テラーノベル
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ある日の夜。
夕食を食べ終えた岩本と深澤は、ソファでのんびりテレビを見ていた。
「ふっか。」
「ん?」
岩本は何か言いたそうに深澤を見る。
「……ちょっと相談。」
「珍しいね。」
深澤はテレビを消し、岩本の方へ向き直った。
「どうしたの?」
岩本は少し言いづらそうに頭をかいた。
「笑わない?」
「内容による。」
「じゃあ笑うな。」
「だから内容によるって。」
深澤はくすっと笑う。
岩本は一度深呼吸をしてから、小さな声で言った。
「GPS……付けてほしい。」
「……え?」
一瞬、部屋が静かになる。
深澤は何を言われたのか理解できず、瞬きを繰り返した。
「GPS?」
「うん。」
「GPSのアプリあるんだけど。」
「位置情報共有できるやつ。」
「それを……。」
「ふっかにも入れてほしい。」
深澤は数秒黙ったあと、吹き出した。
岩本は真剣だった。
「笑うなって言ったのに。」
「だって!」
「GPSって!」
深澤は笑いながらも、岩本の表情を見て笑うのをやめた。
「……本気?」
「本気。」
岩本は真っすぐ頷いた。
「ふっかが女の子になってから。」
「ずっと心配なんだ。」
「仕事の帰り。」
「一人で買い物に行く日。」
「美容院。」
「カフェ。」
「何かあったらって考えると。」
「落ち着かない。」
深澤は静かに話を聞いていた。
岩本は続ける。
「信用してないとかじゃない。」
「自由をなくしたいわけでもない。」
「ただ。」
「もし何かあった時。」
「すぐ迎えに行きたい。」
「それだけ。」
深澤は優しく笑った。
「照らしいね。」
「でも。」
「GPSはちょっと大げさじゃない?」
岩本は困ったように笑う。
「俺もそう思う。」
「でも。」
「心配なんだ。」
「本当に。」
その真剣な表情を見て、深澤はソファの上で少し考えた。
「いいよ。」
岩本の表情がぱっと明るくなる。
「いいの?」
「うん。」
「照が安心できるなら。」
「その代わり。」
「俺にも照の位置情報見せて。」
「え?」
「お互い様。」
「照だって筋トレしに山の方行ったり、一人で出掛けたりするじゃん。」
「確かに。」
「だから。」
「俺も心配する。」
岩本は思わず笑った。
「そうだな。」
「それなら公平だ。」
二人はスマートフォンを取り出し、お互いの位置情報を共有する設定をした。
「これで終わり。」
深澤がスマホを置く。
岩本はほっと息をついた。
「ありがとう。」
「そんなに安心した?」
「した。」
「顔に出てる。」
「出てる?」
「すごく。」
深澤は笑いながら岩本の肩にもたれかかった。
「でもね。」
「一番安心する方法があるよ。」
「何?」
「ちゃんと『気をつけてね』って送り出して。」
「『着いたら連絡してね』って言って。」
「帰ってきたら『おかえり』って迎えてくれること。」
「それだけで十分安心できる。」
岩本は静かに頷いた。
「……うん。」
「GPSも安心するけど。」
「ふっかが笑って帰ってきてくれるのが、一番安心する。」
深澤は嬉しそうに微笑む。
「じゃあ約束。」
「これからも。」
「ちゃんと『ただいま』って帰ってくる。」
岩本は優しく深澤の手を握った。
「俺も。」
「毎回『おかえり』って迎える。」
その約束を交わした二人は、顔を見合わせて笑った。
翌日、その話を聞いた阿部は思わず笑いながら言った。
「照らしいね。」
渡辺も苦笑する。
「お互いに位置情報共有するっていう結論は、すごく二人らしい。」
深澤は少し照れながら肩をすくめた。
「でも結局、一番の安心材料はGPSじゃなくて、お互いを思いやる気持ちだったみたい。」
___________
その日。
深澤は仕事を終え、一人で帰宅していた。
岩本は別の現場で収録中。
「今日は一人で帰るね。」
昼間に送ったメッセージへ、
『気をつけて。着いたら連絡して。』
と岩本から返事が来ていた。
深澤は思わず笑う。
「本当に心配性なんだから。」
タクシーへ乗り込む。
「この先の公園でお願いします。」
自宅を知られないよう、家の少し手前で降りる。
「ありがとうございました。」
料金を払い、タクシーを見送る。
その瞬間だった。
「……あれ。」
急に視界が揺れた。
身体から力が抜けていく。
「まずい……。」
立っていられない。
深澤は近くのベンチまで何とか歩き、そのまま腰を下ろした。
冷や汗が流れる。
息も少し苦しい。
「少し休めば……。」
そう思ったものの、いつもと違う感覚だった。
