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まさかこんなタイミングで思い出すとは……いや、待て。
まだ完全に覚醒したような感じではない。それならばまだ、間に合うか……⁈
「リアム、君は僕だけを見ていればいい。他の誰もいらない……違うかい?」
キースの低く熱を帯びた声が響く。その言葉に、胸がぎゅっと締め付けられる。
愛情なのか、それとも執着なのか──俺にはもう、分からない。ただ、このままではキース自身が壊れてしまう。それだけは分かっていた。
「兄様……」
拘束する力を振り払おうと、俺は魔力を込めて身体を動かす。
なんとか、キースの元へ近づこうとするが──
「そうまでして……その男の元に行きたいのかい?」
静かなキースの声に、俺は一瞬動きを止めた。
はあ……?
胸の奥でムカムカとした怒りが湧き上がる。いや、待ってくれよ。俺が今、必死になって向かおうとしているのは他でもない、あんたの元だろうが!
「……僕は、兄様が好きです。兄様の元に向かっているでしょう?どうして、先輩の名前が出るんです?」
自分でも驚くほど強い口調で言い放ち、勢いに任せて足を進めキースの腕を掴む。
そして、力任せにキスをした。
……強引すぎて唇がぶつかっただけだったが。
キースは目を見開き、驚いた表情を浮かべる。そして数瞬後、肩の力が抜け、周囲に立ち込めていた闇の波動が静まった。
「リアム……」
深い声とともに、キースの腕が俺を抱きしめる。
その温もりに包まれながら、俺は思った。昔からずっと、俺はこの人が好きだったのだろう。よく分からなかっただけで。
「兄様、もう帰りましょう。それか、逃げましょう。父様と母様を連れて。ね?そのうち家族も増えて楽しくなりますよ」
俺がそう言うと、キースは一瞬驚いた表情を見せる。
「……家族?」
「ええ、まあ、兄様と僕の子ども的な……」
自分で言って顔が熱くなる。それでも、俺はキースを倖せにしたい。
……俺が産む方だろうけど、もういいよ。産んでやるよころころとな!そんで倖せになればいいじゃん。そのために国外逃亡でも何でもやってやろうじゃねーか!こ生きてればどうにかなるし、そのうちノエルはナイジェル連れてきてくれるだろ。アンは実家に帰れば結婚もできるだろうし。もうそれでいいと思う。俺!
……なんて俺が一人で倖せ完結を繰り広げキースが俺の話に微笑んだ時──、突然キースの横を風が切った。
「リアム、離れるんだ……ッ!」
振り返ると、そこにはレジナルドが立っていた。その顔には焦燥と怒りが滲んでいる。
「……邪魔な……」
キースの口から、冷たい声が漏れる。闇の力が再び渦巻き、瞳は黒い光に覆われていた。
耳の端からは血が流れている。それはレジナルドが放った風魔法だった。
「……ちょ……⁈」
「……レジナルド……」
ぼそりと落されたその声は、キースのものというよりも、深い井戸の底から響いてくるようだった。先ほどまでおさまっていた闇の力がまた流れだし、キースの目は完全に黒い光を帯びている。俺の背筋に嫌な汗が流れる。
な、何してくれとんじゃああああああああああああ⁈
え、俺が‼せっかく!落ち着けたのに⁈俺を心配してなんだろうけどさ!ちょっともうさ!どうして⁈
睨み合うキースとレジナルドに増幅していく闇の力。このままでは本当に……闇へと──周囲のすべても巻き込んでしまう。
「ノエル……」
自然とその名前が口をついて出た。そうだ‼本来ここにいるのはノエルで、ノエルの力は闇の力と──魔王と互角に渡り合える。ノエルなら、何とかできるかもしれない。あの力は、俺たちが想像している以上に特別なものなのだから。でもどう呼べばいい……ああ!もう!せめてノエルに連絡をしておくべきだった……どうしてそこに気を回せなかったのか。俺はどうにかキースを止めようと、その腰に手を回す──が、そう簡単に落ち着くものではない。どころか、
「リアムは、自由なんだ……キース!お前の自由にしていいわけではない……!」
レジナルドが更に叫んだ。
煽るのか!そこで煽るのか‼
レジナルドの声に比例するようにキースの力が増していき、回りにはまた黒い霧が立ち込めだした。
キースは煽り耐性をつけてほしい……。
キースが片手をあげると、ゆらりと黒い炎が立ちあがる。禍々しい瘴気を放っており、生理的な寒気がぞわりと俺の身体をかけぬけた。まずいまずいまずい!
「先輩、もう黙って……‼」
「君こそ、離れてこちらに……!騙されている……!」
俺たちのやり取りがキースの苛立ちを更に掻き立てたのか、俺を抱く片手に異様なほど力がこもる。苦しさが身を包み、途端に息が浅くなった。ああ、もう駄目かも……これ……。俺が絶望しかけたその時──、
「リアム!お待たせーー‼」
聖なる光とともに、待ち望んでいた声が響き渡った。
神様……ありがとう……。