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まだ見ぬ子供達の住む世界を無事に決めることが出来た。
二人が一生懸命考えて出した答えだ。
俺に異論などあるはずが無い。
「じゃあ、私の子供は地球で、ミランちゃんの子供はソニーね」
「はい。すみません。セーナさんは第一王妃なのに、肩身の狭い思いをさせてしまいます」
「それはどっちを選んでも一緒だよ。それに純地球人よりも異世界ハーフの子の方がソニーでは生きやすいと思うしね」
問題は色々とあった。
その一つに耐性が挙げられる。
人間は長い進化の歴史の中で、その地に蔓延る病に打ち勝ってきた。
俺と聖奈はルナ様との繋がりで、恐らくだが何かしらに守られていて、ソニーの感染病などには罹っていない。
ルナ様に聞かなくとも、恐らくそういうチートも受け取っているのだろう。
その何も耐性を持たない親から生まれた子が、ソニーで無事に成長出来るのか。
地球とは違い、この世界は医療も発達していないのに。
以上のことから、聖奈の中では既に答えは決まっていたようだ。
もちろんミランの答え次第では、お互いを尊重したものに変えようと思っていたらしいが、ミランはミランで聞き分けが良すぎるからな。
聖奈の理に適った答えに、ミランは申し訳なさそうに頷いた。
「ミラン。子をなすのが王族の務めというのは、聖奈には当てはまらない。聖奈の務めが国を動かすモノだということは、皆わかっているさ」
「はい」
「一番大切なのは、離れて暮らしてもどちらの子も俺達の家族ということだ。そこさえ間違えなければ、後は小さなことだよ」
聖がまともなことを言っているわ……
そんなルナ様の呟きは無視した。
「よーしっ!バンバン子供産んで、じゃんじゃん育てようねっ!」
「…………」「はぃ……」「名付けは任せなさい」
聖奈の言葉に俺は呆れ、ミランは顔を赤くして俯き、俺達に名付けのセンスがないことを知っている神様は、力強く宣言した。
「とはいえ……あれから何も見つからないな」
ダンジョンの集落を後にした俺たちは、目的地を見失い、相談の結果、東へと進んでいた。
東を選んだ理由は至極当たり前のものだ。
東に船を向けた俺達はこの大陸の西海岸に着いたはずだから、大陸の反対側である東海岸へ向かうというもの。
この大陸に着いてから既に二ヶ月が経過するも、やはり何もなく、ただひたすら森の中を突き進んでいる。
「走りますか?」
「俺は構わないが…」
ミランが提案してくれるが、素直に頷くことはできない。
何故ならば、怠惰な女神様がパーティーメンバーに一人いるからだ。
聖奈も身体強化魔法を使いこなしているから、俺がルナ様を抱えて走れば、健康優良児のミランペースで走ることは出来る。
そこで問題が……
二人がルナ様に漸く慣れてきたんだ。
それに伴い、俺とルナ様がスキンシップをしていると視線が痛い……
必要不可欠なスキンシップがあった翌日には、必要ないのに二人からお姫様抱っこをせがまれるなんてこともあったし……
その他のことでは二人が気を使っているから、相変わらずルナ様は寂しそうにしている。
上手くいかないものだな……
そんな風に考えていると、聖奈から声が上がった。
「ねぇ!あれ見て!なんか禍々しいよっ!」
禍々しいものを喜んで伝えるとは、これ如何に……
それだけ退屈だったということか。
「あそこだけ黒い雲に覆われているな…」
「わかりやすいですね」
聖奈が指差す方角を見ると、遠くに大きな山が見え、その山頂付近は黒い雲に覆われていて、山頂そのモノは見えなかった。
ミランの言う通り、あれほどわかりやすく凶事を示しているものも、そうはあるまい。
「行くよねっ?!ねっ!?」
「行ってもいいが……」
俺はチラリとルナ様を様子見た。
「わかってるわよ。二人に危害が及ぶ前に助けるわ」
「流石ルナ様。それなら俺に異論はないぞ」
俺が言い淀んだのは、神の手助けがあるのかどうかの確認の為だ。
手助けが無ければ、始めに俺だけが向かい、安全を確認してから転移魔法で二人と一柱を迎えに行こうと思っていた。
しかしルナ様が守るといってくれたのなら、それはどこよりも安全を意味する。
バーランドの城の中よりも、ルナ様が守ってくれるのなら魔物達の寝床の方が安全になるからな。
「よし。面倒だから転移魔法で向かうぞ」
そうと決まれば安全など無視していい。
いきなり転移だ。
「何処に転移するつもりよ」
「あの雲の下に見えてる山の中腹だな」
「ふーん。ならいいわ」
?何かあるのだろうか?
よくわからんが、とりあえず行ってみればわかることか。
俺は慣れた詠唱を誦じて、その場から姿を消した。
「うわあっ!上の方、真っ暗だね!」
転移したのは山の中腹。
そこから見上げると、20m程上空には真っ黒な雲がかかっていた。
聖奈が言うように何も見えないが、どうするべきか。
「魔法で一部だけでも吹き飛ばしちゃう?」
「ですが、これが何かわかりませんよ?」
「ミランに賛成だな。もしこの雲が、何か悪い物を外部に漏らさない為の役割を果たしていたら困るからな」
雲の先どころか、雲の内部すらもここからでは窺えない。
危険極まりないが、なんとなく…なんとなくだが、既視感があった。
「じゃあどうするの?まさかこのまま突っ込むとか?」
ビビリな俺ならばその手段は選ばないだろうと、聖奈が煽ってくる。
他の方法としては、暗視ゴーグルなども持っているが、俺の予想が正しければそれは意味をなさないはず。
「ああ」
「えっ!?本気?」
「本気だ」
珍しく俺が危険な橋を渡ろうとしていたから驚いている。
一応言っておくが、俺はビビリじゃないぞっ!?
今までは、聖奈達に被害が出たら嫌だから慎重だっただけだっ!
今回は気にしなくてもいいから、自分の勘に素直に従えるのだっ!
「ふーん。何かわかったの?」
「まぁな」
「教えてはくれないんだぁ〜?」
ふふふっ。外れたら恥ずかしいから秘密にしているなどとは言えないぜ……
「いいよ。セイくんに任せるよ」
「はい!私も任せますっ!」
「よし。ここからは俺が先行するよ。足元に注意してついて来てくれ」
ルナ様はご自由に。
登り始めて5分程が経つと、黒い雲に手が届くところまで来れた。
雲だと思っていたそれは、何やら違うように見える。
「雲というより靄?」
物質である雲というよりも、何やら認識を阻害する意思を持ったものに見えた。
俺が止まれば隊列も止まる。
すぐ後ろに控える聖奈が、背中をせっついてきたので、意を決して、その靄の中へ入ることに。
「うおっ!?やっぱりかっ!」
「ちょっと!?見えないんだけどっ!?」
「すまん。今退く」
俺が立ち止まったことで再び後ろが詰まり、聖奈は壁となった俺のせいでその光景を見ることが出来なくなっていた。
「えっ…これって…」
「いきなりボスバトルですか?」
靄の先はなだらかな地形になっていた。
そこに鎮座するのは、今までに見たどんな魔物よりも大きな……
「ドラゴンか……」
デカい図体が小さく見えるほどの山頂。
それでもこのドラゴンからすると、狭いものかもしれないが。
靄の先に居たのはドラゴンだった。
そのドラゴンは気怠げに目を開けると、興味なさそうにこちらを向いた。
その目には覇気が感じられず、ただただこの現状を憂いているように見えた。