バッグからスマートフォンを取り出す。
画面が少しかすむ。
岩本とのトーク画面を開き、震える指で短く文字を打った。
『来て』
送信。
それだけが精一杯だった。
スマートフォンを握りしめたまま、深澤は目を閉じる。
___________
その頃。
仕事を終えた岩本は車へ乗り込んだところだった。
スマートフォンが震える。
画面を見る。
『来て』
たった二文字。
「……!」
岩本の表情が変わる。
すぐに位置情報共有アプリを開く。
深澤の位置は――
家ではない。
近所の公園で止まったまま動いていない。
「何かあったんだ。」
岩本は迷わず車を走らせた。
信号待ちの時間さえ長く感じる。
「ふっか……。」
数分後、公園へ到着。
車を降りると、GPSが示す方向へ走る。
ベンチのそばまで来た時だった。
「ふっか!」
深澤がうつむいたまま座っていた。
岩本は駆け寄り、しゃがみ込む。
「大丈夫か!」
深澤はゆっくり顔を上げる。
「……照。」
その声を聞いて、岩本は胸をなで下ろした。
「来てくれた。」
「当たり前だ。」
岩本は深澤の額へそっと手を当てる。
「顔色悪い。」
「少し立ちくらみ……。」
「歩ける?」
深澤は小さく首を横に振った。
「無理。」
「分かった。」
岩本は迷わず深澤を優しく抱き上げる。
「帰ろう。」
「……ごめん。」
「謝るな。」
「連絡してくれてよかった。」
車へ乗せると、水を飲ませ、シートを少し倒した。
深澤は安心したように目を閉じる。
「照。」
「ん?」
「GPS……。」
「役に立ったね。」
岩本は小さく笑った。
「ああ。」
「付けてもらって、本当によかった。」
深澤も力なく笑う。
「俺も。」
「反対しなくてよかったって思った。」
岩本はその手をそっと握った。
「ありがとう。」
___________
数日後。
九人での収録の休憩時間。
この出来事を聞いたメンバーは驚いていた。
「そんなことがあったの?」
阿部が心配そうに聞く。
深澤は苦笑する。
「うん。」
「本当に立てなくなっちゃって。」
佐久間が腕を組む。
「照、すぐ迎えに行けたんだ。」
岩本は頷く。
「GPS見たら、公園で止まったままだったから。」
渡辺が感心したように言う。
「最初は正直。」
「GPSって重いかなって思ってた。」
宮舘も静かに頷く。
「でも。」
「こういう時のためなんだね。」
深澤は笑いながら肩をすくめる。
「監視じゃなくて。」
「安心のため。」
その言葉に、全員が納得したように頷いた。
目黒は阿部を見る。
「あべちゃん。」
「俺たちも入れよう。」
阿部は優しく微笑む。
「うん。」
「俺も安心できる。」
宮舘も渡辺へ視線を向けた。
「翔太。」
「俺たちもどうかな。」
渡辺は笑って頷く。
「もちろん。」
「俺も涼太が心配だから。」
その日のうちに、
目黒と阿部。
宮舘と渡辺。
二組も位置情報共有アプリを設定した。
設定が終わると、深澤が笑いながら言う。
「これで安心だね。」
岩本は照れくさそうに笑った。
「心配性って笑われてもいい。」
「重くたっていい。」
「大切な人が無事に帰ってきてくれるなら。」
その言葉に、メンバー全員が静かに頷いた。
誰かを縛るためではなく、誰かを守るため。
そんな優しさから始まったGPSは、いつしか三組にとって「ただいま」と「おかえり」を安心して交わせる、小さなお守りになっていた。
コメント
2件

重いと思ったけど 役に立って良かったね😃 紙一重だもんね。
ああ、もうこのエピソード、心がじんわり温かくなりました……。最初はGPSって重いかな?って思ったけど、岩本の「もし何かあった時すぐ迎えに行きたい」っていう言葉に、心配性の奥にある愛情の深さが詰まってて。しかも深澤が「お互い様」って対等に返すところが、本当に二人らしいなって。 そして実際に深澤が倒れたあの場面で、GPSが役に立ったっていうのが、押し付けじゃなくちゃんと二人を守る仕組みになってて、読んでてほっとしました。最終的に「ただいま」と「おかえり」が一番の安心材料だっていう着地も、すごく優しくて好きです。他のメンバーも真似し始めるオチ、微笑ましかったです🌷
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kaede🍁
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kaede🍁
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