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「えっ、なんで? そんなことあるワケないじゃん」
だけどそう透子に言われても怒った態度しか取れなくて、透子もそんなオレの様子に気付き始めてしまう。
「だったら・・・」
「え? 樹ホントにどしたの?なんか変だよ?」
「中入れてくれる?」
さぁどう来る?
なんにもなかったらオレ中に入れてくれるよな?
「あっ、今・・・」
「何? なんか都合悪い? 誰かいんの?」
透子がなんだか戸惑っているのがわかって、またオレは詰め寄ってしまう。
「透子ちゃん? どしたの?」
「あっ、ごめん。ハルくん」
すると、中からさっき部屋に入った男が姿を見せて声をかけてくる。
やっぱり見たことない男。
だけどその名前の呼び方が、特別な気がして。
オレの胸がざわつく。
「透子・・・。そいつ・・誰・・?」
だけど姿を見たらもう無理、抑えられない。
気付いたらそう透子に聞いていた。
「なんで他の男が部屋にいんの?」
この状況を見てもっと自分の嫉妬が止まらなくなる。
こんなこと起こるなんて思わなかった。
透子だけはそんなことしないと思ってた。
絶対なんて、ずっとオレを好きでいてくれる保障もあるなんて限らないのに。
「それは・・・」
言葉に詰まってすぐに何も言えないのはそういうこと?
やっぱりオレじゃなくその男を選ぶってこと?
なんでオレこんな余裕ないんだよ。
責めたいワケじゃない。
ちゃんと透子の話を聞かなきゃってわかっているのに。
嫉妬が先走って、自分の気持ちも上手くコントロール出来ない。
どこかでもうオレ達は大丈夫だと思っていた。
そんな自信オレはなんで持てたんだろう。
なんでオレは透子を信じてやれないんだろう。
オレが好きになってから、オレと出会ってから、他の男を選んだりしなかったから。
そんな笑顔で受け入れるようなそんな男現れなかったから。
だから、どこかで安心しきっていたのかもしれない。
きっと透子にどんな男が現れても、これからはもうオレを選んでくれるって。
オレ以外にそんな嬉しそうな姿見せないってそう思い込んでいたから。
もし透子が自分の意志で他の男を選んだ事実をつきつけられたら、オレはどうなってしまうんだろう。
あんな一瞬見ただけでも、オレはこんなドス黒い気持ちで覆われてしまうのに。
これ以上の現実を知ってしまったら、オレはもっと透子を責めてしまいそうで、手放したくなくて、どうしようもないオレを見せてしまいそうで怖くなる。
「樹。中に入って。ちゃんと説明する」
すると、透子もオレの気持ちを察したのか、何かの覚悟を決めたのか、さっきまでは違うちょっと冷静な声でオレにそう告げる。
オレもこのまま引き下がることが出来なくて、そのまま黙って部屋の中に入る。
まだ自分の気持ちも整理も出来ず、どんな感情になってどんな行動を起こしてしまうか自分でもわからないのに。
「樹。そこ座って。ハルくんもちゃんと説明するね。ハルくんもそっち座ってくれる?」
「あぁ、うん。わかった」
そして透子はオレにもその男にも冷静に伝える。
もうオレと透子の関係もここまで・・・?
せっかく結婚承諾してくれたのに、何があっても手放すつもりないと思ってはいても。
やっぱり透子からオレから気持ちが離れたと聞くのが、この世で一番何より怖い。
一番聞きたくない、そんな言葉。
一生聞きたくない、そんな言葉。
オレはいろんな想いが頭の中で駆け巡ったまま、それ以上もう自分から言葉にすることが出来なくて。
せめてそんな現実だとしたなら、オレからはそれを切り出したくない。
一秒でも長く透子の男でいたい。
それを言われる時間を一秒でも引き延ばしたい。
「樹。紹介するね」
するとようやく透子が口を開いて、とうとうその事実を告げようとする。
「・・・これうちの弟のハルくん」
そして恐れていた透子からの言葉は・・・予想もしていなかった言葉で。
「・・・え? 弟!?」
あれ? え? 弟?
そっか・・・弟・・・。
なんだ弟か・・・そりゃ仲いいはずだよな。
てか、透子、弟いたんだ。
オレ、そんな大事なことも今まで全然知らなかったのか・・・。
なのに先走って結婚してほしいだなんて。
そんな大事なこともちゃんと話し合いもしてなかった。
透子の家族のこと、オレは全然知らない・・・。
「どうも。はじめまして。弟の悠翔です」
そして弟だという彼がきちんと挨拶して来てくれる。
「あっ、はじめまして・。・。透子さんと同じ会社で今お付き合いさせてもらってる早瀬 樹です・・・」
さっきまでのオレの勝手な誤解と知らなかった現実に動揺してしまう。
「いや・・あっ・・そっか・・なんだ・・弟か・・。玄関で知らない男部屋入ってくの見えて・・・オレてっきり・・・」
情けな。
勝手に新しい男だって勘違いして、勝手に嫉妬してオレの醜い感情ぶつけて。
透子の弟にそんな感情、オレみっともなすぎだろ。
少し考えればわかることなのに。
透子が他の男にこんなすぐに気持ち変わるなんてあるはずないのに。
なのに、オレはあまりにも透子が好きすぎて、すぐに考えればわかるような当たり前のことでさえ、全然普通に思いつかない。
どうやったってオレの方が透子を好きすぎるから。
透子を好きでいる以上、きっとオレはどこまでも情けなくて醜くなって余裕なくてカッコ悪くなってしまうんだ・・・。