テラーノベル
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それからも、簡単には戻らなかった。
クラスメイトが謝っても、緑谷は反射的に身を引く。
誰かが近づく。
それだけで肩が震える。
「……あ、ご、ごめん」
謝る必要なんてない場面でも、口癖みたいに謝った。
夜はもっと酷かった。
寮の廊下を歩くだけで、前に聞こえた悪口を思い出す。
笑い声。
通知音。
机を叩く音。
全部が怖い。
眠っても途中で飛び起きる。
“また何かされる”
そんな感覚が消えなかった。
──ある日。
戦闘訓練中。
「緑谷くん!!」
耳郎の声が響く。
敵役の攻撃が来ていた。
本来の緑谷なら避けられた。
でも、
「っ……!」
身体が固まった。
頭の中で別の声が蘇る。
『最低』
『消えろ』
『お前が悪い』
次の瞬間、
爆発音。
緑谷の身体が壁に叩きつけられた。
「デク!!」
爆豪が駆け寄る。
緑谷は息をしていたが、焦点が合っていない。
震えていた。
敵じゃない。
“人”を怖がっていた。
保健室。
相澤先生は静かに言った。
「……PTSDに近い症状が出てる」
部屋が静まる。
麗日は顔を青くした。
「そんな……」
「心が限界を超えたんだ」
相澤の声は重かった。
「傷は治っても、“恐怖”は簡単に消えない」
爆豪は壁を殴った。
鈍い音が響く。
「クソが……!」
怒りの矛先はモブ子だけじゃない。
気づかなかった自分たちにも向いていた。
緑谷はその後、授業を休む日が増えた。
食事も減った。
ノートを書こうとしても、手が止まる。
大好きだったヒーロー分析も、もうできない。
“好き”だったもの全部に、
あの時間がこびりついてしまった。
──深夜。
緑谷は寮の共有スペースにいた。
真っ暗な窓に、自分の顔が映る。
ひどい顔だった。
痩せて、目の下は黒くて、生気がない。
「……もう」
消えそうな声。
「疲れたな……」
その瞬間。
後ろから、ガタン!!と大きな音がした。
振り返ると、牛乳パックを落とした爆豪が立っていた。
いつもなら怒鳴るはずなのに、
今の爆豪は青ざめていた。
さっきの言葉を聞いてしまったから。
「……おい」
緑谷はしまった、という顔をする。
「ち、違っ……」
「違わねぇだろ」
爆豪の声が震える。
「お前最近、ずっと消えそうな顔してんだよ」
緑谷は俯いた。
「……ごめん」
また謝る。
爆豪はその瞬間、本気で苦しそうな顔をした。
「なんでお前が謝んだよ……」
絞り出した声。
「悪ぃのは、お前をそこまで追い詰めた奴らだろうが……!」
緑谷の目から、また涙が落ちた。
でも今回は静かな涙だった。
もう泣く力すら残っていないみたいに。
爆豪は何も言えなくなる。
目の前にいるのは、
どれだけ傷ついても立ち上がってきた“デク”じゃない。
助けを求める気力すら削られた、一人の少年だった。
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コムム