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ダンボール箱の中に入っていた〇〇とその同類たちと共に異世界を旅することになった件　〜ダン件〜

第237話 - 〇〇は『赤き雪原』に向かうそうです　その6

2024年04月20日

#ファンタジー

#恋愛

#幼女

#第3回テノコン

#第3回テノコン読切

小鳥遊　悠治

「『五帝龍《ごていりゅう》』の一体にして闇の力を司《つかさど》りし龍よ。今こそ我にその力を与え給え」

闇ミノリがそう言うと、彼女の体から出ていた漆黒のオーラは赤く光《ひか》る瞳を輝《かがや》かせながら龍の鎧《よろい》と化《か》し、彼女の身にその力を纏《まと》わせた。

「う、嘘《うそ》でしょ。こんなの知らない。一度も聞いたことなんか」

「別に驚くようなことじゃないでしょ？　だって、あたしたちモンスターチルドレンの体内には『五帝龍』の力が宿ってるんだから……」

「だ、だとしても！　あんたが扱えるものじゃないでしょ！」

「それは、今から戦ってみれば分かることだよ。だからさ、早く殺し合おうよ。もう一人のあたし」

闇ミノリから放たれる|禍々《まがまが》しいオーラはミノリ（吸血鬼）が一瞬、恐怖を感じるほどのものだった。

しかし、ミノリ（吸血鬼）はそんなものには屈《くっ》しなかった。

彼女は左手の親指の先端を噛《か》むと、そこから出た血液を【日本刀】の形になるように操作《そうさ》した。

「……殺し合う前に一つだけ教えて、あんたのその形態に名前はあるの？」

「うーん、今のところはないけど、やっぱりあった方がいいのかな？」

「さぁ？　それはあんた次第じゃない？　まあ、あたしなら、ちゃんと名前を考えるけどね……」

「ふーん、そうなんだ……。じゃあ、こういうのはどうかな？　『|絶望のみを与える形態《デスピアズ・モード》』」

「……ふーん、まあ、いいんじゃない。じゃあ、そろそろ始めましょうか。勝った方が相手の言うことを聞くってことでいいわね？」

「それは別にいいけど、あたしが勝ったら、嫌でも合体してもらうことになるよ。それでもいいの？」

闇ミノリがそう言うと、ミノリは「……ふっ」と笑った。

「ええ、それで構わないわ。あんたなんかに負けてたら、ナオトに……ううん、みんなに顔向けできないから」

「あっ、そう……。じゃあ、始めるよ」

「ええ、いつでも構わないわよ。かかってきなさい」

「へえ、意外と強気だね。あたしに勝てる策でもあったりするのかなー？」

「さぁ？　それはどうでしょうね」

「そっか。じゃあ、行くよ！！」

漆黒のオーラを身に纏《まと》った闇ミノリは、目にも留まらぬ速さで前に進み始めた。

それはまるで荒《あら》ぶる漆黒の龍《りゅう》がその|猛々《たけだけ》しい力を見せつけるかの如《ごと》く……。

ミノリ（吸血鬼）は二本の刀を白い床に突き刺すと何かを言い始めた。

「……今、倒すべきは目前《もくぜん》の敵……我《わ》が身に宿りし、『五帝龍』の力よ。今こそ、我《われ》にその大《おお》いなる絶対の力を与え給《たま》え。再びこの世界に降臨《こうりん》し、人々を恐怖のどん底に突き落とす存在となるか、あらゆる災厄《さいやく》を薙《な》ぎ払《はら》う存在となるかは、|各々《おのおの》の判断に任せよう。さぁ、今こそ目覚めの時だ！　我《われ》と一つになり、その力を解放せよ！！」

ミノリ（吸血鬼）の高速詠唱が終了すると、ミノリ（吸血鬼）の体から『五帝龍《ごていりゅう》』を象徴する五色（赤、青、緑、黄、黒）のオーラが体から出始めた。

それを見た瞬間、闇ミノリは急停止した。

その圧倒的な力の前には、さすがの闇ミノリも恐れを抱《いだ》いた。

「そ、そんな！　まさか、それは……！」

闇ミノリが動揺《どうよう》していると、ミノリ（吸血鬼）は余裕《よゆう》の笑みを浮かべた。

「ええ、そうよ。あんたがさっきあたしに見せた、『五帝龍《ごていりゅう》』との合体をマネさせてもらったわ。まあ、あんたと違って、あたしは『五帝龍《ごていりゅう》』の力を全て解放したから、今のあんたじゃ、相手にならないでしょうねー」

