テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
357
モブD
224
#恋愛
ばたっちゅ
3,479
#微糖
第十話 『入学式』
十三歳の春。
王立魔法学園は、例年よりも少しだけ騒がしかった。
理由は単純だ。
今年の入学者は“当たり年”だったからだ。
特に――二人。
リュシアン・アルヴェイン。
アルフレッド・ルクレール。
そして、もう一人。
聖魔法の発現者、エリス・ヴァレンティア。
◇◇◇
入学式当日。
大講堂には新入生と貴族たちが並び、ざわめきが満ちていた。
壇上に立つ教師が告げる。
「今年度、首席入学者を発表する」
一瞬で静まり返る。
「リュシアン・アルヴェイン」
拍手。
しかしそれは“当然”の空気だった。
誰も驚かない。
王国最年少の魔力制御完成者。
幼い頃から名が知れた天才。
(……やっぱり、そうなる)
リュシアンは表情を変えない。
拍手の中で、ただ一つだけ考えていた。
(予定通り)
だが。
「次席」
その言葉で、空気が少し変わる。
「アルフレッド・ルクレール」
一瞬の沈黙。
そして、どよめき。
「王子が次席?」
「首席じゃないのか?」
「いや、でも納得もできる……」
アルフレッドは一瞬だけ驚いた顔をして、それからすぐに笑った。
「やった!」
素直な声。
周囲の空気が少し和らぐ。
(ああ、こういうところだ)
リュシアンは思う。
(この子は、空気を変える)
◇◇◇
式は続く。
そして次の発表。
「新入生代表挨拶」
当然のように、アルフレッドの名前が呼ばれた。
「アルフレッド・ルクレール」
「はい!」
堂々とした返事。
壇上へ向かう背中は、すでに“王子”だった。
リュシアンはそれを見上げる。
(次席で代表)
(この学園、そういう仕組みか)
少しだけ納得する。
そしてもう一つの発表が続く。
「なお、首席入学者リュシアン・アルヴェインには」
一瞬、ざわめきが起きる。
「特例として、“魔法学特別講師補佐”の任命を行う」
講堂がざわついた。
「は?」
「生徒なのに?」
「講師補佐?」
リュシアン本人も、一瞬だけ目を瞬かせる。
(……何それ)
続く説明。
「理由は、入学試験において」
「史上初の“全科目満点”を記録したため」
静寂。
一拍。
二拍。
そして――爆発的なざわめき。
「全科目満点!?」
「魔力量試験も? 実技も? 理論も?」
「そんなの過去に一人もいないだろ!」
リュシアンは淡々と考える。
(全部、最適化しただけだけど)
(そんなに珍しいのか)
教師が続ける。
「よって、特別措置として」
「一年間、魔法学基礎の補助指導を担当することとする」
ざわめきは止まらない。
その中で、アルフレッドが振り向いた。
「すごいじゃん!」
満面の笑み。
「先生になるの!?」
「違う」
即答。
アルフレッドは笑う。
「でもいいね!」
「リュシアン、教えるの上手そう!」
(……上手いかどうかじゃない)
(やるしかないからやるだけ)
その言葉は飲み込む。
◇◇◇
式が進み、アルフレッドの挨拶が始まる。
「皆さん!」
明るい声。
講堂に響く。
「僕たちはこれから学びます!」
「魔法も、剣も、神聖術も!」
視線が自然と集まる。
「でも一番大事なのは!」
少しだけ間を置く。
「一緒に頑張る仲間だと思います!」
ざわめきが、少しだけ柔らかくなる。
(やっぱり)
(この子はこういう役割だ)
リュシアンは静かに思う。
アルフレッドは続ける。
「だから!」
「楽しくいこう!」
拍手。
笑い。
空気が完全に変わる。
リュシアンはその中心を見ながら、ふと思う。
(この人は、光だ)
◇◇◇
式後。
廊下。
「いやー緊張した!」
アルフレッドが笑う。
「でも楽しかった!」
「……そう」
リュシアンは淡々と返す。
「でさ!」
「先生になるんだよね?」
「補佐」
「同じだよ!」
違う。
そう思うが言わない。
その時。
「リュシアン」
声。
セシルだった。
書類を手にしている。
「講師補佐任命、確認しました」
「あなたの魔法理論は、学園にとって重要です」
「……そう」
淡々とした返事。
セシルは少しだけ間を置いて言う。
「生徒でありながら、教師側に立つのですね」
「……たまたま」
「偶然ではありません」
即答。
リュシアンは視線を逸らす。
(この人は本当に面倒だ)
◇◇◇
その少し後ろ。
レオンハルトが立っていた。
「……お前」
「先生になるのか」
「補佐」
「同じだ」
またそれ。
リュシアンは軽く息を吐く。
「別に変わらない」
「変わる」
短い言葉。
レオンハルトはそれ以上言わない。
ただ静かに続ける。
「忙しくなるな」
「無理はするな」
それだけ。
◇◇◇
その夜。
ノエルは掲示板を見ていた。
「首席:リュシアン・アルヴェイン」
「次席:アルフレッド・ルクレール」
その下に小さく書かれた一文。
「魔法学特別講師補佐」
ノエルは少しだけ目を細める。
「……先生側?」
そして、ぽつりと呟く。
「面白い」
「観測位置が変わる」
紙に書き込む。
「リュシアン・アルヴェイン:立場変化」
「観測対象から、観測者側へ」
少しだけペンを止める。
「……これは、ずれる」
夜の学園。
入学式の日。
物語は、静かに一段階進んだ。
第十話 『入学式』 終
コメント
1件
第十三話、入学式のエピソードめっちゃよかった…!リュシアンが首席&講師補佐のところ、アルフレッドが「やった!」って王子なのに素直に喜ぶ感じもすごくキャラ立ってて好き。全科目満点でざわつく会場とか、セシルやレオンの一言の重みも刺さる。あとノエルの観測者視点がまた「ずれる」って…続き気になる😭