テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
間に合った………!!私の推しカプの片割れ、不器用な堅物くんの記念すべき日です。
今日は🇨🇭くんのお誕生日!そして「81」は我らが祖国の国番号!何だよこの奇跡……生きててよかった。
夜の山は、音がしない。
都市の喧騒とは無縁のこの場所には、いつもと変わらず木々のざわめきがただ反響するだけだ。
金色の包装を剥ぎ、チョコレートを口に放る。
あらかじめ買っておいた、自分へのささやかな褒美。
鼻腔を吹き抜けるカカオらしい酸味と人工的な少しの甘さ。
舌の上に広がる好物も、なぜだかひどく陳腐に感じる。
ころりと口の中でチョコを転がして、戸棚からマグを取り出す。
ひとりぶんの湯を沸かし、ひとりぶんのインスタントコーヒーを注ぐ。
いつもと同じ、誰にも干渉されない、完璧なひとりの空間。
それなのに、キッチンに並んだ「ひとりぶん」がやけに暗い影を落としている。
そこまでで思考を止めた。
「………。」
ひとりが寂しい?
そんなわけがない。
静寂が嫌い?
そんなわけがない。
では、なぜ。なぜこんなにも、胸が空く?
ふと浮かぶ、ふにゃりとした笑顔。
鼻先をくすぐる、森のような香り。
スイスさん、と呼ぶ鈴のような声。
これだ。病巣は特定できた。
ひとりが寂しいのではない。静寂が嫌いなのではない。
彼の不在が寂しくて、嫌いなのだ。
ほとんど衝動的にスマホを取り出して、液晶に「+81」と打ち込んだ。
その先を打つ手が止まる。
「………クソ………。」
自分からかけるような柄じゃない。
時差のことを考えろ。
あいつはきっと仕事中だ。
そんな甘言を自身がささやく。
もう何度目になるかわからない葛藤に呆れつつ、また悪魔に膝を突き掛けている自分に反吐が出る。
ただの照れ隠し。不慣れなことで弱みを見せたくない。
ただ、そんな無駄なプライドに縛られているだけだ。
ただ、声が聞きたいだけのに。
誕生日だぞ!と天使が喝を入れる。
「………よし。」
握りしめた拳で、通話ボタンを押そうとしたその時。
__ブブッ。
スマホが唸り声を上げた。
振動と共に、急激に灯る画面の光。
「……嘘だろう………」
『Japan』。
揺れる画面には、確かにその名が刻まれていた。
そっと応答ボタンに触れる。
「……日本?」
「あっ、スイスさん。こんばんは。」
電波の関係か、少しくぐもった声。
「あぁ。……その、暑いと聞いたが……元気か?」
「はい、どうにか。……スイスさんの方は涼しいと聞きました。」
「まぁな。お前の所が格段に暑いんだろう。」
ふふっ、確かに。と、笑いで揺れる声がダイレクトに鼓膜を揺さぶる。
季節の文のようなやりとりをしていると言うのに、情事の最中そっくりな声の近さに耳が熱くなってしまった。
「……あの。」
少し、ためらうような声。
「お誕生日、おめでとうございます。」
その言葉に、息が止まった。
比喩ではなく、本当に。
何も言っていなかったのに。
いや、日本はそういう律儀な奴だ。それでそんな所が……
「………ありがとう。」
お前のそういう所が大好きだ。
言えなかった言葉は深く飲み込んで、幾分か和らげた声に全てを託す。
「……こっちは日の落ちる前だが、日本はもう寝る時間じゃないのか?」
「まぁ、はい。……でも、どうしても言いたくて。声だけしか届けられないから。」
日本は、照れたように語尾を弱くした。
「声だけでいい。……ひとりじゃないと思える。」
本当は、ぬくもりが欲しかった。
柔らかな肌に触れたかった。
もつれあって、ひとつになって。
濡れる瞳を見たかった。
好き、と繋がりながら交わしたかった。
けれど、やはり彼の前では背伸びをする他ない。
「ありがとう、日本。」
静かな山に、声ふたつ。
見えない糸に繋がれた電話は、夜の更ける頃。
彼が寝てしまうまで、途切れなかった。
コメント
5件
ごめんなさい!書き終わってないのに間違えて送信してしまいました…ありがとうございます!とっても素敵な作品がたくさんあって、いつも楽しませていただいています!
にわかさんの小説、やっと全部読み終わりました…! 投稿頻度も高くて、凄いなって思ってます! そして、こんな神作が隠れていたとは…!今まで知らなかった事に後悔してます… また楽しみにしておきますね!