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めーし
1,490
瑞希 流星♟也中
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部屋を満たしていた穏やかな静寂の中、間接照明のオレンジ色の光が、畳の上で重なり合う二人の影をゆっくりと揺らしていた。
窓の外では、夜の深まりとともに冷たさを増した秋の風が、庭の木立をかすかに揺すぶっている。外の冷気とは対照的に、この狭い空間は、二人が紡ぎ出す体温と甘いお酒の残り香に包まれ、心地よい熱を帯びたまま停滞していた。
王耀の腕の中で、天乃時雨は完全に意識を手放している。先ほどまでの恥じらいや、お酒の勢いに任せて放った大胆な告白、そして不器用で真っ直ぐだったキスの余韻は、すべて夜の帳の向こう側へと溶けていき、規則正しい寝息だけが部屋のなかに小さく響いていた。スースーと漏れるその呼吸に合わせるように、彼女の小さな胸元や華奢な肩がかすかに上下している。
(……本当に、まったく手のかかる恋人アルな)
王耀は胸のなかで苦笑を零しながらも、その細い体を抱き締める腕を緩めようとはしなかった。
むしろ、これほどまでに無防備に、自らのすべてを委ねてくれる温もりを、少しでも長く、この手の中に留めておきたいとすら感じる。幾千年の歴史の荒波を渡り歩き、無数の出会いと別れ、栄枯盛衰を見届けてきた彼にとって、「永遠」という言葉はどこか冷たく、色あせた概念にすぎなかった。次々と移り変わり、消えゆく人間たちの感情を眺めることは、時に耐え難いほどの孤独を伴うものだったからだ。
だからこそ、今こうして目の前で、自分の胸に顔を埋めて眠るこの小さな存在の重みが、何よりも尊く、生の実感となって彼の心を満たしていく。
時雨の体温が、シャツの布地を通してじんわりと伝わってくる。その確かな熱は、冷え切った夜の空気を完全に忘れさせ、「今、自分は確かにこの世界にこの温度で生きている」という真実を教えてくれた。
王耀は、開いていたもう片方の手で、彼女の背中を優しく、リズミカルに撫で下ろす。
サラサラとした腰までの銀髪が指の間を絹糸のように滑り落ち、かすかに香る甘いシャンプーの香りと芳醇なお酒の匂いが混ざり合って、彼の鼻腔をくすぐった。その感触を慈しむように味わいながら、彼はふと、これまでの長い日々を振り返る。
出会った頃の時雨は、今以上に怯えた小動物のようだった。少し声をかけただけで「ひゃっ」と肩を震わせ、顔を真っ赤にして俯き、王耀の背中に隠れるようにして怯えていた。歴史や国を背負う彼にとって、人間などほんの一瞬の瞬きのような存在であり、時雨のことも最初は「守るべきか弱い人間の一人」として見ていたはずだった。
いつの間にかその存在は「妹」のような庇護の対象になり、そして――気づけば、彼の胸を激しく揺さぶる「恋人」へと変わっていた。
(お兄ちゃん、ね……)
王耀は自嘲するように、しかしどこか愛おしさを隠しきれない笑みを浮かべる。
長年、周囲から向けられ、あるいは自分自身でも纏ってきた「お兄ちゃん」という呼び名。それは家族としての温かさを含んではいたが、同時に男としての存在を遠ざける壁でもあった。だが今夜、時雨は潤んだ青い瞳でまっすぐに彼を見据え、その壁を自らの手で壊してみせたのだ。
「お兄ちゃんじゃなくて、恋人として見てほしい」
あの震える声で紡がれた切実な願いは、何千年も生きる彼の胸の奥深くに、新しい楔(くさび)のようにしっかりと打ち込まれていた。
「……これからは、少し覚悟しておかないとダメアルな」
低い呟きが、静かな室内に溶けていく。
明日になれば、時雨はきっと昨夜の自分の行動を思い出して、布団の中で頭を抱え、「あわわ、どうしよう……」と赤面しながらパニックを起こすに違いない。恥ずかしさのあまり、しばらくは王耀の目すら合わせられなくなり、声をかけられても逃げ回る姿が目に浮かぶようだ。その慌てふためく不器用な姿さえも、彼にとっては愛おしくて仕方のない宝物だった。
(まあ、それも悪くないアルよ)
王耀は優しく目を細め、眠る時雨の額にそっと自分の唇を重ねる。
ひんやりとした額の感触のあとすぐに、彼女の体温がふわりと返ってくる。時雨は微かに身じろぎしたが、目を覚ますことはなく、心地よさそうに王耀の胸元へとさらに体を預けてきた。その無防備な信頼に胸を打たれながら、王耀は彼女の体をしっかりと支え直す。
夜はさらに深く、静かに更けていく。
外の風の音が遠ざかり、部屋の中には二人の重なる呼吸音と、穏やかな鼓動の音だけが残された。季節が巡り、世界がどれほど変わろうとも、この狭い部屋の、この温かい腕の中だけは、今この瞬間、永遠の静寂と確かな幸福に満ちあふれていた。王耀は愛しい重みを抱きしめたまま、ゆっくりと目を閉じ、静かな眠りの世界へと身を委ねていった。
コメント
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美月ゆめかだよ〜🌸 第5話読み終えた……! もうね、最初から最後までずっとエモエモで胸がギュッてなった😭💕 王耀が時雨を抱きしめながら「永遠より今のこの温度が尊い」って感じるシーン、めっちゃ刺さった……。幾千年生きてる彼が、たったひとりの人間の体温で「生きてる」って実感するの、尊すぎるでしょ…! それと、明日恥ずかしがる時雨を想像して微笑む王耀の優しさ、たまらんかった〜✨ お互いをちゃんと大事に想い合ってるのが伝わってきて、もうずっとこのふたりを見ていたい……! 素敵なお話をありがとうございます、天乃さん! 続きも楽しみにしてるよ〜⋆♡