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星乃宮学園の冬。
校庭には白い雪が積もり始めていた。
卒業まで、あと少し。
廊下を歩く生徒たちの色は、いつもより強く見える。
期待。
不安。
寂しさ。
未来への気持ち。
たくさんの色が混ざり合っている。
昔の私なら。
この景色を見るだけで、苦しくなっていたと思う。
でも今は。
「紬」
隣から声がする。
振り向く。
天音が笑っている。
その色を見る。
桜色。
いつもと変わらない。
私が一番安心する色。
「どうしたの?」
「……ううん」
私は首を振る。
「天音がいるなって思っただけ」
天音は少し驚いた顔をして。
それから優しく笑った。
「それだけで嬉しいよ♡」
⸻
その日の放課後。
私は先生に呼ばれていた。
「紬さん」
「あなたの能力について、卒業前に確認しておきたいことがあります」
先生は一冊の資料を開く。
「あなたには二つの選択肢があります」
「一つは」
「能力を抑える訓練を受けること」
「もう一つは」
「能力と共に生きる方法を学ぶこと」
私は黙って資料を見る。
能力を抑える。
そうすれば。
人の感情に振り回されなくなるかもしれない。
知らなくていい気持ちを知らなくて済むかもしれない。
昔の私なら。
迷わず選んでいた。
普通になりたい。
そう思っていたから。
でも。
今は。
頭に浮かぶ。
天音の桜色。
初めて見た、安心する色。
「……少し考えます」
先生は頷いた。
「大切な選択ですから」
⸻
夜。
寮の部屋。
私はベッドに座っていた。
天音はすぐに気づいた。
#エッチなの書けないから
94
#地雷系
「何かあった?」
「……」
やっぱり。
天音には隠せない。
「先生と話した」
「能力のこと」
天音は静かに聞いてくれる。
「能力を抑えることもできるって」
「……そっか」
「私」
言葉が詰まる。
「怖いんだ」
「この力がなくなったら」
「天音の色も見えなくなるかもしれない」
天音の表情が少し変わる。
でも。
すぐに優しく笑った。
「紬」
「私はね」
「どっちを選んでも、紬の味方だよ」
「……」
「能力があるから好きなんじゃない」
「能力がなくなったとしても、紬は紬だから」
胸が熱くなる。
「でも」
天音は少しだけ照れたように笑う。
「私の色を見つけてくれた紬が、嬉しそうにしてるところを見るのも好きだけどね♡」
⸻
翌日。
私は一人で中庭にいた。
冬の空。
冷たい風。
でも、不思議と怖くなかった。
考える。
私にとって、この力は何だったのか。
人の気持ちが見えること。
それは、確かに苦しいこともあった。
誰かの悲しみを見ること。
誰かの怒りを見ること。
逃げたくなる日もあった。
でも。
この力があったから。
私は天音の優しさを知った。
誰よりも温かい色を見つけた。
「……天音」
名前を呼ぶ。
すると。
「呼んだ?」
後ろから声がした。
振り向く。
天音。
「どうして分かったの?」
「紬のことだから♡」
「なんとなく」
「……」
少し笑う。
昔なら。
こんなふうに笑えなかった。
⸻
「天音」
「うん」
「私、決めた」
天音が少しだけ緊張する。
「この力と一緒に生きる」
「……」
「もう、怖がらない」
「だって」
天音を見る。
「この力があったから」
「天音に会えたから」
天音の桜色が、大きく輝く。
「紬……」
「それに」
私は続ける。
「見える色があるから分かることもある」
「天音が嬉しい時」
「寂しい時」
「頑張ってる時」
「私は、それをちゃんと見つけたい」
天音は目を細める。
「……紬」
「?」
「…強くなったね!♡」
⸻
卒業式の日。
星乃宮学園の校門前。
たくさんの生徒が笑っている。
色が溢れている。
でも。
私はもう逃げない。
隣に天音がいるから。
「紬」
「ん?」
「これからも」
「隣にいてくれる?」
昔の私なら。
そんな約束をする勇気はなかった。
でも。
今は。
「うん」
迷わず答えられる。
「ずっと」
「天音の隣にいたい」
天音は嬉しそうに笑う。
「私も」
「紬の隣にいたい♡」
⸻
夕方。
二人で屋上へ向かった。
初めて見る景色。
学校を包む夕焼け。
世界中がオレンジ色に染まっている。
私は天音を見る。
たくさんの色が見える。
でも。
その中で。
一番大切な色は変わらない。
「天音」
「うん」
「私ね」
「昔は、人の気持ちが分かることが嫌だった」
「でも今は」
「少しだけ好きになれた」
天音が笑う。
「どうして?」
私は答える。
「天音の色を見つけられるから」
少し沈黙。
そして。
天音が優しく笑う。
「紬」
「なぁに?」
「最後くらい」
「私からでもいい?」
顔が熱くなる。
でも。
もう逃げない。
小さく頷く。
「……うん」
天音がそっと近づく。
優しいキス。
この前のキスよりも。
もっと温かい。
これは。
好きという気持ちを伝えるだけじゃない。
これからも一緒に歩いていくという約束。
離れたあと。
私は小さな声で言う。
「……天音」
「ん?」
「やっぱり」
「天音の色が、一番好き」
天音は笑う。
「私も」
「紬の全部が大好きだよ♡」
私は天音の手を握る。
もう、人の色でいっぱいの世界は怖くない。
世界には。
数えきれないほどの色がある。
嬉しい色。
悲しい色。
寂しい色。
幸せな色。
その全部を見ながら。
私はこれからも歩いていく。
でも。
どれだけたくさんの色に出会っても。
私が一番大切にしたい色は――
ずっと。
天音だけの色。
___________________
あとがき
最後まで「君の色だけ、特別。」を読んでくださって、本当にありがとうございました!
紬と天音の物語、楽しんでいただけましたか?
最初は人の気持ちが見えてしまうことが怖くて、なかなか自分の気持ちを伝えられなかった紬。
そんな紬の隣にずっといてくれた、太陽みたいに明るい天音。
二人が少しずつ距離を縮めて、お互いの大切な存在になっていく姿を書いていて、とても楽しかったです。
実はこの二人、まだまだ書きたい日常がたくさんあります!
例えば……
・天音は紬が「好き」と言うたびに、何回聞いても嬉しくなってしまう♡
・紬は天音に褒められると、能力で人の気持ちを見るより先に顔が赤くなる。
・天音は実は紬の寝顔を見るのが大好き。でも起こすのがもったいなくて、いつも少しだけ我慢している。
・紬は天音のためなら、苦手な人混みでも頑張れる。
・二人の部屋には、文化祭で使った小さな飾りが今でも大切に残っている。
……などなど。
たぶん二人は、これからも毎日こんな感じで。
天音が紬を甘やかして。
紬が少し照れながら天音を大切にして。
お互いに「大好き」を増やしていくんだと思います。
この物語を読んでくださった皆さんにも、いつか「この人の隣が安心する」と思えるような、特別な色が見つかりますように。
コメント
1件
完結おめでとうございます!😭💕 天音の「能力があるから好きなんじゃない」って言葉が本当に刺さりました。色が見えなくなっても一緒にいるって決めた紬の強さ、めっちゃカッコよかった…! 卒業式のキスの温かさ、読んでるこっちが照れました笑。二人のこれからがずっと続きますように。大好きな作品に出会えて嬉しいです、ありがとうございました!