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牛革で作った靴の底がすり減って穴が空いても、踵の部分だけを新しいものに付け替えれば、まだ使えると言えるのではないか……? つまり、人間の精神について言えることはないかということだよ。
人間の精神は身体と同じように変化していくものであり、もしそれが壊れてしまった場合、修理することはできないのか……? この問いに対する答えこそが、 我々が『夢』と呼ぶものの正体ではないだろうか。
そして、それはまた同時に、 我々の心に巣食う病の正体でもあるのだ。
「人は死すべき定めにあり……」
――ニーチェ
「いいえ、それは違いますね。私はこう考えていますよ。『テセウスの船は、確かにあの時代のアテナイの技術では建造不可能なものですが、だからといってそれがそのまま永遠に存在し続けられるものではありません』ってね!」
「ほう! するとあなたは、我々がみなさんのために提供しようとしているものが、実は永遠のものではないということですか?」
「そういうことですよ。しかし、それはあなたにとっては、さほど重要ではない」
「なぜ?」
「つまりですね……我々には、我々の世界が存在するのです。たとえどれほど時間が経とうとも、です。そして、我々は自分の人生において何を為すかを選ぶことができますし、またそうすることができるでしょう。しかしながら、あなたのお父上は違いました」
「ああ」彼は言った。「父は僕とは違っていたね」
「ええ、確かにそうだった。だからこそ、あなたは私に『あの男』について話してくれましたね」
『あの人』とは誰のことだろうと思いながらも、私は静かにうなずいた。
「……はい」
すると、『彼』は微笑んで続けた。
「しかし、あれは本当にあなたではないんですか?」
私は首を振った。
「いいえ、違いますよ。私は『彼』ではありませんし、そもそも『彼』は存在しません。私が勝手に想像して作り上げた架空の人物です」
「なるほど。では、あなたの中に存在する『彼』というのはどんな姿をしていますか?」
「そうですね。背が高くて痩せていて、髪の毛は黒くて短くて、顔はまあまあハンサムで……」
「はい?」
「いえ、なんでもありません! えっと、ちょっと待ってくださいね!」
慌ててメモ帳を開き、言われた特徴を書き込んでいく。その間も、横目では彼のことをずっと観察し続けた。
(うーん……確かに、他のお客さんに比べると落ち着いている感じかも)
それに、身だしなみにもそれなりに気を使っているように見える。決して清潔感があるわけではないけれど、それでも最低限の身嗜みくらいは整えているように思えるのだ。
(……やっぱり、おかしい)
しかし、いくらなんでも限度というものはある。「あの、先生」
「ん?」
「今日はその……なんといいますか、ちょっと臭うんですけど」
だから思い切って尋ねてみると、彼はぎょっと目を見開いて僕を見た。
「臭い!?」
そして慌てて自分の腕の匂いを嗅いでみるものの、首を傾げてしまう。
「いや、俺自身は特に気にならねえんだけどなあ……」
どうやら彼自身は自分の体臭についてはあまり自覚がなかったらしい。僕は彼の言葉を信じることなく、念のために自分の鼻を摘んでみたのだが――残念なことに、僕の嗅覚はこの部屋の空気よりもずっと鋭敏だったらしく、はっきりと悪臭を感じ取ることができた。
「これって、お風呂とか入ってませんよね?」