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巨大な亀型モンスターと合体しているアパートの二階にあるナオトの部屋の寝室……夕方……。
「……う……うーん……あれ? あたし、もしかして戻ってこられた……の?」
ミノリ(吸血鬼)は白くない天井を見ながら、小声でそう言った。(彼女は布団に横になっている)
すると、彼女の傍《かたわ》らで寝息を立てている少年がいた。
「……えーっと、これはいったい……」
その時、彼女の頭上から声が聞こえた。
「はぁ……とりあえず戻ってこられたみたいですね。アホ吸血鬼」
その直後、ミノリ(吸血鬼)はニシリと笑いながら、こう言った。
「ええ、なんとかね。それより、あんたがあたしの側《そば》にいるなんて珍しいじゃない。ねえ? 銀髪天使」
彼女の頭上付近に正座で座っているのは、コユリ(本物の天使)である。
「はぁ……それが『魔力タンク』が暴走しかけるまでマスターの血を飲むような愚《おろ》か者《もの》のセリフですか? もう一度、生死の境《さかい》を彷徨《さまよ》ってきたらどうですか?」
「ふん、あんなところにちょくちょく行くわけにはいかないわよ。それに、あたしはそこでまた一つ強くなったから、今のあたしなら、あんたと互角《ごかく》以上に戦えるかもしれないわよ?」
「それは冗談ですか? それとも、本気で言っているんですか? もし後者《こうしゃ》なら、今ここで完膚《かんぷ》なきまでに叩《たた》き潰《つぶ》しますが、どうしますか?」
「あー、怖い、怖い。やっぱりやめておくわ。今、ここで戦い始めたら、ナオトの寝顔を見られなくなるから」
「それには私も賛成です。まだ日が沈《しず》んでいないこの時間帯にマスターの寝顔を見られる機会《きかい》がこの先、あと何回あるか分かりませんから」
「そうね……。今はこのままナオトが起きるのを待ちましょう。ところで、あたしの『魔力タンク』の中に入っていた膨大《ぼうだい》な魔力をいったいどうやって外に出したの?」
ミノリ(吸血鬼)がそう言うと、コユリ(本物の天使)は少し頬を赤く染めながら、こう言った。
「そ、それはその……わ、私の『魔力タンク』の中に直接取り込み……ました……」
「え? それってもしかして、あたしの血を飲んだってこと?」
「そ、そうですよ。マスターにあなたの血を飲ませるわけにはいきませんし、『魔力タンク』の許容量が一番多いのは私ですから」
「ふーん、いつもアホ吸血鬼とか言ってるクセに、あたしがピンチになると助けてくれるなんて、あんた意外と可愛いところあるのね」
「な、何をバカなことを言っているのですか? 私はただ、ライバルがいなくなるのは寂《さび》しい……じゃなくて、私のサンドバッグ的な存在がいなくなるのは心許《こころもと》ないから、そうしたまでです。ですから、勘違いしないでください……」
「へえ、つまり、あんたは自分に必要な存在である、このあたしのために頑張ってくれたってことね?」
「少し語弊《ごへい》があるような気がしますが、まあ概《おおむ》ね合っています」
「そう……。でも、ありがとね。まさか、あんたに助けてもらうなんて思ってもみなかったけど」
「わ、私は鬼ではありませんから、そういう時もあるということです」
「ふーん、そうなの。まあ、そういうことにしておいてあげるわ」
「そ、それでですね……。その……私との約束を覚えていますか?」
「え? 約束? うーん、それってもしかして、あんたに服を作ってあげるってやつ?」
「は、はい、その通りです」
「あー、それね。まあ、今日はちょっと無理そうだから、明日にしてくれない? 今日はなんか精神的に疲れたから」
「わ、分かりました。約束ですよ?」
コユリ(本物の天使)がそう言うと、ミノリ(吸血鬼)はニヤリと笑いながら、こう言った。
「あら? 天使が吸血鬼と約束事をするなんて聞いたことないけど、本当にいいの?」
「も、問題ありません! 私は吸血鬼のあなたにではなく、私の服を作ってくださる一人の職人と約束しているのですから」
「へえ、そうなんだ。じゃあ、久しぶりに頑張らないといけないわね。本当は優しくて仲間思いな一人の女の子のために……」
「えっと……その……よ、よろしくお願いします」
「ええ、分かったわ。それじゃあ、明日はあんたの希望を元《もと》にさっそく作業に取り掛《か》かるから、そのつもりでいなさいよ?」
「は、はい、分かり……ました」
「よろしい。それじゃあ、あたしはもう一眠《ひとねむ》りするから、みんなに伝えておいてね……」
ミノリ(吸血鬼)は最後まで言い終わると同時に、寝息を立て始めた。
コユリ(本物の天使)は黒髪ツインテールが特徴的な吸血鬼の額《ひたい》に触《ふ》れると、静かにこう言った。
「……うん、分かった。ちゃんとみんなに伝えておくから、今はゆっくり休んでね……お姉ちゃん」
コユリ(本物の天使)が発《はっ》したその言葉を耳にしたナオトは飛び起きそうになったが、そうなるとややこしいことに発展してしまいそうだったため、もう少し眠《ねむ》っているふりをすることにした。