先での仕事を必要以上に頑張って、予定していた日数よりも早く切り上げた。
やっぱり頑張れる存在がいてくれることは、何よりも力になれるのだと改めて実感する。
昨日の電話でも、あと2日まだ会えないことを寂しがってくれている透子がいて。
少しずつオレに対しても、素直な気持ちを見せてくるようになった透子。
仕事が片付いた時点ですぐに透子に連絡をしようかと思ったけど、なんとなくまたオレの見たことない透子の顔が見たくて、いきなり訪ねてサプライズで会いに行ったら、また喜んでくれるかと期待して、出張先からそのまま透子の家に向かうことにした。
もう仕事も終わってる時間だし、今は透子も残業ないって言ってたから家にはいるはず。
2日も早く帰って来たら、透子喜んでくれるかな。
どんな顔してオレを迎え入れてくれるかと想像しながら透子のマンションの部屋に近づくと・・・。
オレの先に少し前にいた男が、透子の部屋の前で立ち止まる。
えっ? そこ透子の部屋だよな?
オレは思わずその場で足を止めてしまう。
するとドアを開けて透子が顔を出す。
やっぱり・・・。
その男が声をかけ、透子が微笑みかける。
誰・・? その男。
なんとなくその服装や雰囲気から会社の男でもなく、柔らかい親しげに感じる様子の二人。
だけどオレと同じくらいか若い男で。
なのに、明らか昔から知ってるようなオレの知らない関係の男。
結局オレは自分が想ってる期間が長かっただけで、透子のすべてを今までのことをまだ知れているワケではない。
オレ自身だって、透子の知らない女性の存在は山ほどいるワケで、責める資格もないんだけど。
でも、オレのいない出張中にって・・・どういうこと?
そんな間に家に訪ねて来るって、どういう関係?
透子のことだから浮気とかないって信じてる。
最近の電話だって毎日オレを想ってくれる様子感じられるし不安もなかった。
だけど、いざ目の前でオレのいないところで知らない男と親しげにしている姿を見ると、そんな考えも簡単にぶち壊される。
笑いながら部屋の中に入っていくその男。
何の抵抗もなしに迎え入れる透子。
そんな姿をオレはただ遠く離れた場所で、黙ったまま見つめ、虚しさと不安に襲われる。
久々に感じるそんな気持ち。
さっきまで透子の笑顔だけ想像してたのに、早く会えて喜んでくれる透子の姿を想像していたのに。
今その部屋の中でその男と何してんの?
オレのいないとこで何してんの?
オレがいるのになんで部屋に上げてんの?
なんでそんな嬉しそうにオレ以外のやつ迎え入れてんの?
今それオレが思い浮かべてたことなのに。
それホントはオレにしてくれることだったのに。
上がっていた気持ちが一気に落ちる。
少し早くに訪ねていれば、こんな場面出くわさなかったのに。
だけどそうなれば部屋にいたオレに隠れて気まずそうにその男を対応していたのだろうか。
それともオレがいたところで、その男と新しい時間が始まっていたのだろうか。
・・・あー、ダメだ。
悪い方にしか考えられない。
だけど、オレは透子と結婚するんだし、透子がまた他のヤツに気持ち持ってかれてたとしても、そんなことで諦めてたまるかよ。
ようやくここまでこんなに時間かかって辿り着いたんだ。
ようやく手にした透子そう簡単に手放してたまるか。
そしてオレは決意して透子の部屋のチャイムを押す。
「ハイ」
透子がドアを開ける。
「えっ? 樹!?」
そしてオレがドアの前に立っていて驚いた様子を見せる透子。
その驚きはオレが早めに帰って来たから嬉しいって反応?
それとも中に別の男がいるから気まずいって反応?
「樹? なんで? 出張は? あと2日あるんじゃないの?」
案の定オレがここにいることに質問攻めしてくる。
「透子に会いたくて仕事早めに片付けてもう帰って来た」
「そうなんだ! それなら連絡してくれればよかったのに。何も言ってなかったから突然でビックリしちゃった」
さっきまでならそれは喜んでくれているからと思えたはずなのに、今はただ言い訳してるようにしか思えなくて・・・。
なんなんだよ、オレの心の狭さ。
「いけなかった・・?」
そしてオレはとうとう我慢出来ず呟いてしまう。
「え・・?」
「突然訪ねて来たらマズかった?」
その男と一緒にいるの見られたらマズいよな?
その男どう説明すんの?
どんどん透子を困らせる口調や態度になっていくのが自分でもわかる。
こんな態度取りたくないのに。
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