「う、嘘《うそ》だ！　今日まで『五帝龍《ごていりゅう》』の力を扱えることも知らなかった無能が、あたしと同じことをできるわけが」

「ねえ、あんた。戦いを始める前に、あたしがあんたに言ったこと覚えてる？」

「そ、それは何のことだ？　ちゃんと説明しろ！」

どうやら闇ミノリは焦《あせ》りを感じているらしい。

ミノリ（吸血鬼）はそれに気づくと、ニヤリと笑いながら、こう言った。

「ほんの少し前のことも覚えていられないなんて、あんた本当にもう一人のあたしなの？」

「うるさい！　いいから説明しろ！！」

「あー、はいはい。じゃあ、今から説明するから、よーく聴《き》きなさいよ？」

その後、ミノリ（吸血鬼）は『五帝龍《ごていりゅう》』の力を完全に扱えるまでに至《いた》った経緯を闇ミノリに話した。

「……ということで、あんたはあたしの策略にまんまんと引っかかったってわけ。理解してもらえたかしら？」

ミノリ（吸血鬼）が得意げにそう言うと、闇ミノリは激怒《げきど》した。

「ふざ……けるな……」

「は？」

「ふざけるなあああああああああああああああ！！」

闇ミノリが纏《まと》う漆黒のオーラが激しく揺《ゆ》らめき始める。

しかし、ミノリ（吸血鬼）は全《まった》く動《どう》じなかった。

「あたしに、この形態の名称を名付けさせたのは、あたしのためではなく、自分がその力を発動し、扱えるようにするためのものだっただと！？　ふざけるな！　ふざけるな！　ふざけるな！　あたしがこの形態になれるようになるのに、どれほどの時間と試行錯誤を要《よう》したのか知らないお前が！　あたしに勝てるわけが……ないんだあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ！！」

闇ミノリが怒りを爆発させると、ミノリ（吸血鬼）は疑問符を浮かべながら、こう言った。

「あら？　そうだったの？　あたし、てっきり同じモンスターチルドレンで……なおかつ、ほぼ同一の存在であるあんたにできるのなら、あたしにだってできるかもしれないと思ったから、そんなに意識したわけじゃないんだけど。まあ、とにかくご苦労様。おかげで一つ上のステージに上がることができたわ」

「は、はぁ？　最初はあたしの力を見てビビリまくってたクセに、今さら余裕《よゆう》ぶってんじゃねえよ！！」

「……ねえ、もうやめましょうよ、こんなこと。あたしたちがここで争っている間にも、ナオトや他のみんながあたしの『魔力タンク』に溜《た》まった魔力を取り除くために、一生懸命頑張ってくれているのよ？　だから、もうやめましょう。合体なんてしなくても、あたしはこの力を手に入れられたから、もう充分《じゅうぶん》だし、あんただって、これ以上戦っても、あたしに勝てるわけがないって分かってるんでしょ？」

闇ミノリは少し俯《うつむ》くと、ポツリとこう言った。

「……これは……一本取られたね……。まさか、こんなことになるなんて思ってもみなかったよ。けどまあ、さすがはモンスターチルドレンの女王に覚醒《めざ》める素質のある存在と言ったところかな。はぁ、こんなことなら最初からこの形態で戦うべきだったなー」

「そう。それじゃあ、この勝負は引き分けってことでいいかしら？」

闇ミノリは顔を上げると、静かにこう言った。

「うん、そうだね。これ以上続けても、あたしが負けるのは確定してるからね」

「そう。なら、あたしはもうそろそろ帰らせてもらうわよ」

「あっ！　ちょっと待って……！」

闇ミノリは、ミノリが彼女に背を向ける直前にそう言った。

「ん？　なあに？　やっぱり戦いたいの？」

「そ、そうじゃなくて。その……」

「その？」

「その形態に名前ってあるのかな？」