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タグ元(企画)のノベルが消されてしまっていますが このまま残すことにします🙇♀️
作品とっても素晴らしかったです! 書いてくれてありがとうございます
こういう設定マジですき
※微鬱
【おはよう”白栖”。今日も素敵な夢を過ごそう。ハブ・ア・ナイスドリーム。】
そんな台詞を繰り返しながら跳ね回る(大袈裟な表現じゃなくてほんとに跳ね回ってる)目覚まし時計のベルを止める。
「おはよう」
今日も目が覚めた。夢で。
僕は甘い匂いで満たされた箱部屋の中、ふわふわと空中浮遊をする。
一緒に浮いている鏡を覗くと、綺麗に飾り立てられた1人の少年が映った。瞬きをした彼の目は、ふるふると輝く。
「…やっぱり、きれい」
こっちの世界では、僕は”魔法少年”またの名を”白栖”として生きている。底辺だから小さいのしか倒せないけどね。
⌜ぅぅ…あたし、起きられなかったよ…⌟
夢の世界の住人のくせにそう嘆くのは使い魔(?)の”らめね”。こんなどろどろのスライムだけど、こいつも一応現実では人として生きている。
「大丈夫でしょ」
⌜そんな事言わないでよ。あたしもヒトなのよ!⌟
そう頬(たぶんね)をふくらすらめねは、一度も正体を匂わせたことがない。明るく振る舞っているように見えるが、おそらく現実で悩みを抱えている。僕と同じで。
この夢の住人は個性の強いひとばかりだが、共通点がいくつか存在する。
本性を明かしたがらないこと(ただ口をよく滑らせるので匂わせがある)。
無駄に自意識過剰なやつが多いこと。
そして、何らかの悩みを抱えていること。
…おそらくこの世界は、精神的にやばい人たちの集い場なのだろう。
神からの貢物か、はたまた悪魔のいたずらか…いつも1分はこのことを考える。
⌜あらっ?なんか街にいるみたい…⌟
「攻撃対象?」
⌜うーん、そうみたい…困っちゃうわ⌟
「行くか」
「ゥ”…」
「はぁ…」
片手でくるくると可愛らしい銃を回しながらそれを凝視する。
お世辞にもかわいいとは言えないくらい醜い何かは、指をくわえてこちらを見つめている。
「ぁ゛…ゥウ”ア。ォマエ…イイ…ゥ”…ホシイ」
「…はいはい、もういい?いいでしょ?…殺るね」
深呼吸。照準を合わせて、エネルギーを溜める。
よーく狙って…
「…ぱん」
ぱしゅん、とシューティングゲームのような音がして、怪物に小さな穴が空いた。それを追いかけるように、紫色の体液が噴き出る。それはすぐに消滅して、わたあめがドロップした。
⌜わたあめね⌟
「うん、相変わらずだけど雑魚いね」
⌜あなたも雑魚いのよ⌟
『あれ〜?白栖じゃん』
そんな会話をしていると、黒髪の人がやってきた。アイスのように体が溶けているのが特徴的な”レト”だ。こいつも夢の中の住民である。
「レト…」
『あはは〜、久しぶりに寝たよ〜!』
「ハグしないで。べたべた付くから。」
『ひどーい』
レトはそう言って抱きつく。だからやめろって言ってるのに。こいつは耳でも聞こえないのか。
『ねー。家行っていい?』
「いや。お前バイだからいつ狙われるか分かんないの」
『やだ。行くもん』
こいつは友達でもあり、唯一悩みの正体を知っているやつでもある。
こいつとはお互いに共有しあっているのだ。 色々と。
『…まあ、もう狩ってるからね』
「そうだけど…」
⌜ちょっと、私忘れてない??変な話進めないでくれる!?⌟
『あ、ごめんねらめねちゃん。でも家にはお邪魔することになったから』
「してねえよ」
ナイスだ、らめね。あのまま行ったら僕がお持ち帰りされちゃうところだった。
「…じゃあ、僕帰る」
『だめー』
「やだ。さよなら」
⌜あんなラブラブで羨ましいわね⌟
「そう見える?」
⌜狩られたってどういうことよ⌟
「ないしょ」
【白栖、時間は大丈夫?】
「え、もう?」
【もうそろそろ6時よ】
「あー、じゃあそろそろ起きるよ」
【頑張ってね。ハブ・ア・ナイスデイ】
「うん。」
─今度は、本当に目覚まし時計のベルの音。
煩くて寝起きの耳には到底似合わないそれを止め、重い体を動かす。
「…ぁ」
手首に、無数の傷が存在しているのを見つけた。もう片方の手には、血塗れのカッターが握られている。
「…やってたんだ…そうだそうだ…」
傷を見つめながら、複雑な気持ちになる。
…学校に、行きたくない。この歳になって、初めて拒否反応が出た。
裏切られて。
濡れ衣を着せられて。
周りの目が怖くなった。
声を聞くのが怖くなった。
「…逃げたい…」
涙が溢れる。惨めでしかない自分を、ただ嘲笑うしかなかった。
…ああ、逃げ場ならあるじゃないか。
(…そうだ…寝ればいいのか…)
あっちなら。
あそこなら…みんな助けてくれる。
らめねも。レトも。目覚まし時計くんも。
自分を見てくれる。認めてくれる。
そうだよ。いっその事永遠に眠ってしまえば。
そういえば、あっちの世界に依存してこっちに戻れない人とかいたっけなあ…
…でも、死んだら会えないなぁ。
もう考えることすらめんどくさい。もう瞼が重い。
─さようなら。
【おはよう白栖。今日も素敵な夢を過ごそう。ハブ・ア・ナイスドリーム。】
“endless” end??
あとがき
応募作品です